128 / 199
第5章 12 対面
しおりを挟む
「どうもお待たせいたしましたわ。私が当主のアグネス・シュバルツと申します」
「娘のエーリカです」
「アリオス・チェスターです。始めまして」
アリオスは立ち上がると愛想笑いの笑みを浮かべた。
「いえ、どうぞ遠慮なさらずにお掛けになって下さい」
アグネスは満面の笑みを浮かべながら素早くアリオスの身なりを観察した。
(とても上質な服を着ているわ…あのメイドの話す通り、貴族に間違いないわね。しかも相当名門の…)
一方のエーリカはもうアリオスに目を奪われていた。
(ああ・・・・こうして間近で見ると、ますます美しいわ。なんて素敵な方なのかしら。アンドレアも良かったけど、こちらの方の方が威厳があって何処か神々しい方だわ)
惚れっぽいエーリカは応接室の入り口でアリオスの様子を伺っている段階で、その容姿に一目ぼれしてしまっていたのだ。
「ところで、チェスター様は‥‥ご出身はどちらなのでしょうか?」
アグネスは探りを入れる為に早速質問した。
「私は『ミュゼ』からやってきました」
「まぁ!『ミュゼ』ですかっ?!あの子息令嬢達の憧れの都のっ?!確か王宮もあるのですよねっ?!」
エーリカが興奮のあまり、立ち上がった。
「ええ、そうですよ」
アリオスは笑みを浮かべながら答えた。
「そ、それではアリオス様の爵位を教えて頂けますか?」
「エーリカッ!」
アグネスはエーリカをたしなめながら心の中で舌打ちした。
(全く、いつもそうやってがっついて本当に困った娘だわ。だからいつも男から結局逃げられるのよ。もっと私みたいにうまく立ち回れるようにならなければ、パトロンだってみつけられないわ。何とか娘の無作法をごまかさないと!)
「ところで、アリオス様。本日はどのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
「ええ、実は先程弟と家庭教師を連れてこの町の観光名所である湖の美しい公園へ行って来たのです。そこで管理人の方に話を伺ったのです。この公園を管理しているのはシュバルツ家だと言う事を。ただ、最近公園管理に予算を掛ける事が出来ずに整備が行き届かないと言われたので、お話を聞きたくて参りました」
「え…?」
アグネスはその話にピクリと反応した。
「見た処…このお屋敷は随分ガランとしておりますね。装飾品や絵画…そういったものが一切置かれていない。贅沢をされず、質素な生活を送られているのかと思えば‥お2人は随分高価なアクセサリーにドレスを着用しておりますね?ひょっとすると今から外出される予定でもありましたか?」
アリオスは事前に聞いていた。シュバルツ家に入り込んだスカーレットの義母と義妹はスカーレットを追い出した後、自分達にとって不必要と思える装飾品や絵画を売り払い、ドレスやアクセサリーを手当たり次第に買い漁っていると。そして今、目の前に対面する2人。ネックレスやイヤリング、指輪と言ったアクセサリー一式を身に着けてアリオスと対面している。
見た処、使用人の数も圧倒的に足りていないのか、部屋の掃除も行き届いておらず、薄っすら埃がたまっている。現に床の上には綿ぼこりがたまっている。
(このような部屋に客を通すとは…一体この屋敷の管理はどうなっているのだ?!)
「い、言え。外出の予定はないのですが、先ほども客人が来ておりましたので、一家の大黒柱を失ってしまった私達が下に見られないように武装しているのです。正直に申し上げますと。我が家の家計は火の車なのですよ」
「左様でしたか。それでは私から援助させてください」
「まぁ!援助ですかっ?!」
アグネスは耳を疑った。
「ありがとうございますっ!」
エーリカは大喜びして、心の中で思った。
(ついに見つけたわ…!彼こそ私の運命の相手なのだわ!)
愚かなエーリカは心の中ですでにアリオスとの結婚生活を想像していた。
「ええ、勿論です。お困りなのですよね?なのでシュバルツ家が管理している公園の管理費用は私が直接、支払いさせて頂きます。」
「え?公園の管理費用ですか…?」
拍子抜けしたようにアグネスは尋ねる。
「ええ、そうです。先程公園を訪れたのですが、芝生は荒れていたし、あちこち老朽化していた施設がありましたから、是非協力させて下さい」
「で、ですが…公園なんて…!」
エーリカが言いかけた時、アグネスは素早くエーリカを肘で小突くと言った。
「ええ、ありがとうございます。ではその管理費用は私達がお預かりいたします」
アグネスはそのお金を横取りしようと考えていた。
「いいえ、それには及びません。全て私の方で行います。では話も済みましたので私はこれで帰ります」
アリオスは立ち上がった。
「え?!そ、そんな!もうお帰りになるのですかっ?!」
「ええ!せめてお夕食でも食べて行って下さい!」
アグネスとエーリカは必死でアリオスを止めようとした。何とかアリオスと親交を深め、あわよくばパトロンか、もしくはエーリカの夫になって貰いたいと愚かな願いがあった。
しかし、アリオスは冷たい声で言った。
「いいえ、弟と婚約者を待たせているので失礼します」
「「婚約者…?」」
呆然とする2人を残し、アリオスは足早に部屋を出て行った―。
「娘のエーリカです」
「アリオス・チェスターです。始めまして」
アリオスは立ち上がると愛想笑いの笑みを浮かべた。
「いえ、どうぞ遠慮なさらずにお掛けになって下さい」
アグネスは満面の笑みを浮かべながら素早くアリオスの身なりを観察した。
(とても上質な服を着ているわ…あのメイドの話す通り、貴族に間違いないわね。しかも相当名門の…)
一方のエーリカはもうアリオスに目を奪われていた。
(ああ・・・・こうして間近で見ると、ますます美しいわ。なんて素敵な方なのかしら。アンドレアも良かったけど、こちらの方の方が威厳があって何処か神々しい方だわ)
惚れっぽいエーリカは応接室の入り口でアリオスの様子を伺っている段階で、その容姿に一目ぼれしてしまっていたのだ。
「ところで、チェスター様は‥‥ご出身はどちらなのでしょうか?」
アグネスは探りを入れる為に早速質問した。
「私は『ミュゼ』からやってきました」
「まぁ!『ミュゼ』ですかっ?!あの子息令嬢達の憧れの都のっ?!確か王宮もあるのですよねっ?!」
エーリカが興奮のあまり、立ち上がった。
「ええ、そうですよ」
アリオスは笑みを浮かべながら答えた。
「そ、それではアリオス様の爵位を教えて頂けますか?」
「エーリカッ!」
アグネスはエーリカをたしなめながら心の中で舌打ちした。
(全く、いつもそうやってがっついて本当に困った娘だわ。だからいつも男から結局逃げられるのよ。もっと私みたいにうまく立ち回れるようにならなければ、パトロンだってみつけられないわ。何とか娘の無作法をごまかさないと!)
「ところで、アリオス様。本日はどのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
「ええ、実は先程弟と家庭教師を連れてこの町の観光名所である湖の美しい公園へ行って来たのです。そこで管理人の方に話を伺ったのです。この公園を管理しているのはシュバルツ家だと言う事を。ただ、最近公園管理に予算を掛ける事が出来ずに整備が行き届かないと言われたので、お話を聞きたくて参りました」
「え…?」
アグネスはその話にピクリと反応した。
「見た処…このお屋敷は随分ガランとしておりますね。装飾品や絵画…そういったものが一切置かれていない。贅沢をされず、質素な生活を送られているのかと思えば‥お2人は随分高価なアクセサリーにドレスを着用しておりますね?ひょっとすると今から外出される予定でもありましたか?」
アリオスは事前に聞いていた。シュバルツ家に入り込んだスカーレットの義母と義妹はスカーレットを追い出した後、自分達にとって不必要と思える装飾品や絵画を売り払い、ドレスやアクセサリーを手当たり次第に買い漁っていると。そして今、目の前に対面する2人。ネックレスやイヤリング、指輪と言ったアクセサリー一式を身に着けてアリオスと対面している。
見た処、使用人の数も圧倒的に足りていないのか、部屋の掃除も行き届いておらず、薄っすら埃がたまっている。現に床の上には綿ぼこりがたまっている。
(このような部屋に客を通すとは…一体この屋敷の管理はどうなっているのだ?!)
「い、言え。外出の予定はないのですが、先ほども客人が来ておりましたので、一家の大黒柱を失ってしまった私達が下に見られないように武装しているのです。正直に申し上げますと。我が家の家計は火の車なのですよ」
「左様でしたか。それでは私から援助させてください」
「まぁ!援助ですかっ?!」
アグネスは耳を疑った。
「ありがとうございますっ!」
エーリカは大喜びして、心の中で思った。
(ついに見つけたわ…!彼こそ私の運命の相手なのだわ!)
愚かなエーリカは心の中ですでにアリオスとの結婚生活を想像していた。
「ええ、勿論です。お困りなのですよね?なのでシュバルツ家が管理している公園の管理費用は私が直接、支払いさせて頂きます。」
「え?公園の管理費用ですか…?」
拍子抜けしたようにアグネスは尋ねる。
「ええ、そうです。先程公園を訪れたのですが、芝生は荒れていたし、あちこち老朽化していた施設がありましたから、是非協力させて下さい」
「で、ですが…公園なんて…!」
エーリカが言いかけた時、アグネスは素早くエーリカを肘で小突くと言った。
「ええ、ありがとうございます。ではその管理費用は私達がお預かりいたします」
アグネスはそのお金を横取りしようと考えていた。
「いいえ、それには及びません。全て私の方で行います。では話も済みましたので私はこれで帰ります」
アリオスは立ち上がった。
「え?!そ、そんな!もうお帰りになるのですかっ?!」
「ええ!せめてお夕食でも食べて行って下さい!」
アグネスとエーリカは必死でアリオスを止めようとした。何とかアリオスと親交を深め、あわよくばパトロンか、もしくはエーリカの夫になって貰いたいと愚かな願いがあった。
しかし、アリオスは冷たい声で言った。
「いいえ、弟と婚約者を待たせているので失礼します」
「「婚約者…?」」
呆然とする2人を残し、アリオスは足早に部屋を出て行った―。
2
お気に入りに追加
713
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います
***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。
しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。
彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。
※タイトル変更しました
小説家になろうでも掲載してます
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる