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43.落ち着く心

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レザは私の涙が止まるまで、何度も何度も『もう大丈夫だ、ジュンリヤ』と優しく言い続けてくれた。

彼は決して私との物理的な距離を縮めては来ない。柔らかい笑みと優しい声と真っ直ぐな眼差しだけで私に寄り添ってくれる。

どこまでも私の立場を考えて行動してくれるレザ。
その想いに応えられなくて申し訳ないと思いながら、彼の気遣いに心のなかでそっと感謝する。

あんなに苦しかった気持ちがゆっくりと落ち着いていく。
まだこれからどうなるか具体的なことは何も分かっていない。
それでも彼のお陰で落ち着くことが出来たのは、彼のことを信頼しているからだろう。


彼はずっと巫山戯た態度で私の心を軽くし続けてくれ、そして今はただ真っ直ぐな想いから手を差し伸べてくれている。
レザだって立場や責任はあるはずで、それは簡単なことではないはず。

私は『助けて』と言ったけれど、彼のことは何も知らずにいる。
知りたいと思った、だって知らなくてはいけない。
もし今回のことで彼の命が脅かされることになるようだったら、やはり彼の手は取れない。



「レザ、あなたのことを教えて。話せないことは無理にとは言わないわ。でも知りたいの」
「どんな理由にせよ、俺のことを知りたいと思ってくれるのは大歓迎だ。視察団の仕事についてはまだ話せないこともあるが、個人的なことは問題ない。むしろ俺のすべてを知ってもらいたい。どうする、生まれた頃から聞くか?これでも可愛いと言われていた頃もあったんだ。まあ今の俺からは想像もできないだろうがな」

涙が止まった私に対して、レザはまた軽い口調に戻っている。
こういうところは流石だなと思う。状況に合わせて相手が居心地がよい雰囲気を一瞬で作り上げる。

今の私は彼が真剣すぎてもどう向き合えばいいか戸惑っていただろう。
でも彼からこうしてくれたら、自然と以前のように振る舞える。

 …レザ、ありがとう。
 

「今は時間がないから、知っておいたほうがいいことだけ教えてちょうだい。幼い頃の可愛いレザの話はまた後でゆっくりと聞かせてね」
か、それはいいな。その約束絶対に忘れるなよ、ジュンリヤ」

レザがにやりと笑いながらそう言ってきて、未来のことを当たり前のように話せている自分に気がついた。

これは私自身の切り替えが早いからではなくて、彼が醸し出す安心感のようなものにつれてしまったのだと思う。

彼はすべてを計算しているのか、それとも無意識なのか。
それはまだ分からないけれど、どちらにしろ凄い人なのは間違いない。 


レザはご機嫌な様子を隠すことなく話を続ける。

「まずは自己紹介だな。俺の名前はレザム・ハットン、父が王弟だからこれでも王族の端くれでもある。一応は騎士だが、要は何でも押し付けられる下っ端だ。だがそれなりに力はあるからそこは安心してくれ。身長は187センチで体重は忘れた。もちろん未婚だ、ここは重要なところだから忘れるな。好きな飲み物はジュンリヤが淹れたお茶で、嫌いな奴はジュンリヤを悲しま――」
「だ・か・ら・ランダ殿下とあんなに親しげだったのね」

とりあえず長くなりそうな予感がしたので強引に彼の話に割り込んでみると、彼は不満げな顔で『まだ途中なのに…』と訴えてくる。

その様子は大きな子供みたいで笑いがこみ上げてくる。

『レ・ザ・』と笑いを抑えながら少しだけ強い口調で彼の名を呼ぶと『…分かった。これも後でだからな』と彼は渋々頷いてくれた。

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