上 下
9 / 26

9.話し合い①

しおりを挟む
あれから心を閉ざしたリズは直ぐには話し合いに応じてくれなかった。
完全に避けているわけではないが、ちゃんとその目に俺を映してくれないので気持ちがまだ俺にあるのか分からない。

俺が子供の事を話そうとしても『もう少し待って』と言って悲しそうな顔をする。夜もうなされている事が多く、その度に優しく抱き締めているが彼女が抱き返してくれることはない。

だから俺は別邸にいる間は片時もリズの傍から離れない。彼女が俺を許してくれなくても見てくれなくても、それでも離れられない。

酷く苦しめているのは俺だが、でも解放してあげられない…。

 どうかいつかまた俺をその瞳に映して欲しい。
 愛さなくてもいいから、俺から愛されるのだけは受け入れて欲しい。
 

暫くたったある日、リズは『話し合いましょう』と言ってくれた。
正直、話し合うことによって彼女を失うことを決定づけられてしまうならこのままでもいいと思い始めていたので、この前進に恐れを感じてしまう。

 どうか見捨てないで!
 嫌ってもいいから傍にいさせて…。
 気が済むまで殴ってもいいから。
 許せるまで切り刻んでもいいから。
 どうか、どうか……。

「それ…は俺への死刑宣告……それとも救済…」

みっともないが声が震えて、目に涙が溢れてくる。リズが今どんな表情をしているのか分からない。

「アレク、私は裁判官でも神でもないわ。今もそしてこれからもあなたの妻でしかないわ」

「えっ?い、今なんて!もう、もう一回言ってくれ」

 これは夢なのかっ‥‥。
 本当に『これからも』と言って…くれた…のか。
 ああぁ、リズの目にちゃんと俺が映っている!

先もあなたの妻だと言ったのよ。聞こえた?それとももうそれは望んでいないの?
私はいらなくなった‥‥」

「望んでいる!愛している!俺の愛おしいリズ、あ、有り難う…。こんな俺を見捨てないでくれて、また愛してくれて。うっうっ、リズ、リズ!」

「それは違うわ。また愛したのではないわ、ずっと愛し続けていたの。裏切りを知って苦しかったし色々考えていたのは事実だけど、アレクに対する愛情が途絶えたことは無かった。
皮肉な事だけど今回の事があって自分でも驚くほどあなたを愛しているのが分かったわ。
本当はあなた…っ嫌いになれたら、楽にな…れるのでしょうけど、どうして、もそれ…が出来なかった…。

ふっ、私はアレクに初めてあった時から愛してしまったから。あなたを幸せにするって決めていたから。
私の愛は重い…けど、大丈夫?」

「あ、ああ、もちろんだ。リズとならばどんな深みに嵌ってもいい」

お互いに強く抱き締め合いながら笑いながら号泣していた。落ち着くまで長い時間が掛かったがその時間さえ愛おしかった。

それから避けて通る事の出来ないこれからの事について話し合うことになった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

処理中です...