94 / 95
第93話 目覚めた場所は
しおりを挟む
「え……?」
突然目が覚めて、私は驚いた。一瞬ここが何処だか分からなかったからだ。
低い天井に、蛍光灯がぶら下がっている……。
「蛍光灯……? 蛍光灯!?」
慌てて、ガバッと飛び起きて部屋を見渡し驚いた。
「う、嘘‥‥‥! こ、ここ……私の部屋だ!」
しかも部屋と言っても賃貸マンションではない。ここは実家だったのだ。
「何で実家に……?」
訳が分からず、部屋を見渡す。カーテンからは太陽の光が差している……と言う事は、今は夜ではないということだ。
「もしかして、あれは全部夢だったのかな……?」
ステラという名の伯爵令嬢で暮らしていた世界。優しい両親に、王子という身分でありながら食い意地の張ったイケメンなエド‥‥…。
私は、ひょっとして長い長い夢を見ていたのだろうか?
そんなことをぼんやり考えながら、何気なく時計を見ると時刻は7時を少し過ぎていた。
そこで一気に現実に引き戻される。
「いけない! 会社に行かなくちゃ!」
あの会社は遅刻や欠勤を許さない、ブラック企業だ。
悲しいことに、染みついていた社畜根性で自然と身体が動いてしまった。
クローゼットを開けてカジュアルスーツに着替えて階下に降りていくと、台所から母が驚いた様子で私を見た。
久しぶりに会う母に、思わず緊張が走る。
「真由美! そんな姿で一体何処へ行くの!?」
「お、おはよう。ええと……仕事に……?」
「仕事って……だって、仕事は……」
すると騒ぎを聞きつけてか、ワイシャツ姿の父が姿を現した。
「真由美、一体どうしたというんだ? いつもならまだ寝ている時間じゃないか」
「え? だから仕事に行くつもりなんだけど……?」
父と母との関係は良くなかった。一人暮らしを始めてからは一度も会ってもいない。こんな風に会話をするのも久しぶりで、どんな顔をすればよいのか分からない。
「まさか、仕事って……真由美! 記憶が戻ったのか!?」
「そうなの? 真由美!」
「え? 記憶が戻ったって……?」
すると両親が顔を見合わせ、父が教えてくれた。
「真由美。お前は一月前、マンションで倒れていたところを管理人が発見したんだ。そして病院に運ばれて、次に目が覚めた時は記憶喪失になっていたんだぞ?」
「記憶喪失……?」
「そうよ、自分の名前も私たちが誰かも分からなくなっていたわ。それどころか日常生活も1人で送れなくなっていたものだから、会社も辞めてマンションも引き払ったのよ」
「え……?」
父と母の話は驚くべきものだった――
****
あの後、朝食を食べながら両親から詳しく話を聞いた。
23日間の連続勤務を終えた私は、ベッドの上で意識を失ってしまっていたらしい。
出勤時間になっても出社しない私に会社は何度も連絡を入れたが、一向に連絡が取れない。
そこで上司が管理人と共に、部屋を訪ねたところ意識を無くしていた私を発見した。
慌てた2人は急いで救急車を呼んで、そのまま私は病院に運ばれて緊急入院。
翌日に目が覚めたものの……私はまるで別人になったかの如く記憶を失っていたそうだ――
「やっぱり、この身体にはステラが入っていたのかな……」
両親の話によると目覚めた私は自分が誰かもわからず、何も出来なかったし、見るもの全てに驚いていたそうだ。
車やバス、頭上を飛ぶ飛行機に驚く。家電製品の便利さには大喜びしていたという。
確かにあの世界に比べると、この世界は便利なもので溢れているだろう。
「それにしても暇だな……」
ゴロリと寝返りを打って部屋の時計を見れば、11時になろうとしていた。
「仕事もしない生活って、こんなにも暇なんだ……」
かと言ってアナログ生活? が長かったからか、スマホやPCをいじる気にもならない。
「……アルバイトでも始めようかな」
両親からは、1年くらいは仕事を休んでゆっくり過ごせば良いと言われていた。
恐らく会社から私がどのような勤務体系だったっか、聞いていたのだろう。医者からは過労死寸前だったと診断を受けていたらしいし。
やはり、両親なりに私のことを心配してくれていたのだろう。生活のことは何も心配することは無いと言われたからだ。
「……うん、やっぱり甘えて、少しゆっくりさせてもらおう」
こうして私のニート? 生活が始まった――
突然目が覚めて、私は驚いた。一瞬ここが何処だか分からなかったからだ。
低い天井に、蛍光灯がぶら下がっている……。
「蛍光灯……? 蛍光灯!?」
慌てて、ガバッと飛び起きて部屋を見渡し驚いた。
「う、嘘‥‥‥! こ、ここ……私の部屋だ!」
しかも部屋と言っても賃貸マンションではない。ここは実家だったのだ。
「何で実家に……?」
訳が分からず、部屋を見渡す。カーテンからは太陽の光が差している……と言う事は、今は夜ではないということだ。
「もしかして、あれは全部夢だったのかな……?」
ステラという名の伯爵令嬢で暮らしていた世界。優しい両親に、王子という身分でありながら食い意地の張ったイケメンなエド‥‥…。
私は、ひょっとして長い長い夢を見ていたのだろうか?
