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22.リラと呪われていない第二王子

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【~イザク殿下視点~】

リラとちゃんと話をする為にはまずこの鶏を黙らせる必要がある。それには彼女に頼むのが一番手っ取り早いだろう。

「リラ、二人だけで話したい。だからその鶏にいいと言うまで鳴かないように言い聞かせてくれ」
「分かったわ。エレン様、お静かに願います。場の空気を読まないと抹殺されるのは、なにも社交界だけではありませんからね」

微笑みながらそう言うリラとそれを聞き固まる鶏。

貴族の世界では空気を読めないと存在を無視されることもあるが、この場合は食され物理的に消えると言い聞かせて脅しているのだろう。
鶏はコクコクと頷きながら小刻みに震えている。

なんでそんなに怯えているんだと思ったが、…見なかったことにする。

もう鶏の名前も訂正はしなかった。
王族教育では忠義を尽くしてくれる臣下は大切にするべきだと学んでいる。だから蔑ろにしたことは一度もないし、王族の為なら犠牲にしていいと思ってもいない。

だが今はここにいない従者の名誉を自分の為に犠牲にすると決めた。
 
 ……許せ、エレン。
 




◇ ◇ ◇

【~リラ視点~】

イーライに言われてエレン様を宥めるが、微妙な表情を浮かべ私を見つめてくる。
その表情は兄がよく私に見せるものによく似ている気がする。

なぜ彼はそんな顔をしているのだろう。
彼の望み通りにエレン様はあれから一言も発言していないのに。

 …うーん、分からないわ。

考えても分からないことに時間を費やすのは無駄だから、気にしないことにした。

それよりも私の気持ちを伝えておきたい。いろいろなことを尋ねるのは後でも出来る。
  
「イーライ、あなたを想う気持ちが変わることはないわ」
「ありがとう、リラ。だが話が正しく通じていないところがあるようだ。まずは先にそこを訂正させて欲しい。そうしないと話が正しい方向に進まないから」

彼は突然の話に私がついていけないことを心配してくれている。
確かに驚いたけれど、ちゃんと受け入れている。

「大丈夫よ、ちゃんと分かっているから。この子は雌鶏だからエレン様が本当は女性だったということなら実はもう気づいているわ」

触れてはいけないことかもと思っていたから、あえて言葉にはしなかっただけ。

イーライはなぜか深いため息をつく。

「はぁ……、そこがまず違うんだ」
「違う?ではエレン様は鶏になると性転換を――」
「頼む、リラ!鶏=エレンの図式から離れてくれ!」
「……はい」

真剣な顔をしてイーライは叫んだ。
なんだかこれ以上私が話すと拗れる気がして、訳がわからないまま頷くことにする。

そして『リラ、ありがとう。真実のみを話すから聞いてくれ』とイーライが話し始めた。

彼の話によると、イザク殿下である彼は実際には呪われてはおらず、ひよこ殿下はただのひよこらしい。従者イーライ・ゴサンと名乗ったのは計画していたことではなく、私がひよこを第二王子だと勘違いした流れでそうなったそうだ。
そしてこの鶏はエレン・ゼイロに似ているが勿論本人ではなく、性別も男で間違いないという。


イーライの説明は、先ほどの私の勘違いよりも現実的でしっくりと来た。

エレン様と鶏はただの他人の空似だったみたいだ。

そこは納得できたけれど、次々と新たな疑問が湧き上がってくる。

「イーライの話は分かったわ。あっ、イーライでいい?それともイザク殿下と呼んだほうがいいかしら?」
「今のところはイーライでいい。他人行儀で呼ばれるのは辛い…」
「ではイーライと呼ぶわ。話は分かったけれど、実際には疑問だらけだわ。だから質問に答えて欲しいの」

ちゃんと話してくれなければ前には進めない。
彼が本物の第二王子だとしても、返答次第では王家へ送ったあの手紙はそのまま有効にしてもらおうと思っている。


「どんなことでも聞いてくれ。もう隠しごとも偽りもなしだ」

彼の表情は固い、私との関係が終わることを恐れているのだろう。

でも手加減をするつもりはない。
愛があれば何でも許されるなんて、舐めてもらっては困る。

現実は恋愛小説とは違って厳しいのだ。


「さあ、尋問を始めましょう。まずは呪われた第二王子はどうして誕生したのか教えてちょうだい。いつ、誰が企んだことなのかしら?」

私が微笑みながら尋ねると、彼はゴクリと唾を飲み込む。
そして信じられないかもしれないが、どうか信じて欲しいと前置きをしてからイーライは話し始めた。

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