上 下
6 / 44

5.後宮の側妃たち

しおりを挟む
種族間バランスを考え選ばれた三人の側妃。見事に個性豊かな(?)メンバー集合となっている。

見事な胸と大きなお尻、牛族特有の安産体形のパトア妃25歳。妃としては少し年齢が高めだが、フリフリのレースが付いたドレスを着て少しでも可愛く見せようとしている。完全に方向性を間違えているのに本人は気づいていない…。
「もぅ、フリルが足りないわ。 
大切な顔見世なんだから重鎮方に好印象を残さないと!もっと、もっと私を飾り立てて頂戴!この胸周りのフリルを裾に付け直して!」
((イヤイヤこれ以上の胸の露出は、露出狂レベルです。それにこれ以上裾にフリルを付けたらアンタ間違いなく転びますよ))と思っているが、主人である妃に言えない…。
自分達のお付きの妃を盛り立て国王の寵愛を得させるのが侍女の誇り、なのだが…、もうどうしていいのか分からないパトア妃付きの専属侍女達。
((はぁ~))もうため息しか出てこない。

狐族出身のネリー妃は才色兼備で前評判は一番良かった。王宮の者たちには期待されていたし、お付きの専属侍女になった者たちは鼻高々であった。
だが蓋は開けてみないと分からないものである。
確かに美人であった、それは事実。
でも真の才女ではなかった、だった。自分が才女に見えるための演出には長けているが、そのために周りを貶める事は朝飯前。侍女達に無理難題を言い、やらせて、手柄は自分が持っていくのである。
((これは詐欺でしょ。いいえ、流石狐と言うべきか…)) 
専属侍女になれたことを大喜びしていた者たちやネリ妃の側で働く者たちは、すぐに辞めることを考え始めた。そのため『辞表の書き方』という本の売上げが一気に伸びた。 

後宮の自室で筋力トレーニングに励む女性、それがマアラ妃である。
国王と同じ狼族出身で元騎士というマアラは唯一婚姻前に国王と面識があった。 面識があるといっても騎士として働いているときに国王を近くで警護した程度で、国王の方は認識などしていなかった。 だがマアラはそうは思わなかった。自分が側妃に選ばれたと聞くと、騎士として働いている時に見初められたのだと勘違いした…。
盛大な勘違いを事実として、現在進行形で突っ走っている。
「私、国王の視線には気づいていたのよ。あの熱い眼差し!こうなるだろうとわかっていたわ♪」
腹筋をしながら嬉しそうに話すマアラ。
((なにかがおかしい))と違和感半端ない侍女達。 
マアラ妃のお世話をしてすぐに、マアラが『脳筋』だとわかった。性格は悪くない、だが…この妃は問題ありと落胆していた。



*******************************

---後宮での夕食後---


一族の期待を一身に受けているため、三人とも国王の寵愛を得ようと必死である。離宮に追いやられている正妃はライバルにあらずと、歯牙にもかけていない。ライバルは他の側妃と、最初からバチバチやっていた。
それは年中無休らしい…、今も続いている。 
いや、必死に諫めていたギルア国王がいない後宮ではより一層ひどくなっている。三人とも猫を脱ぎ捨て、本性丸出しとなっている。

(((いったい何匹猫を被っていたんだー))) 
数えられるものなら猫ちゃんを数えて、現実逃避したい使用人達多数発生中。


「まぁまぁ、なんて下品なドレスなんでしょう。胸が丸見えではないかしら?でも大きな胸しか自慢できる所がないから仕方がないわね。ホッホッホ」

狐族ネリー妃が、大きい胸が自慢の牛族パトア妃に軽くジョブを打つ。だがパトアも負けてはいない。
 
「あらあら、ネリー様はどちらに胸があるのかしら~。それではギルア国王から子種など貰えなくてよ。うふふ、だから夜伽を順番にと言い出したのですね、順番にしなくてはご自分が呼ばれないから」

グサリとパトアの言葉がネリーの心に突き刺さる。
美人と評判のネリーであるが、如何せんスリムまな板なのである。それを本人も大変気にしている。
一矢報いることが出来たパトアは、楽し気に体を揺らしている。

「ただ大きいパトア妃、まな板のネリー妃。どちらもどんぐりの背比べね!丁度いいハリと大きさを兼ね備えた私の胸に国王は夢中なのよ。同じ狼族だから気安いみたいだしね~」

そんなことを言ったマアラ妃を、キッと二人は睨みつける。ただ、元騎士のマアラは確かにバランスのとれた肉体美を持っていたので言い返すことが出来ない。自分の勝ちを確信したマアラはフサフサな尻尾ブンブンと勢いよく回す。 
「そんなはしたなく尻尾を回す脳筋女性を国王はお好きにならないわ」
すかさずネリーが攻撃すれば、パトアもブンブンと首を縦に振る。

「「「誰がなんと言おうと、私が寵愛を受けるのよ」」」
三人とも一歩も譲らず、低レベルなキャットファイトが繰り広げられている。


周りの使用人達は誰も止めない、なぜなら止まらないことを知っているから。たった1日で諦めの極致にたどり着いてた彼らを誰も責められないはずである、あの国王ですら匙を投げてしまったのだから。 

