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5.サラの記憶①
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結婚生活一年目は毎日が幸せで、こんなに幸せでいいのだろうかと思っていた。
『こんなに幸せ過ぎるとなんだか怖いわ』と言うと、彼は『俺と一緒なんだから君は永遠に幸せだよ』と優しく抱き締めてくれた。本当に幸せだった、私は運命の人に出会えたことを神様に感謝をしていた。
でもいつからか彼の帰宅が深夜になり、他の女性の影を感じる様になった。そして彼は私に冷たくなった。
必要な事以外は話し掛けることも許されず、離縁を求めるようになっていた。なにかがおかしいとすぐに感じた。彼はそんな人ではない、もし仮に他の女性を好きになったとしても、一方的に離縁を迫るのでなく、冷静に話し合いをするはずだ。
私は真実が知りたくて、彼が夢中になっている人に内緒で会いに行った。その女性は私と会うなり喚き始め、殴りかかって来た。周りの人が止めてくれたが、私は頬に痣が出来てしまった。
だがその女性と会ったことで私の違和感は確信に変わった。やはり彼に何かが起きていると。
その晩、彼と話し合おうと寝ずに待っていたら深夜に帰宅した彼からいきなり罵倒された。
『俺の最愛の人に襲い掛かったそうだな!お前はなんて恐ろしい女なんだ。穏便に離縁してやろうと思っていればつけあがりやがって。もう容赦しない』
マキタは顔に痣が出来ている私を見ながら言い捨て、私の横を通り抜け自室に向かった。その身体からは甘い香りがしていた、あの女性の香りだった…。
もう彼の目には私は映っていないのだろうか。
私のなかの何かが壊れ始めているのを感じていたが、彼を愛しているので気づかないふりをした。
彼は毎日離縁を迫ってくるが、私は決して頷かなかった。彼が元の彼に戻る日を信じひたすら耐えていた。
ある日体調を崩し侍女に付き添ってもらい医者の所へと訪ねて行った。診察を終えた私はまだ体調が悪かったので、まっすぐに帰らず侍女とお店に入りお茶を飲み休憩していた。すると彼があの女性と共に店に入ってきた。
二人の世界に入っている彼は私に気づくことなく、あの女性に愛を囁き口づけをしていた。そしてお茶を飲み終わると二人で上にある休憩室へと消えて行ってしまった。
私は声を掛けることも止めることもしなかった、いや出来なかった。身体が動かずただ目の前の現実を見つめていただけだった。
侍女に連れられなんとか邸宅に戻った私に話し掛ける者はいない。邸宅で働く者達は主人の所業を知っていたので、妻である私に掛ける言葉が見つからなかったのだろう。
私はこれが最後のチャンスだと決めた。今晩帰宅した彼と話し合いそれで今後のことを決断しようと思った。
彼は深夜になってから帰宅した。執事から連絡事項を聞いていた彼は私を見るなり顔を顰めた。そして言ったのだ、
『医者に行ったらしいな、無駄に金を使うな』
なぜ医者に行ったのか、体調はどうかと訊ねることなく、それだけ言って私の横を通り過ぎた。
やはりあの甘い香りがした。私はその香りに気分が悪くなりその場で蹲ってしまったが、彼はチラッと見ただけでそのまま自室へと歩いて行った。
私の心にあった大切なものが壊れるのが分かった…、もう戻れないのだ。
『こんなに幸せ過ぎるとなんだか怖いわ』と言うと、彼は『俺と一緒なんだから君は永遠に幸せだよ』と優しく抱き締めてくれた。本当に幸せだった、私は運命の人に出会えたことを神様に感謝をしていた。
でもいつからか彼の帰宅が深夜になり、他の女性の影を感じる様になった。そして彼は私に冷たくなった。
必要な事以外は話し掛けることも許されず、離縁を求めるようになっていた。なにかがおかしいとすぐに感じた。彼はそんな人ではない、もし仮に他の女性を好きになったとしても、一方的に離縁を迫るのでなく、冷静に話し合いをするはずだ。
私は真実が知りたくて、彼が夢中になっている人に内緒で会いに行った。その女性は私と会うなり喚き始め、殴りかかって来た。周りの人が止めてくれたが、私は頬に痣が出来てしまった。
だがその女性と会ったことで私の違和感は確信に変わった。やはり彼に何かが起きていると。
その晩、彼と話し合おうと寝ずに待っていたら深夜に帰宅した彼からいきなり罵倒された。
『俺の最愛の人に襲い掛かったそうだな!お前はなんて恐ろしい女なんだ。穏便に離縁してやろうと思っていればつけあがりやがって。もう容赦しない』
マキタは顔に痣が出来ている私を見ながら言い捨て、私の横を通り抜け自室に向かった。その身体からは甘い香りがしていた、あの女性の香りだった…。
もう彼の目には私は映っていないのだろうか。
私のなかの何かが壊れ始めているのを感じていたが、彼を愛しているので気づかないふりをした。
彼は毎日離縁を迫ってくるが、私は決して頷かなかった。彼が元の彼に戻る日を信じひたすら耐えていた。
ある日体調を崩し侍女に付き添ってもらい医者の所へと訪ねて行った。診察を終えた私はまだ体調が悪かったので、まっすぐに帰らず侍女とお店に入りお茶を飲み休憩していた。すると彼があの女性と共に店に入ってきた。
二人の世界に入っている彼は私に気づくことなく、あの女性に愛を囁き口づけをしていた。そしてお茶を飲み終わると二人で上にある休憩室へと消えて行ってしまった。
私は声を掛けることも止めることもしなかった、いや出来なかった。身体が動かずただ目の前の現実を見つめていただけだった。
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私はこれが最後のチャンスだと決めた。今晩帰宅した彼と話し合いそれで今後のことを決断しようと思った。
彼は深夜になってから帰宅した。執事から連絡事項を聞いていた彼は私を見るなり顔を顰めた。そして言ったのだ、
『医者に行ったらしいな、無駄に金を使うな』
なぜ医者に行ったのか、体調はどうかと訊ねることなく、それだけ言って私の横を通り過ぎた。
やはりあの甘い香りがした。私はその香りに気分が悪くなりその場で蹲ってしまったが、彼はチラッと見ただけでそのまま自室へと歩いて行った。
私の心にあった大切なものが壊れるのが分かった…、もう戻れないのだ。
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