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【おまけの話】小さな白兎の切実な悩み〜相談役視点〜 前編
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私――ダリム・バードはこの国の第二王子の側近だ。この職に不満はないが、心は若いとはいえ年齢的にそろそろ引退しようかと最近まで真剣に考えていた。
そう、愛妻とともに孫の子守三昧という優雅な日々を過ごすつもりでいたのだ。
しかしその計画は変更になった。
なんと来年には我が家に新しい家族が増えることが先月発覚したのだ。
私は急いで引退宣言を撤回することした。
『殿下、来年には我が家に家族が増えます。つきましては、まだまだ殿下から搾り取らなくては、――いえ、稼がなくてはいけないので引退は撤回いたします。よろしいでしょうか?』
『ダリム、いろいろ言いたいことがありすぎて、何から言えばいいか分からん…』
言いたいことを纏められないなんて、いくつになっても手が掛かる殿下だ。そろそろ独り立ちして欲しいものだが、ここは側近として助言をしよう。
……出来損ないと廃嫡されては搾り取れなくなる。
私なら再就職先に困ることはないだろうが、それも面倒なことだ。
『とりあえずは言いたいことから順に言葉にするのがよろしいかと思います』
『……そうだな。まずはおめでとう、ダリム。二人目の孫なんてめでたいことだ。それから、王族から搾り取る発言は二度とするな。言い直せばいいという問題ではない。それから、引退を撤回と言っていたが、そもそも了承した覚えなどない。今後は私の許可なく勝手に引退計画を立てるな』
『以上でございますか?殿下』
殿下は頷きながら器用にため息をつく。
なんだ、やれば出来るではないか。もう子供までいるのだから、私の手を焼かせないで頂きたい。
ただ重大な間違いもあるのでそこは訂正しておこう。
『殿下、孫ではありません。私の子です』
『……………おめでとう』
こうして私の引退は無事に撤回された。
この歳でまた子供に恵まれるなんて奇跡だと小躍りして喜んでいたら『奇跡?あんなに励んでいて……』と妻は苦笑いしていた。
でも私も妻もお腹に宿った子の誕生を心待ちにしている。
息子に報告するとどこか遠くを見ながら『はっは…は…、おめでとう』と祝福してくれ、孫は『わぁー、楽しみ。赤ちゃんが叔父さんて凄いねっ!』と今からはしゃいでいる。
本当に今から私も楽しみで仕方がない。
仕事も家庭も順調で、毎日が薔薇色とはまさにこのこと。
そう思いながら今日も仕事に励んでいると、庭園の茂みの影にしゃがみこんでいる少女の姿が目に映る。
あれはレイミア様ですね…。
ケイドリューザ殿下の第一子のレイミア様は御年五歳になる。
その名からも分かると通り、殿下とハナミア様の強い希望でその名が名付けられた。
もちろん『ミア』は殿下が切望し、『レイ』はハナミア様が望んだ。
双頭の龍のように可愛い子になりますようにという願いが込められているようだが、事実を知らないということは恐ろしいことだ。
『双頭の龍のように危険な子になったらどうするのですか?殿下』
『その時はヒリヒリする老後が送れるな、ダリム』
こんな会話を殿下と私で交わしていたことをハナミア様は知らない。
レイミア様は見た目は母であるハナミア様にそっくりだが、魔力などは父である殿下譲りなのか膨大だ。魔術師になるかどうかは分からないが、非常に先が楽しみである。
私が茂みに近づいていくとレイミア様が顔を上げた。その顔は今にも泣きそうだった。
この子はなにかあるとこの場所に来るから、何かあったのだろう。
喧嘩ですかね…?
