英雄の平凡な妻

8.黒い噂～エドワード視点～②

騎士団長が告げた事実に俺は鳥肌が立ち、握った拳に力が入る。

---なっ。襲われた…、子供が死んだ…。そんな馬鹿なことが！


「……それは私の家族が危険に晒される可能性があるという事ですか！」

激昂する俺に騎士団長は眉間に皺を寄せ、

「…そうだ。だからしばらく耐えてくれ」

と苦しそうな表情で言ってくる。

「一生ではない。今、王女の尻尾を掴むために裏で動いている者達がいる。証拠を掴むまで我慢してくれ」

「証拠を掴むまでって、いつまでですか？一ヶ月ですか、一年ですか！その間俺は王女の愛人の一人と見なされる状況に耐えるのですか。
…俺はまだいいです。ですが何も知らない妻はきっと苦しみます。せめてこの事は家族には教えていいですか。愛する家族は勿論守りたいので協力はします。ですが誤解されたくはありませんので！」

---こんな形でアイラ王女付きになれば周囲からは愛人の一人と見なされてしまう。
きっとキャッシーも誤解する…。
それだけは受け入れられない！


「それは駄目だ。王女に裏の動きを気取られない為にも情報の共有は最小限に抑えている。これを知っている者は裏で動いている数人のみだ。勿論周囲に話すことは禁じられている。
だからお前も黒い噂に関することは絶対に誰にも洩らすな、そして油断させる為に上手く演じてくれ」

「つまり、この事を知った俺にはもう選択肢は一つしかないんですね…」

黒い噂について話された時点で俺はこの計画の一部になっていたんだろう。いやその前からか…。自分が逃げられない事を悟った。

「そうだな…。すまん、王女の罪を暴く為に英雄であるお前の存在を利用させてもらう」

「……承知しました」

俺は愛する家族を守るために暫くアイラ王女の専属護衛として就くことを選択するしかなかった。やり切れない思いでその場を後にしようとする俺の背に向かって、騎士団長から言葉が投げかけられる。

「上手く演じることだけを考えろ。失わなかったら、大切なものはまた取り戻せるんだ」

---チッ、勝手なことを！