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第1章 47 母娘の口論

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「アーベル様、本当に今すぐ出ていくおつもりですか?」

追いかけて来たブリジットは前を歩くアーベルに尋ねる。

「ええ、勿論です。」

自室に辿り着き、ドアを開けて中へ入るアーベルをブリジットは追いかけて部屋に入ってしまい、ハッとなった。すでに彼の部屋は綺麗に片付けられ、床にはいくつものトランクケースが置かれていたからだ。

「アーベル様・・・もうこの、屋敷を出る準備は終わっていたのですね?」

「はい、そうです。もう・・・先方の御屋敷では私を待って下さっています。」 

「そうですか。では今出発されるのですね?寂しくなります。」

するとアーベルは言った。

「ブリジット様。こちらが私の新しく勤める住所でございます。これが別れとは私は思いません。いつか必ずこのシュヴァルツ家で再会致しましょう。私は・・・決して諦めません。あの悪女から・・・必ずこの御屋敷を取り戻します!」

「アーベル様・・・。ええ、そうですね。いつか必ず・・・!」

そしてアーベルとブリジットは固く握手をし・・・アーベルは荷台つきの馬車を自ら駆り・・・10年以上勤めていたシュバルツ家を去って行った。


「さよなら・・・アーベル・・・。」

スカーレットはアーベルを乗せた荷馬車が屋敷から走り去って行く姿を自室の窓から見送り、ポツリと呟いた。本来ならアーベルはスカーレットにとって・・かけがえのない、兄のような存在であった。しかしアンドレアに襲われかけた事で男性への恐怖が植えつけられ・・・アーベルの見送りに顔を出す事が出来なかったのだ。

(ごめんなさい・・・!アーベル・・ッ!)

スカーレットはレースのカーテンを握りしめ・・・1人静かに涙した―。



****

バンッ!

アグネスの部屋のドアが開けられ、血相を変えたエーリカがアグネスの部屋へと入って来た。

「どういう事なのっ?!お母さんっ!」

「何よ・・・うるさいわねえ・・。」

集めた使用人全員からこの屋敷を辞めという宣言を出されたアグネスはすっかり哉探れた気分で、1人昼間からワインの瓶を空けていた。

「何よじゃないわよっ!用事があってベルでメイドを呼んでも誰も来ないのよっ!それでこっちから使用人たちの住む居住部屋へわざわざ足を運んでやったら・・皆荷造りしているじゃないっ!それでもうこの屋敷の使用人じゃないから一切命令は聞かないって言ったのよ?!」

「うるさいわねっ!少しは静かに出来ないの?!こっちはこれから新しい使用人の募集をかけなくちゃいけないって言うのに・・・。この人手不足の御時世・・新しい使用人がすぐに決まるかどうかも分らないのに・・!」

アグネスは言いながら、グイッとワインを煽るように飲み干した。

「ね、ねえ・・・ま、まさか・・・厨房の使用人たちも・・辞めるなんてことは・・無いわよね・・?」

エーリカは時計を見ながら言う。時計はもう12時になろうとしている。

「少しも食事が用意されるような状況に思えないのよっ!」

エーリカが喚く。

「うるさいわねっ!だったらお前が1人で厨房の様子を見てくればいいじゃないのっ!私はもう・・・胸がいっぱいでこのワインだけでいいわ。」

そして再び空になったグラスにアグネスはワインを注いだ。

「な・・何よっ!昼間から・・・アル中女めっ!もし食事の用意が出来ていても・・あんたにはやらないからねっ?!」

とても実の母娘とは思えぬ激しい言い争いを繰り広げた2人。

そしてエーリカは乱暴にドアを開けると大股で厨房へ向かって歩いて行った―。
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