「レイミア様、いかがしましたか?」
「ポンポコ様っー!」
レイミア様はすかさず私に抱きついてくる。きっと私が通りかかるのを、今か今かと待っていたのだろう。
父親の側近であり、母親の友人でもある私を、レイミア様は幼い頃より慕ってくれている。だからなのか、物心がついた頃から両親に言えないことは私に相談するようになっていた。
まあ、可愛い相談事ばかりですがね……。
殿下は私のことを『古狸めっ』と時々言い、ハナミア様は家族だけの時は『ダリムさん』と友人として接してくれる。
前者はずいぶんな言い様だが、そのどちらにも尊敬の念はあり、賢いレイミア様はそれを分かっていた。
だからその中間を取ってなのだろうか。レイミア様は『ポンポコ様♪』と私を呼ぶようになった。もちろん、愛情を目一杯込めてだ。
……でも、ずいぶんと独創的な発想ですね。
レイミア様ではなければこの世から抹殺しているところだが、如何せん孫のように思っているので許さざるを得ない。
ちなみに巫山戯て『冷笑のポンポコ』と言った、どこぞの由緒正しき家の令息は消息を絶っていると聞く。
はっはは、どこで遊び呆けているんですかね~。
それ以来、レイミア様以外にこの呼び名を口にした者は、私の知る限りいない。
「お役に立てるかどうかは分かりませんが、私で良かったら話をお聞きしますよ、レイミア様」
この台詞を言うのは、親子二代で数えると何度目だろうか。――もう覚えていない。
そう、愛妻とともに孫の子守三昧という優雅な日々を過ごすつもりでいたのだ。
しかしその計画は変更になった。
なんと来年には我が家に新しい家族が増えることが先月発覚したのだ。
私は急いで引退宣言を撤回することした。
『殿下、来年には我が家に家族が増えます。つきましては、まだまだ殿下から搾り取らなくては、――いえ、稼がなくてはいけないので引退は撤回いたします。よろしいでしょうか?』
『ダリム、いろいろ言いたいことがありすぎて、何から言えばいいか分からん…』
言いたいことを纏められないなんて、いくつになっても手が掛かる殿下だ。そろそろ独り立ちして欲しいものだが、ここは側近として助言をしよう。
……出来損ないと廃嫡されては搾り取れなくなる。
私なら再就職先に困ることはないだろうが、それも面倒なことだ。
『とりあえずは言いたいことから順に言葉にするのがよろしいかと思います』
『……そうだな。まずはおめでとう、ダリム。二人目の孫なんてめでたいことだ。それから、王族から搾り取る発言は二度とするな。言い直せばいいという問題ではない。それから、引退を撤回と言っていたが、そもそも了承した覚えなどない。今後は私の許可なく勝手に引退計画を立てるな』
『以上でございますか?殿下』
殿下は頷きながら器用にため息をつく。
なんだ、やれば出来るではないか。もう子供までいるのだから、私の手を焼かせないで頂きたい。
ただ重大な間違いもあるのでそこは訂正しておこう。
『殿下、孫ではありません。私の子です』
『……………おめでとう』
こうして私の引退は無事に撤回された。
この歳でまた子供に恵まれるなんて奇跡だと小躍りして喜んでいたら『奇跡?あんなに励んでいて……』と妻は苦笑いしていた。
でも私も妻もお腹に宿った子の誕生を心待ちにしている。
息子に報告するとどこか遠くを見ながら『はっは…は…、おめでとう』と祝福してくれ、孫は『わぁー、楽しみ。赤ちゃんが叔父さんて凄いねっ!』と今からはしゃいでいる。
本当に今から私も楽しみで仕方がない。
仕事も家庭も順調で、毎日が薔薇色とはまさにこのこと。
そう思いながら今日も仕事に励んでいると、庭園の茂みの影にしゃがみこんでいる少女の姿が目に映る。
あれはレイミア様ですね…。
ケイドリューザ殿下の第一子のレイミア様は御年五歳になる。
その名からも分かると通り、殿下とハナミア様の強い希望でその名が名付けられた。
もちろん『ミア』は殿下が切望し、『レイ』はハナミア様が望んだ。
双頭の龍のように可愛い子になりますようにという願いが込められているようだが、事実を知らないということは恐ろしいことだ。
『双頭の龍のように危険な子になったらどうするのですか?殿下』
『その時はヒリヒリする老後が送れるな、ダリム』
こんな会話を殿下と私で交わしていたことをハナミア様は知らない。
レイミア様は見た目は母であるハナミア様にそっくりだが、魔力などは父である殿下譲りなのか膨大だ。魔術師になるかどうかは分からないが、非常に先が楽しみである。
私が茂みに近づいていくとレイミア様が顔を上げた。その顔は今にも泣きそうだった。
この子はなにかあるとこの場所に来るから、何かあったのだろう。
喧嘩ですかね…?
「レイミア様、いかがしましたか?」
「ポンポコ様っー!」
レイミア様はすかさず私に抱きついてくる。きっと私が通りかかるのを、今か今かと待っていたのだろう。
父親の側近であり、母親の友人でもある私を、レイミア様は幼い頃より慕ってくれている。だからなのか、物心がついた頃から両親に言えないことは私に相談するようになっていた。
まあ、可愛い相談事ばかりですがね……。
殿下は私のことを『古狸めっ』と時々言い、ハナミア様は家族だけの時は『ダリムさん』と友人として接してくれる。
前者はずいぶんな言い様だが、そのどちらにも尊敬の念はあり、賢いレイミア様はそれを分かっていた。
だからその中間を取ってなのだろうか。レイミア様は『ポンポコ様♪』と私を呼ぶようになった。もちろん、愛情を目一杯込めてだ。
……でも、ずいぶんと独創的な発想ですね。
レイミア様ではなければこの世から抹殺しているところだが、如何せん孫のように思っているので許さざるを得ない。
ちなみに巫山戯て『冷笑のポンポコ』と言った、どこぞの由緒正しき家の令息は消息を絶っていると聞く。
はっはは、どこで遊び呆けているんですかね~。
それ以来、レイミア様以外にこの呼び名を口にした者は、私の知る限りいない。
「お役に立てるかどうかは分かりませんが、私で良かったら話をお聞きしますよ、レイミア様」
この台詞を言うのは、親子二代で数えると何度目だろうか。――もう覚えていない。
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