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7.アンレイの焦燥と安堵①〜アンレイ視点〜

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三年ぶりに再会した王妃と禄に話すこともないまま、急な公務に追われて一週間も王宮を留守にしてしまった。
戻ってきた後にすぐにでも会いに行きたかったが、会う時間を捻出できたのは午後の一時間だけだった。

「宰相、もう少しどうにかできないのかっ!」
「申し訳ありません、陛下。どれも急ぎの案件ばかりで…」

完全な八つ当たりだった。
辺境絡みの案件は最優先事項で後回しには出来ない。
そんななか一時間でも会う時間を作れたのは、宰相のお陰だった。



私は午前中は執務室で机に積まれた書類に目を通し、午後になると庭園へと急いで向かった。

愛しいジュンリヤとの時間はあっという間に過ぎてしまった。本当はもっと話をしたかった、ずっと彼女に寄り添っていたかった。

しかし国王である私にはまだ許されない、やるべきことがあるからだ。


国内の復興は進んでいるとはいえ、まだ終わってはいない。やるべきことは山積みで、時間がいくらあっても足りないのが現状だ。

貴族達は三年前より協力的とはいえ、それは私に公爵家という後ろ盾があるからこそだ。
だから油断は出来ない、しっかりと目を光らせていないと足元をすくわれてしまう。

それに一部の貴族達には気になる動きがあった。
敗戦後、隣国は街の再建や民への援助を優先するように提案してきた。それには領主に納める税の免除なども含まれていた。

我が国にそのを拒否する選択肢はなく、実際は命令と変わらない。

だがこの内容は理不尽なことではなく、その当時私も必要なことだと思っていたが、私の力では出来ない事だった。だから内心では隣国からの関与を歓迎していた。

多くの貴族達はこの提案に不満を持った『自分達だけがなぜ負担を強いられるのだ』と。
だが隣国には逆らうことは出来ないので、みな渋々従ったのだ。

貴族達は今も隣国を良く思っていない者が多くいる。

人質である王妃が帰国した今だから、動き出そうとしている者達もいるようだ。

残念なことだが、国力の差を認めない愚かな者は先王だけではない。



また何かあったら、せっかく取り戻した王妃をまた失うことになってしまうかもしれない。

 …絶対にそんなことにはさせない。
 

――三年前の自分とは違う。

あの時は泣く泣くジュンリヤを犠牲にしたが、これからは守ってみせる。


その為に必要なのは国王としての力だ。

私にはまだ足りない部分が多い。
公爵家の後ろ盾と優秀な側妃の補佐があるからこそ、今の状態まで王政を戻すことが出来たのだ。

もしそれが欠けたらどうなるか。

…考えなくても分かる。
また圧力を掛けてこようとする貴族が出てきて、悔しいことだが今の私ではその全てを撥ねつけられはしないだろう。


三年という年月は長いが、国王として十分な力を得るには短すぎる時間だった。

それは二年前の状況からも明らかだった。
彼女が隣国へ行ってから一年経っても、未熟な私は国内の貴族を纏めることすら満足に出来なかった。
正しい政策を行おうとしても、貴族に不利益が及ぶものは潰される始末だった。

『国王陛下、それは賛成しかねます』
『これは国として必要な政策だ。困窮する民の為にも優先して行うべきだ』
『それを優先したら、また我々に入る税収が減ることになります。申し訳ありませんが協力は出来かねます』

貴族達は頭を下げるが、それは形だけだった。
後ろ盾も国王としての力もない為に侮られていたのだ。


――努力だけでどうにもならなかった。

長い目で見れば、いつかは地道な努力が実を結ぶだろう。
国としてはそれでもいいのかもしれない。
国王と貴族が表立って対立したら、結局は下にいる民の生活だって影響が出て困ることになる。



――でもそれでは駄目だった。

悠長なことを言っている時間はなかった、それでは二年後に王妃ジュンリヤを取り戻すことができない。

隣国は『三年間で国内が安定したら王妃を帰国させる』と約束した。
裏を返せば、安定しなかったら人質としての生活が続くということだ。

貴族を押さえられない国王では駄目なんだ…。

 どうすればいいんだっ!
 
焦るばかりで何もかも上手く行かない日々。



『国王陛下、内密にお話がございます』
『……話とはなんだ?』

そんな時だった、国内有数の権力者であるミヒカン公爵が手を結ばないかと秘密裏に打診してきたのは…。


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