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32.覚悟の再会①
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ラミアは今幸せでないのだろうか…。
壊れかけているような危うさを見せる彼女にそんな思いを抱く。
そんなはずはないのに。
エドワードとラミアは本当に愛し合っていて、二人でならどんな困難だって乗り越えて幸せになれると思ったからこそ、私はあの屋敷を去っていった。
心と頭が混乱してしまい、いろいろと限界だったみたいだ。
みっともなくふらつきそうになる私の身体をそっと優しく逞しい腕が助けてくれた。
それはヒューイだった。
大きな温かい手で慈しむよう『寄り掛かってくれ、君のことは俺が支えるから大丈夫だ』としっかりと支えてくれる。
「マリア、待たせて悪かった。大丈夫か?」
私の異変を感じ取り、彼は心配そう顔で覗き込んでくる。
「顔色が悪いな…。すまない、君のそばか離れるべきではなかった。俺の落ち度だ」
「ヒュー…イ……」
本当は大丈夫だと言いたかった。
彼が戻ってきたら『待たせたお詫びにまた一緒に踊って』と笑ってお願いするつもりだったのに。
出てきた言葉は彼の名だけ。でもその名を口にすると張り詰めていた糸が緩んでいくのを感じた。
なんでかしら、悲しくなんてないのに泣きそうになってしまう。懸命に堪えていると、私の耳元で『大丈夫、もう大丈夫だから』と魔法の言葉を囁いてくれる。
ヒューイの言葉に不安定になっていた心が少しづつ落ち着いてくる。
自分を取り戻していく。
私が落ち着くまで何も聞いてこず、ただひたすらに寄り添ってくれるヒューイ。
彼は私のことを誰よりも理解してくれる。家族でも恋人でもないのに…。
『もう大丈夫』と思えてから、再び前にいるはずのラミアに視線を向けると彼女は一人ではなかった。
その隣にはエドワード・ダイソンの姿があり、彼女も夫であるエドワードに優しげに支えて貰っている。
二組のあいだにしばしの沈黙が流れる。
先に口を開いたのはヒューイのほうだった。
「エドワード久しぶりだな。それにダイソン伯爵夫人も随分とお元気そうでなによりです。声があちらの方まで届いていたので驚きましたが、それも美声ゆえなのでしょうか。
ところで夫人は無関係な人間にダイソン伯爵家の跡取りについて詳細に語って聞かせるのが趣味なのですか?
常識的に考えて、マリア嬢とはそんな個人的な話をする間柄には決してなりえないと思いますが。私の考えが一般的と思っていましたが、夫人は凡人では理解し難い深い考えをお持ちなのですね。
まあ、どうでもいいですが。
良くも悪くも自分の行いは自分に返ってくるものです。ダイソン伯爵夫人、今後が非常に楽しみですね…」
私とラミアのやり取りは戻ってくるヒューイの耳にも届いていたようだ。
彼女の非常識な態度に怒りを抱いているのがひしひしと伝わってくる。
声を荒げていないし、乱暴な言葉使いもしていない。丁寧な口調と素晴らしいほどの笑顔を浮かべて追い詰めていく。氷のような眼差しで射りながら。
まるで逃げられない獲物をいたぶるかのように。
それほどにヒューイの圧は容赦がない。パンター伯爵夫人の時とは比べものにならないほど。
当然ラミアでは対処なんて出来ない。
事の重大さにどうしていいのか分からず、夫エドワードの腕を強く掴んで震えている。
そしてそんな妻を優しく労るエドワードは以前と全く変わらない眼差しをラミアに向けている。
エドワードが私達の方を見て話し出す。
「ヒューイ久しぶり。それにマリア…嬢も久しぶりに会えて嬉しいよ。その…元気そうで安心した。君とこうして再び会えて本当に良かったと思っている。心配していたんだ、領地に引きこもっている君のことを。もしかしたらこのままずっと社交界に戻ってこないのではないかって。
離縁した俺が言うことではないが、君が前に進んでくれて心から喜んでいる、そして君のこれからの活躍を応援しているよ。
戻ってきてくれて有り難う」
まずは再会の喜びを素直に伝えてくるエドワード。
でも彼の言葉にヒューイが容赦なく噛み付く。
「従兄弟のよしみで教えてやる。挨拶より先に謝罪をするべきだな。お前にも妻の言葉は聞こえていただろう?俺とほぼ同時に戻ってきていたのだから。それならどんなに失礼なことを自分の妻がマリア嬢に告げていたか承知しているはず。妻のフォローも夫の役目だ。
それに『戻って来てくれて』と言っていたが、彼女はお前の為に社交界に復帰したわけじゃない。
彼女の行動に、勝手に救われようとするな。自分の罪は自分自身の行動で償うべきだ。
なにより彼女の行動は彼女自身の為だ。お前は一切関係はない、永遠にな。しっかり覚えておけ」
辛辣なもの言いと従兄弟だから遠慮がない口調だけれども、ヒューイは間違ったことは言っていない。
