7 / 95
第6話 家に帰るに決まってる
しおりを挟む
「どうしよう……すること無くなっちゃった……」
公園の正門目指してトボトボ歩き、何気なく空を見上げる。
「そう言えば、こんな風に公園に来るのって何年ぶりだろう?」
教育熱心な両親の期待に添えず、一流大学に入れなかった私は当然一流企業に入社など出来なかった。
卒業間近にようやく就職先が見つかったけれど、そこは絵に描いたような典型的なブラック企業。
そこで社畜の如き働き詰めだった私には、公園に来るような機会などほぼ無かった。
「まさか、こんな形で公園に来ることになるとは思わなかったな」
婚約者の待ち合わせで公園に足を運んで見れば、まさかの女連れなのだから。
「……することもないし、帰ろう」
恐らく両親は、こうなる結果が分かり切っていたのだ。だから、尋ねたのだろう。
『ステラ。今日は婚約者のエイドリアンと会う約束を交わしているが、会うのか?』
「婚約者と不仲だって分かっているのなら、初めから教えてくれていればいいのに……」
だったら、わざわざイヤな思いをしてまでこんな場所まで出向く必要は無かったのだから。
ブツブツ文句を言いながら正門をくぐり抜けた時――
「あの……ステラお嬢様」
突然声をかけられた。
「な、何!?」
驚いて声の方を振り向くと、私をここまで乗せてくれた男性御者の姿があった。
「も、申し訳ございません! まさか驚かれるとは思わず、いきなり声をかけてしまいました! 本当に申し訳ございません!」
御者は恐縮したかのように、何度もペコペコと謝ってくる。
「い、いえ。そんなに謝らなくて大丈夫ですから……」
明らかに私よりも年長者の男性に謝られるのに慣れていない。すると私の言葉遣いのせいか、ますます御者は謝ってくる。
「そんな! ど、どうか私のような目下の者に敬語を使わないで下さい! お願いします!」
なるほど……やはりステラというこの身体の持ち主、相当傲慢な性格だったのだろう。なら、少しでも彼女らしく振る舞ったほうが良いのだろうか?
「分かったわ。それなら敬語はもう使わない。それより、何故ここにいるの? 帰っていいと伝えたはずなのに」
「あの……旦那様の言いつけだったからです……」
「お父様の?」
「はい、恐らくエイドリアン様と待ち合わせしてもすぐに終わりになるだろうから、待機しているように命じられていたのです」
「そうだったんだ……」
やっぱりこうなることはお見通しだったというわけだ。それなら何しに私はここへ来たのだろう?
「ステラお嬢様……それで、どうなさいますか?」
上目遣いで尋ねてくる御者。どうするも何も……。
「することも無いし。帰るわ」
「かしこまりました。では、どちらに行かれますか?」
はい? 今、彼は何と言った?
「帰るって……家に帰るに決まっているじゃない」
「あ! そ、そうでしたか! いつものステラお嬢様なら、こういう日はヤケになって爆買い……いえ! お買い物を楽しまれてから帰宅されていますけど?」
今、ヤケになって爆買いと言ったよね? でも、まあそんなことはどうでもいい。僅か20代で人生に疲れている私は買い物よりもまずは家に帰って休みたい。
「買い物はいいから、家に送ってもらえる?」
「はい! かしこまりました!」
扉を開けてもらうと、私は早速乗り込んだ。そして馬車はゆっくりと走り始めた。
ガラガラガラガラ……
馬車が走り始めると、急激な眠気が襲ってきた。
「ふわぁああああ……眠い……何でこんなに眠い……んだろう」
駄目だ、眠くて瞼も開けるのが辛い。……家に到着するまで寝ることにしよう。
目を閉じると、私は深い眠りに就いた。
そして……不思議な夢を見る――
公園の正門目指してトボトボ歩き、何気なく空を見上げる。
「そう言えば、こんな風に公園に来るのって何年ぶりだろう?」
教育熱心な両親の期待に添えず、一流大学に入れなかった私は当然一流企業に入社など出来なかった。
卒業間近にようやく就職先が見つかったけれど、そこは絵に描いたような典型的なブラック企業。
そこで社畜の如き働き詰めだった私には、公園に来るような機会などほぼ無かった。
「まさか、こんな形で公園に来ることになるとは思わなかったな」
婚約者の待ち合わせで公園に足を運んで見れば、まさかの女連れなのだから。
「……することもないし、帰ろう」
恐らく両親は、こうなる結果が分かり切っていたのだ。だから、尋ねたのだろう。
『ステラ。今日は婚約者のエイドリアンと会う約束を交わしているが、会うのか?』
「婚約者と不仲だって分かっているのなら、初めから教えてくれていればいいのに……」
だったら、わざわざイヤな思いをしてまでこんな場所まで出向く必要は無かったのだから。
ブツブツ文句を言いながら正門をくぐり抜けた時――
「あの……ステラお嬢様」
突然声をかけられた。
「な、何!?」
驚いて声の方を振り向くと、私をここまで乗せてくれた男性御者の姿があった。
「も、申し訳ございません! まさか驚かれるとは思わず、いきなり声をかけてしまいました! 本当に申し訳ございません!」
御者は恐縮したかのように、何度もペコペコと謝ってくる。
「い、いえ。そんなに謝らなくて大丈夫ですから……」
明らかに私よりも年長者の男性に謝られるのに慣れていない。すると私の言葉遣いのせいか、ますます御者は謝ってくる。
「そんな! ど、どうか私のような目下の者に敬語を使わないで下さい! お願いします!」
なるほど……やはりステラというこの身体の持ち主、相当傲慢な性格だったのだろう。なら、少しでも彼女らしく振る舞ったほうが良いのだろうか?
「分かったわ。それなら敬語はもう使わない。それより、何故ここにいるの? 帰っていいと伝えたはずなのに」
「あの……旦那様の言いつけだったからです……」
「お父様の?」
「はい、恐らくエイドリアン様と待ち合わせしてもすぐに終わりになるだろうから、待機しているように命じられていたのです」
「そうだったんだ……」
やっぱりこうなることはお見通しだったというわけだ。それなら何しに私はここへ来たのだろう?
「ステラお嬢様……それで、どうなさいますか?」
上目遣いで尋ねてくる御者。どうするも何も……。
「することも無いし。帰るわ」
「かしこまりました。では、どちらに行かれますか?」
はい? 今、彼は何と言った?
「帰るって……家に帰るに決まっているじゃない」
「あ! そ、そうでしたか! いつものステラお嬢様なら、こういう日はヤケになって爆買い……いえ! お買い物を楽しまれてから帰宅されていますけど?」
今、ヤケになって爆買いと言ったよね? でも、まあそんなことはどうでもいい。僅か20代で人生に疲れている私は買い物よりもまずは家に帰って休みたい。
「買い物はいいから、家に送ってもらえる?」
「はい! かしこまりました!」
扉を開けてもらうと、私は早速乗り込んだ。そして馬車はゆっくりと走り始めた。
ガラガラガラガラ……
馬車が走り始めると、急激な眠気が襲ってきた。
「ふわぁああああ……眠い……何でこんなに眠い……んだろう」
駄目だ、眠くて瞼も開けるのが辛い。……家に到着するまで寝ることにしよう。
目を閉じると、私は深い眠りに就いた。
そして……不思議な夢を見る――
128
お気に入りに追加
2,201
あなたにおすすめの小説
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~
瑠美るみ子
恋愛
サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。
だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。
今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。
好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。
王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。
一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め……
*小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる