上 下
34 / 58

3-8 2人の悪女

しおりを挟む
若手の使用人が全員屋敷から消え去ったその日の翌朝―

「ライザッ!!何もかもアンタのせいよっ!この悪女めっ!」

朝早くから怒り猛ったカサンドラがまだ眠っていた私の寝具を引き剥がすとヒステリックに喚いた。

「何するのよっ!人がまだ眠っている時にっ!それにねえ、ライザッ!私は今迄どれ程貴女に嫌がらせを受けて来たと思っているの?しかも貴女のメイド達だって人の事を馬鹿にして・・・貴女の方が余程の悪女よっ!」

私は奪い返された寝具をカサンドラからもぎ取ると言い返した。

「そう・・・・だから仕返しで叔父様に言ったのね・・・?私がこの屋敷の若い男達に次々と手を出してるって・・・。」

手を出してる?そんな言い方は私はしていない。ただ父にカサンドラは様々な男性従業員達と恋仲になって来たと話しただけなのに?

「でも事実でしょう?自業自得よ、私が話さなくてもいずれ父にバレていたわよ。」

「うるさいっ!貴女が余計な事を話さなければ・・・うまくいっていたのに・・!それどころか学校まで辞めさせられたのよっ!」

髪を振り乱しながら、カサンドラはますますヒートアップしてくる。しかし・・・。

「え?学校を辞めさせられた?」

 それは少し驚きだった。だが、カサンドラの頭ではあの学校の授業についていけるはずは無いのだからそれは彼女に取ってはありがたい話であっただろう。だから私は言った。

「何よ、良かったじゃない。どうせあの学校の授業はカサンドラには難し過ぎてついていけなかったんだから・・それに友達だっていなかったでしょう?むしろ辞めさせてくれた事を感謝した方がいいんじゃないの?」

肩をすくめながら言うと、突然カサンドラは手を上げると私の右頬を平手打ちして来た。

パンッ!

乾いた音が部屋に響き渡る。それはほんの一瞬の出来事だった。

「な・・何するのよっ!」

ジンジンと痛む右頬を押さえながら私は抗議した。

「それはこっちの台詞よっ!私が・・・何の為に辛い思いをしてまであの学校に通っていたと思うの?あの学校には・・・素敵な男性教師が沢山いたのに!もう・・会えなくなったじゃないのっ!折角うまくいっていたのに・・・。」

そしてカサンドラは両手で顔を覆うと肩を震わせた。え・・・?ちょっと待って・・?ひょっとするとカサンドラは男性教師とも・・・?

「ま、まさか・・・カサンドラ・・貴女、学校の先生にまで・・・?」

私は青ざめた顔でカサンドラを見上げた。

「ええ!そうよっ?!何がいけないの?教師と恋愛しては駄目なの?大体叔父様がいけないのよっ!社交パーティーには参加させて貰えた事は無いし、私の年齢ならとっくにお見合い話がきていたり、婚約者がいてもおかしく無いのに、そんな話すら今迄一度も出た事が無いのよっ!だったら自分で手近な男を狙うしかないでしょう?!なのに・・ライザ、あんたのせいで・・・全て露呈してしまったのよっ!」

「そんな事知らないわっ!自業自得でしょうっ?!」

もうこれ以上カサンドラの乱れ切った男の話を聞くのはうんざりだ。母といい、カサンドラといい、この2人は血の繋がりが無いのに、男にだらしないのはまるで親子のようだ。

「うるさいっ!兎に角あんたのせいで何もかも滅茶苦茶よっ!今迄あんたに渡した金貨を返してよっ!確か既に13枚渡しているはずよっ!」

カサンドラは手のひらを差し出してきたが、私はそっぽを向いた。

「そんな事は知らないわ。大体金貨はここにはないから。疑うなら探してみたら?」

「無い?一体どういう事よ?」

カサンドラは腕組みをした。私はそんな彼女を見て口角を上げた。

「本当に馬鹿なカサンドラね。いい?ここの屋敷にいる人間は皆私の敵なのよ?そんな敵地で大事なお金を置いておくはず無いでしょう?現に貴女の2匹の飼い猫は既に悪さをしているのよ?以前は私のスケッチブックにインクをわざとこぼしたし、昨日は歩いていた時、いきなりバケツで水を掛けられたのよ?」

そう、それは昨日の事だった。私が外の敷地の渡り廊下を歩いていると、突然2人のカサンドラのメイドが現れて、バケツの水を人の身体にぶちまけてくれたのだ。勿論私は激怒したが、彼女達は庭の水まきをしていただけだと譲らず、謝罪も無かった。どうせカサンドラの差し金に違いないはずだが。

「ふん!そんな話は知らないわ。それよりも金貨を早く出しなさいっ!」

「私の財産を管理してくれる然るべき人に預けてあるのよ。だから無理ね。」

こんな事もあろうかと私は町で財務管理を仕事にしている人物に預けてあるのだ。

「く・・・っ!お、覚えていなさいっ!そんな風に強がっていられるのも後一カ月なんだからねっ!」

それだけ言い残すとカサンドラは身を翻して出て行った。1人残された私は溜息をついた。

後一カ月・・やはりそれはエンブロイ侯爵と私の事を言っているのだろうか?でも・・・まだ何か忘れている重要な事があったはず・・・。

そしてその一カ月後・・・とんでもない事が起こるとはこの時の私はまだ何も気づいてはいなかった―。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした <モンタナ事件から18年後の世界の物語> 私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―! ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

処理中です...