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第3章 14 アリオスの頼み
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晩餐会の終了後、レイヤー夫妻が最初に退席した。その後をスカーレットはカールと部屋に戻ろうとした時にアリオスに声を掛けられた。
「すまないが、スカーレット。君に話があるんだ。少し残って貰えるか?」
「はい、分かりました」
「あの、僕は…?」
カールが尋ねるとアリオスは言った。
「カール、お前は先に部屋に戻っていろ。スカーレットは俺が後で部屋まで送る」
「分かりました」
カールは返事をすると次にスカーレットを見た。
「ではスカーレット様。おやすみなさい。お兄様、失礼致します」
「ええ、カール様。また明日お会いしましょうね?」
「はい」
2人は挨拶を交わすと、カールは部屋へと帰って行った。そしてレセプションルームに残されたのはアリオスとスカーレット、そして控えている2人のメイドである。
「あの、お話というのは一体何でしょうか?」
「ああ。実は頼みがあるんだ」
「頼み…ですか?」
「レイヤー男爵夫妻が王宮で開催されるパーティーに出席するために『ミュゼ』にやってきた事は知っているだろう?」
「ええ、存じております」
「そのパーティーだが、俺にも招待状が届いているんだ」
アリオスは困ったように言う。
「そうなんですね」
「このパーティーなんだが…王宮では俺がいつまでも1人でいることが気がかりらしいのだ。そこで独身の貴族令嬢達を集めて、その中から俺の妻を選ぼうとしている」
「それはおめでたいことですね。アリオス様ならすぐに良いお相手が見つかりそうでうね」
スカーレットは素直な気持ちで言った。しかし、何故かアリオスの顔は曇っている。
「俺は…まだ誰とも結婚する気は無いんだ。それなのに皇族の連中はどうやっても俺を結婚させようと躍起になっている。はっきり言って迷惑だ。貴族令嬢たちに毎回取り囲まれるのもうんざりだ」
アリオスはため息を付きながら言う。その顔は心底迷惑そうに見えた。
「まあ、そうなのですか?」
「そこでスカーレット、君にいっしょにパーティーにパートナーとして参加してもらいたいんだ」
「え?私にですか?」
「ああ、そうだ。パートナーが一緒にいれば女性たちは寄って来ることも無いし、王族から結婚を急かされることもないからな。どうだろうか?一緒に来てくれれば君に特別手当を支払うつもりだ。」
「特別手当ですか…?」
スカーレットはいつか必ずシュバルツ家に戻るつもりだった。アグネスによってどれほど財産が散財されてしまったかは分からないが、もし家紋が傾きかけているならば、何とか立て直しをしたいと考えていた。その為にはお金を貯めなければ人常日頃から考えていた。しかし…。
「ですが…私はこの年でまだ一度もパーティーに参加した事はありません。ダンスも踊れませんし…」
「ダンスは別に踊らなくても構わない。俺も踊るつもりは一切無いからな」
「まあ、そうだったのですか?」
「ああ。俺はああいうものは大嫌いでな。貴族同士の集まりに参加することがあってもダンスを伴うパーティーには一度も参加したことはない。ダンスの時間になる頃には2人で行方をくらませばよいだろう。最も…このようなこと、スカーレットに頼みのは物凄く酷な事だとは思っている。なにしろ君は男性恐怖症だからな」
「…」
スカーレットは黙ってしまった。何故かここ最近スカーレットはアリオスに対しては恐怖心を抱かなくなっていた。それは恐らくカールの兄であり、彼を大切にしていることが理解出来たからであった。しかし、この場でアリオスにだけは恐怖心を感じないと言う事がはばかられてしまった。そんな事を言えば、はしたない人間に見られてしまうのでは無いかと思えたからであった。
「どうしても無理というのであれば、遠慮なく言ってくれ。君に無理強いはしたくないからな」
アリオスは言った。その言葉にスカーレットは決心した―。
「すまないが、スカーレット。君に話があるんだ。少し残って貰えるか?」
「はい、分かりました」
「あの、僕は…?」
カールが尋ねるとアリオスは言った。
「カール、お前は先に部屋に戻っていろ。スカーレットは俺が後で部屋まで送る」
「分かりました」
カールは返事をすると次にスカーレットを見た。
「ではスカーレット様。おやすみなさい。お兄様、失礼致します」
「ええ、カール様。また明日お会いしましょうね?」
「はい」
2人は挨拶を交わすと、カールは部屋へと帰って行った。そしてレセプションルームに残されたのはアリオスとスカーレット、そして控えている2人のメイドである。
「あの、お話というのは一体何でしょうか?」
「ああ。実は頼みがあるんだ」
「頼み…ですか?」
「レイヤー男爵夫妻が王宮で開催されるパーティーに出席するために『ミュゼ』にやってきた事は知っているだろう?」
「ええ、存じております」
「そのパーティーだが、俺にも招待状が届いているんだ」
アリオスは困ったように言う。
「そうなんですね」
「このパーティーなんだが…王宮では俺がいつまでも1人でいることが気がかりらしいのだ。そこで独身の貴族令嬢達を集めて、その中から俺の妻を選ぼうとしている」
「それはおめでたいことですね。アリオス様ならすぐに良いお相手が見つかりそうでうね」
スカーレットは素直な気持ちで言った。しかし、何故かアリオスの顔は曇っている。
「俺は…まだ誰とも結婚する気は無いんだ。それなのに皇族の連中はどうやっても俺を結婚させようと躍起になっている。はっきり言って迷惑だ。貴族令嬢たちに毎回取り囲まれるのもうんざりだ」
アリオスはため息を付きながら言う。その顔は心底迷惑そうに見えた。
「まあ、そうなのですか?」
「そこでスカーレット、君にいっしょにパーティーにパートナーとして参加してもらいたいんだ」
「え?私にですか?」
「ああ、そうだ。パートナーが一緒にいれば女性たちは寄って来ることも無いし、王族から結婚を急かされることもないからな。どうだろうか?一緒に来てくれれば君に特別手当を支払うつもりだ。」
「特別手当ですか…?」
スカーレットはいつか必ずシュバルツ家に戻るつもりだった。アグネスによってどれほど財産が散財されてしまったかは分からないが、もし家紋が傾きかけているならば、何とか立て直しをしたいと考えていた。その為にはお金を貯めなければ人常日頃から考えていた。しかし…。
「ですが…私はこの年でまだ一度もパーティーに参加した事はありません。ダンスも踊れませんし…」
「ダンスは別に踊らなくても構わない。俺も踊るつもりは一切無いからな」
「まあ、そうだったのですか?」
「ああ。俺はああいうものは大嫌いでな。貴族同士の集まりに参加することがあってもダンスを伴うパーティーには一度も参加したことはない。ダンスの時間になる頃には2人で行方をくらませばよいだろう。最も…このようなこと、スカーレットに頼みのは物凄く酷な事だとは思っている。なにしろ君は男性恐怖症だからな」
「…」
スカーレットは黙ってしまった。何故かここ最近スカーレットはアリオスに対しては恐怖心を抱かなくなっていた。それは恐らくカールの兄であり、彼を大切にしていることが理解出来たからであった。しかし、この場でアリオスにだけは恐怖心を感じないと言う事がはばかられてしまった。そんな事を言えば、はしたない人間に見られてしまうのでは無いかと思えたからであった。
「どうしても無理というのであれば、遠慮なく言ってくれ。君に無理強いはしたくないからな」
アリオスは言った。その言葉にスカーレットは決心した―。
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