きっと彼が先に言ってなかったら、私が同じことを言っていた。
もう少し優しい表現を使って、それに『元妻のよしみ』は使わないだろうけど…。
壊れかけているような危うさを見せる彼女にそんな思いを抱く。
そんなはずはないのに。
エドワードとラミアは本当に愛し合っていて、二人でならどんな困難だって乗り越えて幸せになれると思ったからこそ、私はあの屋敷を去っていった。
心と頭が混乱してしまい、いろいろと限界だったみたいだ。
みっともなくふらつきそうになる私の身体をそっと優しく逞しい腕が助けてくれた。
それはヒューイだった。
大きな温かい手で慈しむよう『寄り掛かってくれ、君のことは俺が支えるから大丈夫だ』としっかりと支えてくれる。
「マリア、待たせて悪かった。大丈夫か?」
私の異変を感じ取り、彼は心配そう顔で覗き込んでくる。
「顔色が悪いな…。すまない、君のそばか離れるべきではなかった。俺の落ち度だ」
「ヒュー…イ……」
本当は大丈夫だと言いたかった。
彼が戻ってきたら『待たせたお詫びにまた一緒に踊って』と笑ってお願いするつもりだったのに。
出てきた言葉は彼の名だけ。でもその名を口にすると張り詰めていた糸が緩んでいくのを感じた。
なんでかしら、悲しくなんてないのに泣きそうになってしまう。懸命に堪えていると、私の耳元で『大丈夫、もう大丈夫だから』と魔法の言葉を囁いてくれる。
ヒューイの言葉に不安定になっていた心が少しづつ落ち着いてくる。
自分を取り戻していく。
私が落ち着くまで何も聞いてこず、ただひたすらに寄り添ってくれるヒューイ。
彼は私のことを誰よりも理解してくれる。家族でも恋人でもないのに…。
『もう大丈夫』と思えてから、再び前にいるはずのラミアに視線を向けると彼女は一人ではなかった。
その隣にはエドワード・ダイソンの姿があり、彼女も夫であるエドワードに優しげに支えて貰っている。
二組のあいだにしばしの沈黙が流れる。
先に口を開いたのはヒューイのほうだった。
「エドワード久しぶりだな。それにダイソン伯爵夫人も随分とお元気そうでなによりです。声があちらの方まで届いていたので驚きましたが、それも美声ゆえなのでしょうか。
ところで夫人は無関係な人間にダイソン伯爵家の跡取りについて詳細に語って聞かせるのが趣味なのですか?
常識的に考えて、マリア嬢とはそんな個人的な話をする間柄には決してなりえないと思いますが。私の考えが一般的と思っていましたが、夫人は凡人では理解し難い深い考えをお持ちなのですね。
まあ、どうでもいいですが。
良くも悪くも自分の行いは自分に返ってくるものです。ダイソン伯爵夫人、今後が非常に楽しみですね…」
私とラミアのやり取りは戻ってくるヒューイの耳にも届いていたようだ。
彼女の非常識な態度に怒りを抱いているのがひしひしと伝わってくる。
声を荒げていないし、乱暴な言葉使いもしていない。丁寧な口調と素晴らしいほどの笑顔を浮かべて追い詰めていく。氷のような眼差しで射りながら。
まるで逃げられない獲物をいたぶるかのように。
それほどにヒューイの圧は容赦がない。パンター伯爵夫人の時とは比べものにならないほど。
当然ラミアでは対処なんて出来ない。
事の重大さにどうしていいのか分からず、夫エドワードの腕を強く掴んで震えている。
そしてそんな妻を優しく労るエドワードは以前と全く変わらない眼差しをラミアに向けている。
エドワードが私達の方を見て話し出す。
「ヒューイ久しぶり。それにマリア…嬢も久しぶりに会えて嬉しいよ。その…元気そうで安心した。君とこうして再び会えて本当に良かったと思っている。心配していたんだ、領地に引きこもっている君のことを。もしかしたらこのままずっと社交界に戻ってこないのではないかって。
離縁した俺が言うことではないが、君が前に進んでくれて心から喜んでいる、そして君のこれからの活躍を応援しているよ。
戻ってきてくれて有り難う」
まずは再会の喜びを素直に伝えてくるエドワード。
でも彼の言葉にヒューイが容赦なく噛み付く。
「従兄弟のよしみで教えてやる。挨拶より先に謝罪をするべきだな。お前にも妻の言葉は聞こえていただろう?俺とほぼ同時に戻ってきていたのだから。それならどんなに失礼なことを自分の妻がマリア嬢に告げていたか承知しているはず。妻のフォローも夫の役目だ。
それに『戻って来てくれて』と言っていたが、彼女はお前の為に社交界に復帰したわけじゃない。
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なにより彼女の行動は彼女自身の為だ。お前は一切関係はない、永遠にな。しっかり覚えておけ」
辛辣なもの言いと従兄弟だから遠慮がない口調だけれども、ヒューイは間違ったことは言っていない。
きっと彼が先に言ってなかったら、私が同じことを言っていた。
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