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第18話 なりふり構わない相手
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「!」
おにぎりを口にし、一口飲み込んだ途端に青年の動きがピタリと止まる。
どうしたのだろう? まさか口に合わなかったのだろうか?
それとも料理長のレイミーが塩と砂糖をまちがえて、おにぎりを握ったのだろうか? それであまりのまずさに固まってしまった……?
そんな馬鹿なと思いつつ、慌てて彼に声をかけた。
「あの! ちょっと、大丈夫ですか!?」
すると……。
「美味しい!!」
「え?」
「何だ? これは……美味しい! 美味しすぎる! 見た目はシンプルで、単なる手抜き料理にしか見えない代物なのに……この素朴な味わいがこんなに美味しいなんて、ありえない! 見た目に騙されてしまうとは……まるで詐欺のようだ!」
そして、一心不乱におにぎりを食べている。
「あ~そうですか……それは良かったですね……」
まるで褒め言葉に思えない台詞を口にしながら、美味しそうにおにぎりを食べる青年。
まぁ、喜んで食べてくれているみたいだから……良しとしよう。
「あ~……美味しかった……」
おにぎりを食べ終えた青年は満足そうに空を眺め、次に視線をこちらヘ向けた。
「あのさ……」
「はい、何でしょう?」
「今の……何だっけ?」
「おにぎりのことですか?」
「そう、おにぎりだよ。……もっと無いかな?」
「はぁ!?」
予想もしていなかった言葉を耳にし、思わず大きな声をあげてしまった。
「な、無いですよ!」
冗談じゃない。残りのおにぎりは後一つ。これは私のもの。何としても守りぬかなければ。
「そうかな~。さっきバスケットの蓋を開けた時、もう一つ、おにぎりが見えた気がしたんだがな……」
「だ、だったら何だって言うんです? これは私のですからね!? 誰にもあげませんから!」
何しろ私がこの世界に持ち込んだお米は僅か1kg程。多分、後残り3合ほどしかご飯を炊くことは出来ないだろう。
「……どうしたら譲ってくれる? そうだ! 確か君は『ボッチ』だったよな? 俺が友達になってあげよう。だからそのおにぎりをくれないか? 頼む!」
ボサボサ髪の青年は必死になって頼み込んでくる。
「だから! さっき1個あげたじゃないですか! それで十分ですよね!?」
バスケットを抱え込んで死守する私。
「……そうか。友達じゃ駄目なんだな……。それなら恋人になってもらいたいのか? だが君にはまだ婚約者がいたよな? う~ん……さすがに婚約者がいる相手と恋人同士になるわけには……え? な、なんだい? その目つきは?」
多分私はおもいきり、軽蔑の眼差しを彼に向けていたのだろう。
「あいにく、私は恋人は必要としていません。それに友達ならできれば女性のお友達が欲しいです。あ、だからといって、友達が必要だって言ってるわけではありませんから。そういうわけなので、おにぎりは諦めてください」
駄目だ、これ以上ここにいたら……無理やりバスケットを奪われかねない!
ベンチを立ち上がり、歩き始めたとき。
ドサッ!!
背後で物凄い音が聞こえて、驚いて振り向いた。すると青年が地面に倒れているではないか。
「ちょ、ちょっとどうしたんですか!?」
慌てて駆け寄ると、彼はムクリと顔を上げた。
「お、お腹がすいて……死にそうなんだ……た、頼む……さっきのおにぎりを……俺にくれないか……?」
「……」
呆れた人だ。ここまでして、なりふり構わず私のおにぎりを欲しがるなんて……。
けれど、こんなところに倒れて私の責任にされても困る。
「あーもう! 分かりましたよ! あげます! あげますからやめてくださいよ!」
「本当か? 本当にくれるのかい?」
ガバッと起き上がる青年。
「ええ、あげますよ。はい、どうぞ」
バスケットから最後のおにぎりを取り出して、手渡す。
「ありがとう、感謝するよ」
ボサボサ髪の下で、ニッコリ笑う青年。
「いいですよ、別にもう」
まだあの部屋にはお米が残っている。きっとまた夢を見れば、こっちの世界に持ち込めるはずだ。
「うん、本当に美味しいな」
気付けば、彼はもうベンチに座っておにぎりを食べ始めている。
「それじゃ、私はもう行きますから」
「え? もう行くのか?」
歩き始めると背後から声をかけられた。
「はい、大学の中を見て回りたいので」
何しろ私にはステラの記憶が全くない。つまり大学構内の作りが何も分からないということだ。自分の目と足で歩いて覚えなければ。
「ふ~ん。何で見て回りたいのか分からないけど……用心したほうがいいぞ」
「え? どういうことですか?」
「いや? 何となくそう思っただけさ。人はいつ何処で何があるか分からないじゃないか」
「……何でそんな変なこと言うんですか? 気になるじゃないですか」
ただでさえ、エイドリアン達に良く思われていないのに……恨めしい目で彼を見る。
「いや、ごめん。悪かった、気にしないでくれ。おにぎり美味しかったよ。ありがとう」
見ると、彼はもうおにぎりを食べ終えている。
「いいえ。では今度こそ行きますからね」
それだけ告げるとその場を後にした。
そして後ほど。
私は彼が口にした言葉の意味を知ることになる――
おにぎりを口にし、一口飲み込んだ途端に青年の動きがピタリと止まる。
どうしたのだろう? まさか口に合わなかったのだろうか?
それとも料理長のレイミーが塩と砂糖をまちがえて、おにぎりを握ったのだろうか? それであまりのまずさに固まってしまった……?
そんな馬鹿なと思いつつ、慌てて彼に声をかけた。
「あの! ちょっと、大丈夫ですか!?」
すると……。
「美味しい!!」
「え?」
「何だ? これは……美味しい! 美味しすぎる! 見た目はシンプルで、単なる手抜き料理にしか見えない代物なのに……この素朴な味わいがこんなに美味しいなんて、ありえない! 見た目に騙されてしまうとは……まるで詐欺のようだ!」
そして、一心不乱におにぎりを食べている。
「あ~そうですか……それは良かったですね……」
まるで褒め言葉に思えない台詞を口にしながら、美味しそうにおにぎりを食べる青年。
まぁ、喜んで食べてくれているみたいだから……良しとしよう。
「あ~……美味しかった……」
おにぎりを食べ終えた青年は満足そうに空を眺め、次に視線をこちらヘ向けた。
「あのさ……」
「はい、何でしょう?」
「今の……何だっけ?」
「おにぎりのことですか?」
「そう、おにぎりだよ。……もっと無いかな?」
「はぁ!?」
予想もしていなかった言葉を耳にし、思わず大きな声をあげてしまった。
「な、無いですよ!」
冗談じゃない。残りのおにぎりは後一つ。これは私のもの。何としても守りぬかなければ。
「そうかな~。さっきバスケットの蓋を開けた時、もう一つ、おにぎりが見えた気がしたんだがな……」
「だ、だったら何だって言うんです? これは私のですからね!? 誰にもあげませんから!」
何しろ私がこの世界に持ち込んだお米は僅か1kg程。多分、後残り3合ほどしかご飯を炊くことは出来ないだろう。
「……どうしたら譲ってくれる? そうだ! 確か君は『ボッチ』だったよな? 俺が友達になってあげよう。だからそのおにぎりをくれないか? 頼む!」
ボサボサ髪の青年は必死になって頼み込んでくる。
「だから! さっき1個あげたじゃないですか! それで十分ですよね!?」
バスケットを抱え込んで死守する私。
「……そうか。友達じゃ駄目なんだな……。それなら恋人になってもらいたいのか? だが君にはまだ婚約者がいたよな? う~ん……さすがに婚約者がいる相手と恋人同士になるわけには……え? な、なんだい? その目つきは?」
多分私はおもいきり、軽蔑の眼差しを彼に向けていたのだろう。
「あいにく、私は恋人は必要としていません。それに友達ならできれば女性のお友達が欲しいです。あ、だからといって、友達が必要だって言ってるわけではありませんから。そういうわけなので、おにぎりは諦めてください」
駄目だ、これ以上ここにいたら……無理やりバスケットを奪われかねない!
ベンチを立ち上がり、歩き始めたとき。
ドサッ!!
背後で物凄い音が聞こえて、驚いて振り向いた。すると青年が地面に倒れているではないか。
「ちょ、ちょっとどうしたんですか!?」
慌てて駆け寄ると、彼はムクリと顔を上げた。
「お、お腹がすいて……死にそうなんだ……た、頼む……さっきのおにぎりを……俺にくれないか……?」
「……」
呆れた人だ。ここまでして、なりふり構わず私のおにぎりを欲しがるなんて……。
けれど、こんなところに倒れて私の責任にされても困る。
「あーもう! 分かりましたよ! あげます! あげますからやめてくださいよ!」
「本当か? 本当にくれるのかい?」
ガバッと起き上がる青年。
「ええ、あげますよ。はい、どうぞ」
バスケットから最後のおにぎりを取り出して、手渡す。
「ありがとう、感謝するよ」
ボサボサ髪の下で、ニッコリ笑う青年。
「いいですよ、別にもう」
まだあの部屋にはお米が残っている。きっとまた夢を見れば、こっちの世界に持ち込めるはずだ。
「うん、本当に美味しいな」
気付けば、彼はもうベンチに座っておにぎりを食べ始めている。
「それじゃ、私はもう行きますから」
「え? もう行くのか?」
歩き始めると背後から声をかけられた。
「はい、大学の中を見て回りたいので」
何しろ私にはステラの記憶が全くない。つまり大学構内の作りが何も分からないということだ。自分の目と足で歩いて覚えなければ。
「ふ~ん。何で見て回りたいのか分からないけど……用心したほうがいいぞ」
「え? どういうことですか?」
「いや? 何となくそう思っただけさ。人はいつ何処で何があるか分からないじゃないか」
「……何でそんな変なこと言うんですか? 気になるじゃないですか」
ただでさえ、エイドリアン達に良く思われていないのに……恨めしい目で彼を見る。
「いや、ごめん。悪かった、気にしないでくれ。おにぎり美味しかったよ。ありがとう」
見ると、彼はもうおにぎりを食べ終えている。
「いいえ。では今度こそ行きますからね」
それだけ告げるとその場を後にした。
そして後ほど。
私は彼が口にした言葉の意味を知ることになる――
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