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9.家族の反応

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私の予想とは違って、義母の話はトーマスを叱る内容ではなく私に落ち度があるというものだった。

(えっ。お義母さん、何を言っているの…)

いつも優しく私に接してくれていた義母は何かに取り憑かれたように鬼の形相で私を責め立てた。それも私が父の影響で【愛人】という存在を嫌悪しているのを知っているのに、わざわざその事まで持ち出してきている。

以前亡き父の色欲に家族が苦しめられた過去を義母に話した時は『辛かったわね、愛人なんて許せなくて当然よ。もし息子がそんな事をしたら私が懲らしめるから安心しなさい。あなたはもう私の大切な義娘なんだからね』と優しく慰めてくれたのに…。

何も出来なかった私に色々と教え、可愛がってくれていた義母は消えていた。…いえ、もしかしたら最初からいなかったのかもしれない。

(本当の母親のように慕っていたのに、お義母さんにとって私は義娘になれてなかったんだわ。浮気されて当然の嫁だったのね)

私はそんな義母に反論する気力を失って黙っていると、夫は相槌を打ち義母の話を肯定していた。そんな夫の態度は、私に更なる打撃を与えていた。

(二人にとって私は何だったのかしら…。言いなりになる嫁?それとも都合の良い使用人?)


頭の中で嫌な考えがぐるぐると渦巻いていると、今度は義父が淡々と責め立ててくる。

『ーーーだから貴族から嫁を貰うなんて碌な事にならんのだ』

そんな事は初耳だった。私とトーマスの結婚は身分差がある為すんなりとはいかなかった。だがお互いに自分の家族を説得し最後には結婚を認められ心から祝福してもらっていると思っていた。
歓迎されていると信じていたのに…。
義父にとっては私は10年経っても【気位の高い元貴族】であって、本当の家族ではなかったのか。

(寡黙だが温かく見守ってくれていると思っていたけど、本当は私と話すことも嫌だったのかしら…。10年間も一緒に居たのに私は義父の本心すら知らなかったのね)

私はもう何もかも信じられなくなっていた。
わずかな救いを求めてトーマスの方を見ると、彼は腕を組んでただそこにいるだけだった。私の味方をすることなく、義父の言葉をその態度で肯定している。

もう最初にあった怒りなんて私のどこを探しても見つける事なんて出来なかった。
自分の大切な10年間が意味のないものに思えて、悲しみで心が覆われていった。

夫と義父母の態度に傷つけられた私はもうその場に立っているのも限界だった。でも子供達の前で倒れたりしたら心配を掛けてしまうので、なんとか踏ん張っている状態だった。

すると今度は9歳になるリチャードがとんでもない事を話し出し、その内容に私は満足に息を吸う事さえ出来なくなってしまった。リチャードはやんちゃだが明るく真っ直ぐに育っていたので、まさかその息子からこんな酷い事を言われるなんて思ってもいなかった。
息子なりに何か理由があるのかもしれないと思いたかった。だが子供とはいえ、9歳となれば分別がついているはずなのに…。

それにリチャードは父親の浮気相手を以前から知っていたようだ、名前さえ知っているのだから。そして実の母親と父親の浮気相手を比べるという事をしているのだ。
家族の為に一生懸命に働いている私は地味なネズミで、仕事もせずに勤務時間中に浮気をしているミーシャを優しくて綺麗と言っている。

(義父母だけでなく息子からもこんな扱いをされる私って、生きている価値があるのかしら…。もう消えてしまいたい)

私の中にあった大切な家族は目の前から消えていた。それとも最初からいないのに、私が勝手に幻想を抱いて信じ込んでいただけだったんだろうか。
そうなのかもしれない。
きっと親切な神様が私に現実を知らせてくれたんだろう。


もう涙が溢れている顔を上げる事なんて出来なかった、こんな顔は彼らに決して見せたくない。とにかくこの場から離れたくて仕方がなかった。

私は頭を下げたまま一言だけ言って部屋を出た。そんな私の後を彼らは追いかけてくることはなかった。もしかしたら追いかけて謝罪してくれるかもという淡い期待は無残にも砕け散った。

(フフフ、あんな仕打ちを受けても諦め切れない私は本当に惨めね)


ただあの場で唯一家族でいてくれた長女アイリスだけが私の後を追ってきてくれた。
自分の部屋に戻り泣きながら震えている私に優しく寄り添い、心配をしてくれている。

「お母さん、大丈夫。私はちゃんとお母さんの味方だよ。みんな酷い事を言っていたけど悪いのはお父さんなんだから気にしちゃ駄目だよ。みんなどうしちゃったのかな?変な事ばかり言ってたよね」

アイリスの言葉は私の傷ついた心にそっと沁み込んでいった。そして私にも大切な家族がちゃんと残っていることに気づいた。

(そうよ、私の10年間は決して無駄じゃない!意味があったのよ)

夫の浮気から始まり義父母と息子からの仕打ちでボロボロになっていたが、アイリスというかけがえのない存在で私は前に向けて進む決心をした。









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