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8.本邸

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すぐに本邸に乗り込み、俺は侯爵夫妻とロザリンと対峙した。

苛立つ俺とは反対に彼らは上機嫌だった。
侯爵夫妻がロザリンの存在を知ったのは俺が教えたからだが、その際には契約の内容もきちんと話していたのであの女を招き入れるなど許せなかった。

「なんでこの女を本邸に連れてきたんですか!
出産させてから子供だけ引き取る契約で、それ以上関わらないつもりだったんです。それは事前に話したはずです。子供の養育は任せるかもしれませんが勝手な事をしないでいただきたい!」

「そうは言っても我が侯爵家の血を引いている子供を身籠っている大切な女性ではないか。遠い所に居たら何かあった時に対処できない。
こちらにいれば心身ともに落ち着いて出産に臨めるはずだ。王家も子供の誕生を心待ちにしているのだから、この対応は侯爵として当然のことだ」

「そうよ、アレクサンダー。妊婦は精神が不安定になることが多いのだから、手厚く面倒見てあげなくてはいけないわ。ふふ、どれ程の魔力を持っている子が生まれるのかしら~。今から楽しみでしょうがないわね」

そう言う両親の目は欲でギラついている。また俺のような膨大な魔力を持つ子の誕生を期待する亡者の目だ。
そして子を身籠っているあの女もその状況を喜んでいる。侯爵夫妻の態度を見て金銭のやり取り以上のなにかを望み始めたようだ。

 こいつらは腐ってやがる。
 贄になる子供を待っているなんて…反吐が出る!

自分の幸せの為に子供を作った俺も同じ穴の狢なのは良く分かっていた。それでも…俺はリズを手離さない為にはきっと何度でも同じ過ちを犯すのかもしれない。

 いや、だが、リズの心は失いたくない!
 どうすれば良かったんだ…。

リズと出会い俺は愛する感情を学んだが、それは彼女限定であってそれ以外には感情が揺さぶられる事はなかった。だから正しい答えはまだ導き出せないのだ。


「契約は理解しておりますが、今また馬車に揺られてはお腹の子の保証も出来かねますわ。それではアレクサンダー様が困ったことになるんではありませんか。離縁は嫌なのでございましょう?
私は貴方様の為にも健やかな子を産むつもりです。ですからそれまで侯爵様のお言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」

「そうだぞ、子が流れては結果的に正妻であるエリザベスが追いつめられる状況になるんだ。よく考えろ」

「王命が出されたらな妻と離縁する事になるわよ。子を産まない女は嫁失格だから私達はいなくなっても構わないけど。あなたはいいのかしら?」

畳みかけるように話してくる蛆虫達。
魔術で消し去ってやりたいがそれでは問題は解決しない。納得は出来ないが、まずは子を誕生させリズとの離縁を防ぐのを優先させなければ。

 チッ、忌々しいがこいつらの言う通りにするしかないか。

出産まで本邸にいるのは了承するが、リズの前には決して姿を見せるなと釘を刺し、急ぎ別邸で待つ愛おしい人の所に戻っていった。

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