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48.清廉潔白な側妃様〜侍女視点〜
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今日は王妃様の罪が裁かれる場だったはず。
それなのにこんなことってあるのだろうか…。
我が国の調査が間違っていて、王妃様は実際は何もしていなかった。
それが分かったのは隣国側が正しい調査を行っていたからで、もしそれがなかったら我が国はとんでもない間違いを犯していたかもしれないと思うと怖くてしかたがない。
上が勝手にそう判断したのだとしても、あんな重大な過ちを犯したら隣国から戦争を宣言されてもおかしくないのだから。
そんなことは御免だわ!
三年前だってどんなに大変だったか…。
あの時だって先王が勝手に始めた戦争だった。
もちろん一部の貴族達は協力したり、見て見ぬふりしたりしていたけど…。
でも私達下の者は協力だってしていない、そもそもそんな立場ではいなかった。田舎の下位貴族なんて名だけで平民と変わらない。
だから嵐が通り過ぎるまでじっとしていただけ。
誰だってそうする。
――命は惜しい。
何かあったら割を食うのは善良で何も知らない身分の低い者達と決まっている。
今回のことでは隣国側が良い働きをしてくれて本当に良かった。
無実の王妃様が救われたこともそうだけど、何より側妃様がこの件に一切関わっていないことが嬉しかった。
国王陛下や重鎮達やミヒカン公爵様までも問題があるのがはっきり晒されてしまった。
つまりこの国が揺らぐ可能性があるということだ。
でも私達にはまだ側妃様がいる。
それに隣国側の調査にとって清廉潔白なことがはっきりと示された。
これでこの国は、私達は、…救われる。
側妃様は養父であるミヒカン公爵の不正が明らかになっても動揺することなく国王陛下を見つめている。
確かに国王陛下は間違えた。でもそれはわざとではない。結果として誰も傷つけていないのだから許されるべきだろう。それにこれからも側妃様がその愛で陛下をお支えしたらきっと今までのように上手くいくはず。
これでなんの問題もないわ。
そう考えながら広間の端で控えていると、同僚の侍女が小さな声で話しかけてくる。
「エリ、良かったわね。側妃様は関係なくて」
「当たり前だわ」
「私、王妃様は無実だったのは嬉しいけど、昨日睨みつけちゃったの。罰せられるかしら…」
この国の一大事でも自分のことを心配している同僚侍女。
――その気持ちはよく分かる。
私達のような者にとって目の前の現実がすべてだ。
今だって壁際に控えている者達は囁きあって自分のこれからだけを心配している。
私達は目の前で慌てている貴族達と違って下々の者だから気楽だ。普段はあちら側になりたいと思っているけれど、こんな時はこちら側で良かったと思う。
――人間が勝手なのはあちら側もこちら側も変わらない。
「大丈夫よ。そんなことしたら侍女が殆どはいなくなってしまうもの」
本当にそう思ってもいたけれど、私は大丈夫だという余裕もあっての発言だった。
私は最後までいつも通りに王妃様に寄り添っていた。だから感謝されることはあっても恨まれる心配はない。
それに側妃様からも信頼されている。
余計なお世話かもと思ったけれど、側妃様のお気持ちをこっそり王妃様にお伝えもしておいた。きっとそれを知ったら後で感謝の言葉をもらえるはずだ『エリのお陰で王妃様から勘違いされなくて済んだわ』と。
お優しい側妃様ならきっとそう言ってくださる。
そして私のことをもっと信頼してくれて、ゆくゆくは侍女長に…。
――運が向いてきた。
重苦しい雰囲気なんて下っ端の私には関係はないと思いながら、また側妃様に目を向けるとどこか上の空で、それに顔色が悪いようにも見える。
まさか怯えている?
