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2.三ヶ月前
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エドワード・キャンベルはその大柄な体格と剣の腕を活かして騎士団に所属し、副団長を務めている。彼は実力もあるうえ伯爵位もあったけど、無口で無愛想なタイプなので今ではあまり女性から持て囃されることはなかった。
男性からは慕われ頼りにされるけれども、女性には敬遠されてしまう…そんな人でもあった。
だからエディは昔から私だけの王子様でいてくれた。
一見ぶっきら棒だけど本当はとても優しい彼。そんな隠れた素敵なところは全部ちゃんと知っているので、他人が知らなくても構わなかった。
むしろ私はお互いだけを大事にしあえる状況に満足さえしていた。
だが『エドワード・キャンベル』の評価があの事件を境に180度変わってしまった。
*****
その日は王家の第二王女アイラが市内の孤児院に珍しく視察に出向いていた。もちろん直属の護衛騎士達がしっかりと警護しており問題など起きないはずだった。
だが自由奔放な我が儘王女として有名なアイラ王女は勝手に予定を変更し、護衛達が警備を固めていない店へと行ってしまった。
襲う機会を待っていた襲撃者達はそのチャンスを見逃すはずもない。
「王女を早く奪え!」
「絶対にアイラ王女様をお守りしろ!近づけるなっ!クソッ、数が多すぎる」
ガキッーン、ドカッ。ズザザサーーー。
次々と襲い来る襲撃者、飛び交う怒声、剣を交える騎士達、逃げ惑う平民達で辺りは騒然としていた。護衛騎士達も少ない人数で必死に王女を守ろうと身を挺し戦っている。
「アイラ王女様!早くお逃げ下さい、さあ侍女と一緒にあちらの赤い建物に向かって走ってください!さあ早く!」
護衛騎士の一人が敵と剣を交えながら、必死に王女の逃げ道を作って叫んでいる。お付きの侍女も『アイラ様、お早く!』と急き立てるが、恐怖で動けない王女は地面に蹲りただ泣き喚くだけで一向に動こうとしない。
「何を言っているのよ!私と侍女だけで逃げても危ないだけでしょうー。早く敵を殺して私を抱いて安全なところまで運びなさい!
命令よ!早くなさい」
だがその命令を聞ける状態にある騎士は誰一人いない。みんな血を流しながら多勢に無勢のなか必死に王女を守るために剣を振っている。
侍女が再度、
「アイラ様、ここは危ないですから早く行きましょう!」
と懇願しているが、王女は目じりを吊り上げて騎士達に向かって罵倒を繰り返す。
「貴方達、それでも護衛騎士なの!この間抜けが!死んでも王女である私を守るのが仕事のくせに何をもたついているのよ!早く私だけを助けなさい、命令よ!」
「「………」」
護衛騎士や侍女はそんな王女の姿に心底幻滅をしていたがグッと耐えている、そんな時だった。
蹲っていたアイラ王女の身体が一瞬フワッと宙に舞い上がりそして堅い大きな身体に抱き締められていた。
たまたま近くを通りかかり騒ぎを聞きつけた一人の騎士が応援に駆け付け、動けずにいたアイラ王女を抱き上げたのだ。
『何よ突然、無礼よ!』と顔を真っ赤にして叫んでいる王女に声を掛ける事も無く、その騎士は敵を倒しながら安全な場所に行くと、後から来た護衛騎士達に王女を託し、まだ襲撃者がいる現場へと颯爽と戻っていった。
その後ろ姿をアイラ王女はボーとしながら見つめて、隣で座っている放心状態の侍女に声を掛けた。
「あの人は誰なの…?」
「えっ、誰の事でございますか…」
「お前馬鹿なの。あの人っていったら、今私を力強く抱き締めてくれた騎士に決まっているでしょう!ほらぐずぐずせずに早く教えなさい!」
「た、確か…、あの方は騎士団の副団長の‥‥。えっと、エドワード・キャンベル様でございます」
「エドワード・キャンベル。そう、エドワードね……。うふふふ」
アイラ王女は先ほどまで自分を抱き締めていた逞しい肉体を思い出し恍惚の表情を浮かべていた。
男性からは慕われ頼りにされるけれども、女性には敬遠されてしまう…そんな人でもあった。
だからエディは昔から私だけの王子様でいてくれた。
一見ぶっきら棒だけど本当はとても優しい彼。そんな隠れた素敵なところは全部ちゃんと知っているので、他人が知らなくても構わなかった。
むしろ私はお互いだけを大事にしあえる状況に満足さえしていた。
だが『エドワード・キャンベル』の評価があの事件を境に180度変わってしまった。
*****
その日は王家の第二王女アイラが市内の孤児院に珍しく視察に出向いていた。もちろん直属の護衛騎士達がしっかりと警護しており問題など起きないはずだった。
だが自由奔放な我が儘王女として有名なアイラ王女は勝手に予定を変更し、護衛達が警備を固めていない店へと行ってしまった。
襲う機会を待っていた襲撃者達はそのチャンスを見逃すはずもない。
「王女を早く奪え!」
「絶対にアイラ王女様をお守りしろ!近づけるなっ!クソッ、数が多すぎる」
ガキッーン、ドカッ。ズザザサーーー。
次々と襲い来る襲撃者、飛び交う怒声、剣を交える騎士達、逃げ惑う平民達で辺りは騒然としていた。護衛騎士達も少ない人数で必死に王女を守ろうと身を挺し戦っている。
「アイラ王女様!早くお逃げ下さい、さあ侍女と一緒にあちらの赤い建物に向かって走ってください!さあ早く!」
護衛騎士の一人が敵と剣を交えながら、必死に王女の逃げ道を作って叫んでいる。お付きの侍女も『アイラ様、お早く!』と急き立てるが、恐怖で動けない王女は地面に蹲りただ泣き喚くだけで一向に動こうとしない。
「何を言っているのよ!私と侍女だけで逃げても危ないだけでしょうー。早く敵を殺して私を抱いて安全なところまで運びなさい!
命令よ!早くなさい」
だがその命令を聞ける状態にある騎士は誰一人いない。みんな血を流しながら多勢に無勢のなか必死に王女を守るために剣を振っている。
侍女が再度、
「アイラ様、ここは危ないですから早く行きましょう!」
と懇願しているが、王女は目じりを吊り上げて騎士達に向かって罵倒を繰り返す。
「貴方達、それでも護衛騎士なの!この間抜けが!死んでも王女である私を守るのが仕事のくせに何をもたついているのよ!早く私だけを助けなさい、命令よ!」
「「………」」
護衛騎士や侍女はそんな王女の姿に心底幻滅をしていたがグッと耐えている、そんな時だった。
蹲っていたアイラ王女の身体が一瞬フワッと宙に舞い上がりそして堅い大きな身体に抱き締められていた。
たまたま近くを通りかかり騒ぎを聞きつけた一人の騎士が応援に駆け付け、動けずにいたアイラ王女を抱き上げたのだ。
『何よ突然、無礼よ!』と顔を真っ赤にして叫んでいる王女に声を掛ける事も無く、その騎士は敵を倒しながら安全な場所に行くと、後から来た護衛騎士達に王女を託し、まだ襲撃者がいる現場へと颯爽と戻っていった。
その後ろ姿をアイラ王女はボーとしながら見つめて、隣で座っている放心状態の侍女に声を掛けた。
「あの人は誰なの…?」
「えっ、誰の事でございますか…」
「お前馬鹿なの。あの人っていったら、今私を力強く抱き締めてくれた騎士に決まっているでしょう!ほらぐずぐずせずに早く教えなさい!」
「た、確か…、あの方は騎士団の副団長の‥‥。えっと、エドワード・キャンベル様でございます」
「エドワード・キャンベル。そう、エドワードね……。うふふふ」
アイラ王女は先ほどまで自分を抱き締めていた逞しい肉体を思い出し恍惚の表情を浮かべていた。
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