そんなことをぼんやり考えながら、何気なく時計を見ると時刻は7時を少し過ぎていた。
そこで一気に現実に引き戻される。
「いけない! 会社に行かなくちゃ!」
あの会社は遅刻や欠勤を許さない、ブラック企業だ。
悲しいことに、染みついていた社畜根性で自然と身体が動いてしまった。
クローゼットを開けてカジュアルスーツに着替えて階下に降りていくと、台所から母が驚いた様子で私を見た。
久しぶりに会う母に、思わず緊張が走る。
「真由美! そんな姿で一体何処へ行くの!?」
「お、おはよう。ええと……仕事に……?」
「仕事って……だって、仕事は……」
すると騒ぎを聞きつけてか、ワイシャツ姿の父が姿を現した。
「真由美、一体どうしたというんだ? いつもならまだ寝ている時間じゃないか」
「え? だから仕事に行くつもりなんだけど……?」
父と母との関係は良くなかった。一人暮らしを始めてからは一度も会ってもいない。こんな風に会話をするのも久しぶりで、どんな顔をすればよいのか分からない。
「まさか、仕事って……真由美! 記憶が戻ったのか!?」
「そうなの? 真由美!」
「え? 記憶が戻ったって……?」
すると両親が顔を見合わせ、父が教えてくれた。
「真由美。お前は一月前、マンションで倒れていたところを管理人が発見したんだ。そして病院に運ばれて、次に目が覚めた時は記憶喪失になっていたんだぞ?」
「記憶喪失……?」
「そうよ、自分の名前も私たちが誰かも分からなくなっていたわ。それどころか日常生活も1人で送れなくなっていたものだから、会社も辞めてマンションも引き払ったのよ」
「え……?」
父と母の話は驚くべきものだった――
****
あの後、朝食を食べながら両親から詳しく話を聞いた。
23日間の連続勤務を終えた私は、ベッドの上で意識を失ってしまっていたらしい。
出勤時間になっても出社しない私に会社は何度も連絡を入れたが、一向に連絡が取れない。
そこで上司が管理人と共に、部屋を訪ねたところ意識を無くしていた私を発見した。
慌てた2人は急いで救急車を呼んで、そのまま私は病院に運ばれて緊急入院。
翌日に目が覚めたものの……私はまるで別人になったかの如く記憶を失っていたそうだ――
「やっぱり、この身体にはステラが入っていたのかな……」
両親の話によると目覚めた私は自分が誰かもわからず、何も出来なかったし、見るもの全てに驚いていたそうだ。
車やバス、頭上を飛ぶ飛行機に驚く。家電製品の便利さには大喜びしていたという。
確かにあの世界に比べると、この世界は便利なもので溢れているだろう。
「それにしても暇だな……」
ゴロリと寝返りを打って部屋の時計を見れば、11時になろうとしていた。
「仕事もしない生活って、こんなにも暇なんだ……」
かと言ってアナログ生活? が長かったからか、スマホやPCをいじる気にもならない。
「……アルバイトでも始めようかな」
両親からは、1年くらいは仕事を休んでゆっくり過ごせば良いと言われていた。
恐らく会社から私がどのような勤務体系だったっか、聞いていたのだろう。医者からは過労死寸前だったと診断を受けていたらしいし。
やはり、両親なりに私のことを心配してくれていたのだろう。生活のことは何も心配することは無いと言われたからだ。
「……うん、やっぱり甘えて、少しゆっくりさせてもらおう」
こうして私のニート? 生活が始まった――
314
お気に入りに追加
2,215
あなたにおすすめの小説
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
妹に婚約者を奪われましたが、公爵令息から求婚されました!
安奈
恋愛
伯爵令嬢のシンディ・エトワールは、侯爵令息フリント・アラベスクに婚約破棄を言い渡された。
破棄理由はシンディの妹との浮気だ。
シンディは婚約者と妹の両方に裏切られ、悲しみの渦に巻き込まれる。
しかし、それを救ったのは公爵令息のディエス・マローネだった。
シンディはディエスの紳士的な態度に次第に心を許すようになっていく。
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる