50 / 61
50.法で裁けぬ者達②
しおりを挟む
怒声を発したのがランダ第一王子ではなく、隣国とはいえ一介の護衛騎士に過ぎないと分かるとこちら側の態度はあからさまに変わる。
「ランダ殿下、不敬な態度は心からお詫び致します。だが護衛騎士風情が怒鳴りつけるなど失礼だ!」
「たかが護衛にしかなれない分際で生意気なっ!」
ランダ第一王子が何も言わないのを了承と受け取り、質素な護衛騎士の制服を身に纏ったレザに対して侮った発言がする者達。
レザの身分を知っている視察団も静観している。
――動く必要がないからだ。
彼らがレザに向ける視線は絶対的な信頼のみ。
つまりこんな事で助けが必要になる主ではないと分かっているからこそ動かない。
「我が国では正しいことを告げるのに身分は必要ではない。だがこの国は違うようだな。郷に入っては郷に従えというからそこは合わせるとしよう。私はレザム・ハットン。王弟の息子で隣りにいるランダ第一王子の従兄弟だ。貴様らとさほど身分は変わらないと思うが、この身分なら発言は許されるか?」
「「「……っ!!!」」」
レザが隣国の王族だと知って、みな一様に青ざめ心のうちで悲鳴を上げている。
そして他の者の体を前に押し、自分だけ隠れようとみっともなく足掻いている。
その様子を鼻で笑うレザ。
「返事がないという事はこの身分では不足か…。では我が国でふんぞり返って報告を待っている国王でも連れて出直すとしようか」
「ヒィッ……、そ、その必要はございません」
誰かが裏返ったような声でそう答えると、レザはにやりと笑う。
隣で見ていたランダ第一王子は『ふんぞり返った発言は聞かなかったことにしてやる』と苦笑したあと、レザと同じ不敵な笑みを浮かべる。
…そのなんとも言えない表情に血の繋がりを感じてしまう。
「王政の廃止?属国にしてくれ?今更何を言っている。三年前王妃を差し出してまで守ったものを今度は簡単に捨てるだと…」
嘲るようにそう言うレザ。
「ですがあの時とは状況が違います!今回のことで上の者達には執政を任せられないと分かりました。それに高位貴族の殆どが不正に関わっており、このままでは民が苦しむことになります」
後ろの方にいる下位貴族からそんな声が上がると、周囲からは『その通りです!』『どうかお助け下さい』と言う声が続く。
それは執政に関与してこなかった下位貴族や壁際に控えている者達からのものだった。
――『民』と言っているが『我々』としか聞こえない。
「はっははは!本当に上が無能揃いなら下も同じだな。こうなったのは上だけの責任じゃない。国は一部の人間だけでは動かせない。国王を頂点に重鎮達、その下には高位貴族、下位貴族、民へと続く。つまり上を下が支えている。言い換えれば上が無能なのは下が己の役目を放棄しているからだ。上が無能なら有能に育てるか補え、それでも駄目ならすげ替えればいい。上と違って下は権力では劣るが数では勝っている。死ぬ気でやれば出来ないことではない」
「それはそうですが……」
レザの言うことは間違っていない。
下位貴族が権力を持つ上に意見するのは難しいが、民が革命を起こし王政を廃止した国も存在する。
今この場で不満を口にしている貴族達は何もしてこなかった。いや、我が身可愛さに保身に力を入れていただけ。
しかし殆どのものは納得していない顔をしている。
『そんなの理想論だ』
『私はただ真面目にやってきたのに…』
『……命を捨てろって言うのか』
『私は関係ない…』
――当然の反応だった。
隣国とこの国ではそもそも考え方というか土台が違う。
この国は互いに支え合うのではなく、無意識に依存し合うもしくは寄生し合っているほうが多い。
特に王宮内はこの三年間で変わってしまった。
正しいことを行っている者達もいるが、それは決して多くない。
――人は楽なほうに流されやすい。
私も隣国に行かずにここにいたら染まっていたのだろうか。
…たぶん染まらなかった。
正しいことを正しいと言える両親の背を見て育ったから、亡くなった両親や頑張っている弟に恥じない生き方しか選ばなかったと思う。
ざわつく様子にランダ第一王子がいち早く反応する。
「正しい事を発言するのに身分は関係ない。言いたいことがあれば言うといい」
レザよりも上の立場のランダ第一王子の言葉に囁き合っていた声が大きくなる。
どんな事を言ってもその身は守られるならば言いたが、やはり迷っているのだろう。
そんななか壁際に控えていた者達が連れだって前に出てきた。その中には侍女エリの姿もある。
一人の侍女が『あのよろしいでしょうか…』と控えめに声を上げるとランダ第一王子が『もちろん』と笑顔をみせて先を促す。
すると周りから押されるように前に出てきたのはエリだった。
最初は戸惑っている感じだったが『ほら言って、お願い』と周囲から言われて覚悟を決めたのか、背筋を伸ばして真っ直ぐ前を向く。
その姿は優秀な侍女そのものだった。
「ランダ殿下、不敬な態度は心からお詫び致します。だが護衛騎士風情が怒鳴りつけるなど失礼だ!」
「たかが護衛にしかなれない分際で生意気なっ!」
ランダ第一王子が何も言わないのを了承と受け取り、質素な護衛騎士の制服を身に纏ったレザに対して侮った発言がする者達。
レザの身分を知っている視察団も静観している。
――動く必要がないからだ。
彼らがレザに向ける視線は絶対的な信頼のみ。
つまりこんな事で助けが必要になる主ではないと分かっているからこそ動かない。
「我が国では正しいことを告げるのに身分は必要ではない。だがこの国は違うようだな。郷に入っては郷に従えというからそこは合わせるとしよう。私はレザム・ハットン。王弟の息子で隣りにいるランダ第一王子の従兄弟だ。貴様らとさほど身分は変わらないと思うが、この身分なら発言は許されるか?」
「「「……っ!!!」」」
レザが隣国の王族だと知って、みな一様に青ざめ心のうちで悲鳴を上げている。
そして他の者の体を前に押し、自分だけ隠れようとみっともなく足掻いている。
その様子を鼻で笑うレザ。
「返事がないという事はこの身分では不足か…。では我が国でふんぞり返って報告を待っている国王でも連れて出直すとしようか」
「ヒィッ……、そ、その必要はございません」
誰かが裏返ったような声でそう答えると、レザはにやりと笑う。
隣で見ていたランダ第一王子は『ふんぞり返った発言は聞かなかったことにしてやる』と苦笑したあと、レザと同じ不敵な笑みを浮かべる。
…そのなんとも言えない表情に血の繋がりを感じてしまう。
「王政の廃止?属国にしてくれ?今更何を言っている。三年前王妃を差し出してまで守ったものを今度は簡単に捨てるだと…」
嘲るようにそう言うレザ。
「ですがあの時とは状況が違います!今回のことで上の者達には執政を任せられないと分かりました。それに高位貴族の殆どが不正に関わっており、このままでは民が苦しむことになります」
後ろの方にいる下位貴族からそんな声が上がると、周囲からは『その通りです!』『どうかお助け下さい』と言う声が続く。
それは執政に関与してこなかった下位貴族や壁際に控えている者達からのものだった。
――『民』と言っているが『我々』としか聞こえない。
「はっははは!本当に上が無能揃いなら下も同じだな。こうなったのは上だけの責任じゃない。国は一部の人間だけでは動かせない。国王を頂点に重鎮達、その下には高位貴族、下位貴族、民へと続く。つまり上を下が支えている。言い換えれば上が無能なのは下が己の役目を放棄しているからだ。上が無能なら有能に育てるか補え、それでも駄目ならすげ替えればいい。上と違って下は権力では劣るが数では勝っている。死ぬ気でやれば出来ないことではない」
「それはそうですが……」
レザの言うことは間違っていない。
下位貴族が権力を持つ上に意見するのは難しいが、民が革命を起こし王政を廃止した国も存在する。
今この場で不満を口にしている貴族達は何もしてこなかった。いや、我が身可愛さに保身に力を入れていただけ。
しかし殆どのものは納得していない顔をしている。
『そんなの理想論だ』
『私はただ真面目にやってきたのに…』
『……命を捨てろって言うのか』
『私は関係ない…』
――当然の反応だった。
隣国とこの国ではそもそも考え方というか土台が違う。
この国は互いに支え合うのではなく、無意識に依存し合うもしくは寄生し合っているほうが多い。
特に王宮内はこの三年間で変わってしまった。
正しいことを行っている者達もいるが、それは決して多くない。
――人は楽なほうに流されやすい。
私も隣国に行かずにここにいたら染まっていたのだろうか。
…たぶん染まらなかった。
正しいことを正しいと言える両親の背を見て育ったから、亡くなった両親や頑張っている弟に恥じない生き方しか選ばなかったと思う。
ざわつく様子にランダ第一王子がいち早く反応する。
「正しい事を発言するのに身分は関係ない。言いたいことがあれば言うといい」
レザよりも上の立場のランダ第一王子の言葉に囁き合っていた声が大きくなる。
どんな事を言ってもその身は守られるならば言いたが、やはり迷っているのだろう。
そんななか壁際に控えていた者達が連れだって前に出てきた。その中には侍女エリの姿もある。
一人の侍女が『あのよろしいでしょうか…』と控えめに声を上げるとランダ第一王子が『もちろん』と笑顔をみせて先を促す。
すると周りから押されるように前に出てきたのはエリだった。
最初は戸惑っている感じだったが『ほら言って、お願い』と周囲から言われて覚悟を決めたのか、背筋を伸ばして真っ直ぐ前を向く。
その姿は優秀な侍女そのものだった。
142
お気に入りに追加
5,749
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる