母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
55 / 199

第2章 1 新天地『ミュゼ』

しおりを挟む
 12時半―

『ミュゼ』の駅に降り立ったスカーレットとブリジットはあまりの人の多さに驚いていた。

「まあ・・なんて人混みなのでしょう。スカーレット様、大丈夫ですか?」

駅のベンチにぐったりと腰を下ろしているスカーレットにブリジットは心配そうに声を掛けた。

「え、ええ・・・大丈夫よ、ブリジット・・・。」

しかし、帽子を目深にかぶったスカーレットの顔は真っ青で今にも倒れそうだった。

「だ、大丈夫ですかっ?!スカーレット様っ!どこか体調でも悪いのですかっ?!」

ブリジットは慌ててスカーレットを支えた。

「え、ええ・・・大丈夫・・・た、ただ・・・男の人たちが・・・。」

スカーレットはカタカタ震えながら言う。

「あ・・・」

ブリジットはスカーレットを抱きかかえるようにあたりを見渡した。駅は大勢の人々でごった返していたが、その大半は男性だったのだ。

「スカーレット様・・・。」

ブリジットの腕の中で震えるスカーレットを見て彼女は思った。

(しまった・・・うかつだったわ。汽車の中では個室のボックス席を確保したから安心していたけども・・・ここは大都会『ミュゼ』の町。貴族ばかりが住む町なので利用客も多い・・・男性たちの事まで考えていなかったわ・・・。とにかく一刻も早く人が少ない場所に移動しなくてはっ!)

「スカーレット様・・・大丈夫ですか?立てますか?」

「え、ええ・・だ、大丈夫・・・よ・・」

青ざめた顔で笑みを浮かべるスカーレットは今にも倒れそうに見えた。

「とにかく・・まずは駅を出ましょう。ここは・・人が多すぎます。さ、私におつかまり下さい。」

ブリジットはか細いスカーレットの身体を支えながら言った―。


 何とか駅を出た2人は駅前広場の木陰の下のベンチに座っていた。ここはあまり人も多くなく、周囲にいるのは子供連れの母親が多かった。

「どうですか?スカーレット様・・少しは落ち着かれましたか?」

駅前広場のドリンクスタンドで飲み物を買ってきたブリジットはスカーレットにアイスティーを手渡しながら尋ねた。

「え、ええ・・だいぶ落ち着いたわ・・あと少し休めば大丈夫よ。」

だいぶ顔色が落ち着いたスカーレットの姿をブリジットはまじまじと見つめた。
今は新緑の季節、5月―。
日差しもだいぶ夏らしい陽気になり、若い娘たちは皆襟元が大きく開いた半そでのドレスに衣替えをしているというのにスカーレットのドレスはそうではなかった。
首元迄もがしっかり覆われたドレスは長袖で手首まですっかり覆われている。丈の長いロングドレスはくるぶしまで届く長さで、足元は編み上げのショートブーツを履いている。まるで雪解けの頃の季節か、秋の始まりの頃のような装いである。
つまり、スカーレットの着ているドレスは、極力肌を見せないデザインのドレスなのであった。

スカーレットはアンドレアに危うく貞操を奪われそうになってからは決して必要以上に肌をさらけ出すことを極度に恐れるようになっていたのである。
そして周囲の目を始終気にかけ・・おどおどする姿はまるで生まれたばかりのひな鳥のように見えた。

(アンドレア様・・・お恨み申し上げます・・っ!)

もし命を差し出せば時間を戻せると言われたなら、ブリジットは喜んで命をさしだしただろう。それだけ・・アンドレアは取り返しのつかない事をスカーレットに行ってしまったのである。

「どうしたの?ブリジット。」

その時、不意にスカーレットが尋ねてきた。

「え?私が何か?」

「ええ・・・何だかぼーっとしているように見えたから・・。」

「いえ、何でもありません。大丈夫ですよ。それでは・・そろそろチェスター家へ向かいましょうか?」

ブリジットは笑みを浮かべてスカーレットを見つめた―。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...