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第1章 17 目にしたくなかったもの
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それから約1時間後の事―
スカーレットは自室のバルコニーに丸テーブルと背もたれ付きの椅子を出し、木陰で翻訳の仕事をしていた。5月の初夏のさわやかな風と木々のざわめきはスカーレットの心を落ち着かせ、少しだけ不安や悲しみの気持ちを和らげてくれた。
今、スカーレットが手掛けている仕事は大学の論文を翻訳する仕事だった。論文は専門用語も多く、難しい。気の抜けない仕事ではあったが普通の翻訳の仕事よりも単価が多く貰えるので、スカーレットは自ら進んで仕事を受けていた。
「・・・。」
辞書を片手に紙にペンを走らせていると、ふと賑やかな声が聞こえて来た。
「あら・・?何かしら・・。」
スカーレットは立ち上がり、バルコニーから下を覗き込んだ。するとそこには腕を組み、ピタリと寄り添うように屋敷へ戻って来るアンドレアとエーリカの姿があったのだ。胸元を強調するようなドレスを着ているエーリカはまるでアンドレアの腕を自身の胸に押し付けるように腕を組んでいる。そしてアンドレは照れる仕草をしているのが3階のバルコニーにいるスカーレットの目に映った。
「!」
スカーレットは息を飲み・・すぐに視線を逸らせた。そして目に涙を浮かべた。
「そ、そんな・・・アンドレア様・・・。」
スカーレットはふらふらと足元もおぼつかない状態で先程自分が座っていた椅子に腰をお降ろした。呼吸が苦しく、まるで過呼吸を起こしそうだった。
仕事をしなければいけないのに、今はとてもでは無いが仕事をする状況では無かった。
「どうして・・?アンドレア様・・。貴方は私の婚約者では無かったの・・・?なのに・・何故・・・?」
スカーレットは茫然とその場に座っていた―。
****
正午―
コンコン
「スカーレットお嬢様、いらっしゃいますか?」
ブリジットはスカーレットの部屋のドアをノックした。しかし部屋からは何も返事が返ってこない。
「お嬢様・・・入りますね?」
心配になったブリジットはドアノブを回してスカーレットの部屋へと入った。いつもなら部屋の中央に置かれたテーブルに向かって仕事をしているはずなのに今日に限ってそこにはいない。眠っているのかと思いベッドへ行っても、もぬけの殻である。
「一体どちらへ・・・。」
その時にブリジットは気が付いた。部屋の南側に設置されたバルコニー。そこへ続く窓が開いている
「スカーレットお嬢様・・・?」
ブリジットはバルコニーへ出て・・・息を飲んだ。そこにはテーブルの上に突っ伏し、具合が悪そうに荒い息を吐いているスカーレットの姿があった。
「ス、スカーレット様っ!」
ブリジットは慌ててスカーレットに駆け寄り、額に手を当てると焼けるように熱くなっている。
「た、大変だわっ!」
ブリジットは慌てて部屋を飛び出し、フットマン達を呼びに走った―。
****
12時15分―
その頃ダイニングルームではアグネスとエーリカがずっとスカーレットが現れるのを今か今かと待っていた。仕事のあるアンドレアはエーリカを屋敷まで送った後、中には入らずにそのまま出勤していた。
「ねえ・・お母さま。いつになったらスカーレットは来るのかしら?私お腹空いたわ。もう食べてもいいんじゃないかしら。」
「お待ちなさい、エーリカ。そんな事をしては駄目よ。食事の時間が無ければスカーレットと話す機会は無いでしょう?」
「だけど・・・。」
尚も意見を言おうとするエーリカにアグネスは言った。
「いい?食事かと言うのはスカーレットにどちらが立場が上か言い聞かせる為に設けた席なのだから・・いずれにしても・・この家を完全に私たちの物にするまで続けるのだから・・・。」
そしてアグネスは笑みを浮かべた―。
スカーレットは自室のバルコニーに丸テーブルと背もたれ付きの椅子を出し、木陰で翻訳の仕事をしていた。5月の初夏のさわやかな風と木々のざわめきはスカーレットの心を落ち着かせ、少しだけ不安や悲しみの気持ちを和らげてくれた。
今、スカーレットが手掛けている仕事は大学の論文を翻訳する仕事だった。論文は専門用語も多く、難しい。気の抜けない仕事ではあったが普通の翻訳の仕事よりも単価が多く貰えるので、スカーレットは自ら進んで仕事を受けていた。
「・・・。」
辞書を片手に紙にペンを走らせていると、ふと賑やかな声が聞こえて来た。
「あら・・?何かしら・・。」
スカーレットは立ち上がり、バルコニーから下を覗き込んだ。するとそこには腕を組み、ピタリと寄り添うように屋敷へ戻って来るアンドレアとエーリカの姿があったのだ。胸元を強調するようなドレスを着ているエーリカはまるでアンドレアの腕を自身の胸に押し付けるように腕を組んでいる。そしてアンドレは照れる仕草をしているのが3階のバルコニーにいるスカーレットの目に映った。
「!」
スカーレットは息を飲み・・すぐに視線を逸らせた。そして目に涙を浮かべた。
「そ、そんな・・・アンドレア様・・・。」
スカーレットはふらふらと足元もおぼつかない状態で先程自分が座っていた椅子に腰をお降ろした。呼吸が苦しく、まるで過呼吸を起こしそうだった。
仕事をしなければいけないのに、今はとてもでは無いが仕事をする状況では無かった。
「どうして・・?アンドレア様・・。貴方は私の婚約者では無かったの・・・?なのに・・何故・・・?」
スカーレットは茫然とその場に座っていた―。
****
正午―
コンコン
「スカーレットお嬢様、いらっしゃいますか?」
ブリジットはスカーレットの部屋のドアをノックした。しかし部屋からは何も返事が返ってこない。
「お嬢様・・・入りますね?」
心配になったブリジットはドアノブを回してスカーレットの部屋へと入った。いつもなら部屋の中央に置かれたテーブルに向かって仕事をしているはずなのに今日に限ってそこにはいない。眠っているのかと思いベッドへ行っても、もぬけの殻である。
「一体どちらへ・・・。」
その時にブリジットは気が付いた。部屋の南側に設置されたバルコニー。そこへ続く窓が開いている
「スカーレットお嬢様・・・?」
ブリジットはバルコニーへ出て・・・息を飲んだ。そこにはテーブルの上に突っ伏し、具合が悪そうに荒い息を吐いているスカーレットの姿があった。
「ス、スカーレット様っ!」
ブリジットは慌ててスカーレットに駆け寄り、額に手を当てると焼けるように熱くなっている。
「た、大変だわっ!」
ブリジットは慌てて部屋を飛び出し、フットマン達を呼びに走った―。
****
12時15分―
その頃ダイニングルームではアグネスとエーリカがずっとスカーレットが現れるのを今か今かと待っていた。仕事のあるアンドレアはエーリカを屋敷まで送った後、中には入らずにそのまま出勤していた。
「ねえ・・お母さま。いつになったらスカーレットは来るのかしら?私お腹空いたわ。もう食べてもいいんじゃないかしら。」
「お待ちなさい、エーリカ。そんな事をしては駄目よ。食事の時間が無ければスカーレットと話す機会は無いでしょう?」
「だけど・・・。」
尚も意見を言おうとするエーリカにアグネスは言った。
「いい?食事かと言うのはスカーレットにどちらが立場が上か言い聞かせる為に設けた席なのだから・・いずれにしても・・この家を完全に私たちの物にするまで続けるのだから・・・。」
そしてアグネスは笑みを浮かべた―。
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