上 下
35 / 199

第1章 32 婚礼衣装

しおりを挟む
 翌日―

全く気乗りのしない結婚式の衣装選びにアンドレアは駆り出されていた。
朝食後、有無を言わさずにアグネスが用意した馬車に押し込まれ、エーリカも含めて3人で馬車に揺られて町へと向かっていた。

エーリカは憧れのウェディングドレスを選びに行くという事で、すっかり浮かれていて、アンドレアの様子に全く気が付いていない。一方のアンドレアというと、暗い・・うつろな表情で馬車の窓から見える湖の景色をじっと見つめている。

(まずいわね・・・・。エーリカはすっかり結婚式の事で浮かれているけれども・・・アンドレアの心はエーリカには向いていないわ。結局・・この男はスカーレットを愛しているという事なのね・・・。)

アグネスは身体さえ結ばれてしまえば、心など後でついてくるものだと思っていた。大体、エーリカには明かしてはいないが娘の父親だって誰が相手なのか分からないくらいだったのだから。男は皆単純だ・・。アグネスの頭の中にはすっかりその考えが固定されていた。実際アグネスの経験上・・今まで出会ってきた男は皆そうだったからだ。たった1人を除いては・・・。

(何としても早急にスカーレットをあの屋敷から追い払わないと・・安心して結婚生活を送らせてあげる事が出来ないわ・・・。全く・・どこまでも憎たらしい娘ね・・・。)

アグネスは勝手にスカーレットへの憎悪を膨らませているのだった―。



****

「いらっしゃいませ!ようこそ起こしいただきましたっ!」

この町で唯一の婚礼衣装を専門に扱う仕立て屋にエーリカとアグネス。そして心底つまらなそうなアンドレアがいた。

「わぁ~・・どれも何て素敵なドレスばかりなの・・?ねぇ、アンドレア様。どのドレスがいいと思う?」

エーリカは浮かれながらアンドレアに尋ねるが、彼の答えはそっけないものだった。

「さあ・・?僕にはよくわからないから・・君の好きなドレスを選んでいいよ。君ならどんなウェディングドレスを着ても似合うと思うよ。」

「まあ?本当に?嬉しいわ・・・アンドレア様。」

エーリカはアンドレアの心の内を知らず、笑顔を見せた。
しかし、一方のアンドレアは頭の中では美しいスカーレットの事しか考えていなかった。

(スカーレット・・・どうしてこんな事になってしまったんだろう・・君との結婚をずっと待ち望んでいたのに・・・・僕の隣に立つ女性は・・スカーレットだけだと今まで信じていたのに・・・。)

アンドレアはエーリカと同じ時間を過ごせば過ごすほど・・・彼女の教養や、デリカシーの無さに嫌気がさしていたのだ。そしてさらに本音を言えば・・すでにエーリカの身体にも興味を失っていた。やはり愛する女性でなければ身体だって飽きてしまうのだという事をアンドレアは初めて実感したのだった。

アンドレアが深いため息をつく様子をアグネスはじっと見つめていた。

(まずいわ・・・。こうなったら一刻も早く式を挙げなければならないわ。せめて体裁だけでも整えておかなければ・・・。)


そこでアグネスは男性用の婚礼衣装が吊り下げられている場所へ来るとアンドレアに声をかけた。

「アンドレア様。後2日以内に式を挙げるのだから、貴方も衣装を選んでくださいな。」

その言葉にアンドレアは驚き、絶望的な目でアグネスを見つめた。

「ま、待ってください。いくら何でも・・後2日以内なんて・・。」

するとアグネスは言った。

「アンドレア様を・・逃がさない為ですよ?」

と—。





しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

その婚約破棄本当に大丈夫ですか?後で頼ってこられても知りませんよ~~~第三者から見たとある国では~~~

りりん
恋愛
近年いくつかの国で王族を含む高位貴族達による婚約破棄劇が横行していた。後にその国々は廃れ衰退していったが、婚約破棄劇は止まらない。これはとある国の現状を、第三者達からの目線で目撃された物語

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした

あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。 しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。 エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。 薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。 ――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

処理中です...