使用人達は嵐が鎮まるをひたすら待つ。気分は、太平洋の真ん中で大嵐に遭遇して船の中でひっそりと待つ乗務員といったところだ。たまにそのまま沈没するが…。こんな三人を側妃に選んだ国王を最初は恨んだ、本気で恨んでいた。
(((不敬罪と言われようが、この気持ちは誰にも止められない!)))当然の反応である。
(((もっとましな女性はいるだろう!)))間違いなく正論である。

しかし、国王も一緒に何度か沈没した…。もはや同志といってもいい絆を国王に感じた始めた使用人達。

(自分たちは仕事終われば温かい家庭があるが、国王にはこの側妃達が家庭なんだ…)
この事実に気づいたら、恨むことなどできない。可哀想すぎて…。気の毒な国王に、陰ながらエールを送ろうと決めた。
そしてみんな自分の家庭がより輝いて見え、家族間のトラブルが減っていった。国王の愚策が家族関係円満に一役買っているようだ。 

『愚策も見方を変えれば良策となりますね~』と宰相が国王にとどめを刺していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】運命の番? この世界に白馬の王子様はいないようなので、退場させていただきます。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
 断罪シーンの立ち位置で、自分が転生者のヒロインだと自覚したアンジュ。しかし、アンジュには目的があった。それは自分の叔母である現王妃を救い出すこと。  番というものがあるこの世界で、政略結婚の末に現国王の番の影に追いやられた叔母。白い結婚のまま王宮で肩身の狭い思いをした後に、毒殺未遂をさててしまう。  そんな叔母を救うためには、国王の王弟殿下であるアレン様に近づきその力を借りること。しかし目的があって近づいたアンジュをアレンは運命の番として見染める。  ただ殿下には国王と同じく、公爵令嬢のティナという婚約者がいた。ティナは王妃となるために教育を受け、ただ殿下を素直に愛してきた。  その殿下を番という立場の者に、すんなりと盗られてしまう。その悔しさからアンジュへのいじめが始まった。  そして自分をいじめたために断罪されるティナを見た時、アンジュの中で考えが変わる。  国王と同じことを繰り返そうとする王弟殿下。殿下にとって自分が番であっても関係ない。少なくともアンジュにとってアレンは、前世で夢見た白馬の王子様ではなかったから……。  ティナの手を引き、アンジュはヒロインからの退場を宣言する。 「殿下にとって私は運命の番でも、私にとっては運命ではなかったみたいです」

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】あなたと結ぶ半年間の契約結婚〜私の最後のお願いを叶えてくれますか

冬馬亮
恋愛
不治の病にかかり、医師から余命二年と宣告された伯爵令嬢シャルロッテ。 暫し鬱々と悩んだシャルロッテだが、残る時間を目一杯楽しもうと気持ちを切り替える。 そして、死ぬと決まっているならば、初恋の人オスカーに気持ちを打ち明けようと思い至る。 シャルロッテの家族がそれを全面的に後押しし、いつの間にかシャルロッテとオスカーは、半年という期間限定の結婚をする事に。 これでもう思い残すことはない。 うきうき(?)と、結婚式の準備を進めていたシャルロッテだったがーーー 結婚式当日、式を無事に終えたシャルロッテの前に、ずっと行方が分からなかった次兄イグナートが現れた。 「シャル! 病の特効薬を見つけたよ!」

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

虐げられてきた妾の子は、生真面目な侯爵に溺愛されています。~嫁いだ先の訳あり侯爵は、実は王家の血を引いていました~

木山楽斗
恋愛
小さな村で母親とともに暮らしていアリシアは、突如ランベルト侯爵家に連れて行かれることになった。彼女は、ランベルト侯爵の隠し子だったのである。 侯爵に連れて行かれてからのアリシアの生活は、幸福なものではなかった ランベルト侯爵家のほとんどはアリシアのことを決して歓迎しておらず、彼女に対してひどい扱いをしていたのである。 一緒に連れて行かれた母親からも引き離されたアリシアは、苦しい日々を送っていた。 そしてある時彼女は、母親が亡くなったことを聞く。それによって、アリシアは深く傷ついていた。 そんな彼女は、若くしてアルバーン侯爵を襲名したルバイトの元に嫁ぐことになった。 ルバイトは訳アリの侯爵であり、ランベルト侯爵は彼の権力を取り込むことを狙い、アリシアを嫁がせたのである。 ルバイト自身は人格者であり、彼はアリシアの扱われた方に怒りを覚えてくれた。 そのこともあって、アリシアは久方振りに穏やかな生活を送れるようになったのだった。 そしてある時アリシアは、ルバイト自身も知らなかった彼の出自について知ることになった。 実は彼は、王家の血を引いていたのである。 それによって、ランベルト侯爵家の人々は苦しむことになった。 アリシアへの今までの行いが、国王の耳まで行き届き、彼の逆鱗に触れることになったのである。

処理中です...