側妃様に限ってそんなはずはない。だって清廉潔白な彼女に怯える理由はない。
きっと体調が悪いのだろう、そうに決まっている。
これが終わったらすぐに駆けつけよう。
でも私は王妃様の侍女でもあるからその態度はまずいだろうかと一瞬迷う。
いいえ、きっと平気なはずよ。
王妃様は優しいだけの人だからこんな些細なことは気にしないだろう。
それなのにこんなことってあるのだろうか…。
我が国の調査が間違っていて、王妃様は実際は何もしていなかった。
それが分かったのは隣国側が正しい調査を行っていたからで、もしそれがなかったら我が国はとんでもない間違いを犯していたかもしれないと思うと怖くてしかたがない。
上が勝手にそう判断したのだとしても、あんな重大な過ちを犯したら隣国から戦争を宣言されてもおかしくないのだから。
そんなことは御免だわ!
三年前だってどんなに大変だったか…。
あの時だって先王が勝手に始めた戦争だった。
もちろん一部の貴族達は協力したり、見て見ぬふりしたりしていたけど…。
でも私達下の者は協力だってしていない、そもそもそんな立場ではいなかった。田舎の下位貴族なんて名だけで平民と変わらない。
だから嵐が通り過ぎるまでじっとしていただけ。
誰だってそうする。
――命は惜しい。
何かあったら割を食うのは善良で何も知らない身分の低い者達と決まっている。
今回のことでは隣国側が良い働きをしてくれて本当に良かった。
無実の王妃様が救われたこともそうだけど、何より側妃様がこの件に一切関わっていないことが嬉しかった。
国王陛下や重鎮達やミヒカン公爵様までも問題があるのがはっきり晒されてしまった。
つまりこの国が揺らぐ可能性があるということだ。
でも私達にはまだ側妃様がいる。
それに隣国側の調査にとって清廉潔白なことがはっきりと示された。
これでこの国は、私達は、…救われる。
側妃様は養父であるミヒカン公爵の不正が明らかになっても動揺することなく国王陛下を見つめている。
確かに国王陛下は間違えた。でもそれはわざとではない。結果として誰も傷つけていないのだから許されるべきだろう。それにこれからも側妃様がその愛で陛下をお支えしたらきっと今までのように上手くいくはず。
これでなんの問題もないわ。
そう考えながら広間の端で控えていると、同僚の侍女が小さな声で話しかけてくる。
「エリ、良かったわね。側妃様は関係なくて」
「当たり前だわ」
「私、王妃様は無実だったのは嬉しいけど、昨日睨みつけちゃったの。罰せられるかしら…」
この国の一大事でも自分のことを心配している同僚侍女。
――その気持ちはよく分かる。
私達のような者にとって目の前の現実がすべてだ。
今だって壁際に控えている者達は囁きあって自分のこれからだけを心配している。
私達は目の前で慌てている貴族達と違って下々の者だから気楽だ。普段はあちら側になりたいと思っているけれど、こんな時はこちら側で良かったと思う。
――人間が勝手なのはあちら側もこちら側も変わらない。
「大丈夫よ。そんなことしたら侍女が殆どはいなくなってしまうもの」
本当にそう思ってもいたけれど、私は大丈夫だという余裕もあっての発言だった。
私は最後までいつも通りに王妃様に寄り添っていた。だから感謝されることはあっても恨まれる心配はない。
それに側妃様からも信頼されている。
余計なお世話かもと思ったけれど、側妃様のお気持ちをこっそり王妃様にお伝えもしておいた。きっとそれを知ったら後で感謝の言葉をもらえるはずだ『エリのお陰で王妃様から勘違いされなくて済んだわ』と。
お優しい側妃様ならきっとそう言ってくださる。
そして私のことをもっと信頼してくれて、ゆくゆくは侍女長に…。
――運が向いてきた。
重苦しい雰囲気なんて下っ端の私には関係はないと思いながら、また側妃様に目を向けるとどこか上の空で、それに顔色が悪いようにも見える。
まさか怯えている?
側妃様に限ってそんなはずはない。だって清廉潔白な彼女に怯える理由はない。
きっと体調が悪いのだろう、そうに決まっている。
これが終わったらすぐに駆けつけよう。
でも私は王妃様の侍女でもあるからその態度はまずいだろうかと一瞬迷う。
いいえ、きっと平気なはずよ。
王妃様は優しいだけの人だからこんな些細なことは気にしないだろう。
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