虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
22 / 58

2-8 シェフと悪女

しおりを挟む
 厨房では屋敷に仕えるシェフの他に10人の料理人がいる。そして私にだけ粗末な料理を提供するように言いつけをしているのは・・・シェフのヤコブに違いない。
彼は15歳の時から我が家の料理人として父に忠実に仕えている。そしてヤコブは自分の仕事を愛してやまない男だ。それを使用人以下の粗末な食事を仮にも伯爵令嬢である私に嫌がらせの為に作るように父に命じられているのだから、恐らくは不本意ながら渋々言う事を聞いているに違いない・・・と、私は信じたい。

 私は厨房のドアをノックもせずに引き戸を開けた。

「うわっ!な、なんなんですかっ?!ライザ様っ!」

恐らく一番下っ端であろう料理人の若い男が私を見て顔色を青ざめさせた。厨房にはほぼ全員の料理人が揃っており、皆忙しそうに仕事をしている。大鍋の中にはぐつぐつと何かが煮えており、良い匂いが辺りに漂っている。
奥では大きな肉の塊をさばいている料理人もいた。ふ~ん・・・あれが恐らく今夜のメインディッシュなのだろう・・・。だが、一度たりとも私のテーブルにはあのような食事が並んだ事は無い。
私は腕組みをすると、私の側でビクビクしている先程の料理人に話しかけた。

「貴方・・・名前は?」

「は、はい・・・ビルと・・・いいま・・・。」

茶髪の髪にそばかす蛾の頃まだあどけない姿を見る限り、まだ少年なのかのもしれない。

「そう、ならビル。シェフのヤコブを呼んで来てくれる?」

「ええっ!そ、そんな・・・い、今はとても忙し時間で・・・。」

ビルはビクビクしながら私を見た。

「貴方・・・私が誰だか分かっているの?一応私はライザ・グランチェスター。この伯爵家の娘なのよ?たかだか一介の平民の使用人がそんな口を叩いていいと思っているの?」

ジロリと睨み付けると、ビルは顔を青ざめさせた。

「も、申し訳ございませんっ!ライザ様っ!す、すぐにシェフを呼んできますっ!」

ビルは慌てて走り去り・・・奥の方で怒声が聞こえた。ははあん・・・さてはあの怒鳴り声はヤコブだな?だがビルが怒鳴られようが、そんなのは私の知った事ではない。
やがて・・・ドスドスとわざと大きな音を立ててこちらへ歩いてくるシェフのヤコブの姿が見えてきた。

「来たわね・・・。」

私は小さく口の中で呟いた。

「ライザ様っ?!一体どういうおつもりですか?こんな時間に厨房へ来るなんて・・・見れば分かるでしょうが、今は夕食の時間で忙しいんですよっ!お引き取り下さいッ!」

ヤコブは眉間にしわを寄せ、露骨に不機嫌な態度で私を見た。

「あら・・・あんなカビたようなカチカチのパンに、野菜の切れ端しか入っていないようなスープを作るだけなのに、そんなに忙しいのかしら?後ろで作られている料理は何処かへ配達でもするのかしら?」

私は厨房の奥をチラリと見ながら言った。

「う・・お分かりでしょうっ?!あの食事は旦那様や奥様・・それにカサンドラ様がお召し上がりになる料理ですっ!」

「どうして・・そこに私の名前は無いのかしら?それともわざわざ忙しい時間を割いて迄、私の為にあのような料理を作ってくれているのかしら?」

嫌みたっぷりに言う私。

「な・・私を馬鹿にしていうのですかっ?!あんな・・・下働きの人間でも食べない様な料理を作るのに、時間を割くはず無いでしょうっ?!」

そしてヤコブはまずい事を言ったと思ったのか、口を塞いだ。

「そう・・・あの料理は・・下働きの人間ですら食べない料理だったのね・・?それを私に出していたと・・?」

私はジロリとヤコブを睨み付けた―。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

お飾り妻宣言した氷壁の侯爵様が、猫の前でドロドロに溶けて私への愛を囁いてきます~癒されるとあなたが吸ってるその猫、呪いで変身した私です~

めぐめぐ
恋愛
貧乏伯爵令嬢レヴィア・ディファーレは、暗闇にいると猫になってしまう呪いをもっていた。呪いのせいで結婚もせず、修道院に入ろうと考えていた矢先、とある貴族の言いがかりによって、借金のカタに嫁がされそうになる。 そんな彼女を救ったのは、アイルバルトの氷壁侯爵と呼ばれるセイリス。借金とディファーレ家への援助と引き換えに結婚を申し込まれたレヴィアは、背に腹は代えられないとセイリスの元に嫁ぐことになった。 しかし嫁いできたレヴィアを迎えたのは、セイリスの【お飾り妻】宣言だった。 表情が変わらず何を考えているのか分からない夫に恐怖を抱きながらも、恵まれた今の環境を享受するレヴィア。 あるとき、ひょんなことから猫になってしまったレヴィアは、好奇心からセイリスの執務室を覗き、彼に見つかってしまう。 しかし彼は満面の笑みを浮かべながら、レヴィア(猫)を部屋に迎える。 さらにレヴィア(猫)の前で、レヴィア(人間)を褒めたり、照れた様子を見せたりして―― ※土日は二話ずつ更新 ※多分五万字ぐらいになりそう。 ※貴族とか呪いとか設定とか色々ゆるゆるです。ツッコミは心の中で(笑) ※作者は猫を飼ったことないのでその辺の情報もゆるゆるです。 ※頭からっぽ推奨。ごゆるりとお楽しみください。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

処理中です...