57 / 66
57.マーズ公爵からの祝福?!③
しおりを挟む
国王陛下がこの場でマーズ公爵の肩を持てば、敵になるかもしれない。
それを考えたら応援するなど裏切り行為。
でもお年寄りは大切にするべきで…。
これはこれ、あれはあれ…でいいよね?
ガンバレ、ガンバレ!
と気づかれないように慎ましやかに応援していると、『ぷっ…』と隣から吹き出す声がした。
ばれてしまった…。
でも殿下は気分を害してはいなかった。
『ミアは優しいな』と私の耳元で甘く囁いてから、ぷるぷるしている国王陛下に『…まだ死ぬな』と一緒になって声援を送り始める。
――私の恋人は器が大きい。
しばらく見守っていたけれど、国王陛下に動きはない。
「ご老体は時間の流れがゆっくりですので、こちらから動いたほうがよろしいのでは。たぶん、待っていたら夜が明けてしまいます」
「……そうだな」
――実は、私もそんな気がしていた。
ダリムの耳打ちに殿下は苦笑いしてから、第二王子の顔をして一歩前に出る。
「国王陛下。私とてこの国の国政に口を出したいわけではない。つまりマーズ公爵家を潰すことまでは求めていない。どうでしょう、膿を取り除くという形を取って頂けるのなら、国交は維持するとお約束いたしますが…」
殿下が至極真っ当な妥協案を提示する。
冷静な判断ができる王なら、この提案を拒否はしないはず。
「それは名案ですな」
良かった。王太子はともかくとして、国王陛下はまともだった。
「では、マーズ公爵は爵位を譲り一線から退くということでよろしいでしょうか?国王陛下」
殿下ははっきりとした言葉を求める。
この夜会で口にした言葉なら国王といえども安易に撤回は出来ないからだ。
「ふむ、そうしましょう。マーズ公爵は速やかには家督を譲り、夫人とともに領地で余生を過ごすように。これは国王である私の命である」
国王陛下の命にお父様とお母様は項垂れてるが、抵抗はしない。もう何もかも手遅れだと分かっているからだ。
殿下はさらに話を進める。
「マーズ公爵家の新しい当主は嫡男でよろしいですね?」
「それが当然の流れですな」
「では、この場で宣言をお願い致します」
「うむ。………おっほん…」
こちらに望むような展開でどんどん話が進んでいく。だがここにきて、国王陛下は口ごもってしまう。
「おっほん…、うむ。うむ、うむ、おっほん…」
無駄に咳払いを繰り返す国王陛下。
そして、なぜかダリムに向かってしきりに目配せ?をしているような…。
なぜにここでダリム?
ダリムは引きつった笑みを浮かべながら殿下のそばから離れて、国王陛下の真後ろに立つ。
その立ち位置の意味はなんだろう。
転職ですか?と思っていると、国王陛下が続きを話し始める。
(これよりレイザ・マーズが家督を継ぎ…)
「うむうむ。これよりレイザ・マーズが家督を継ぎ…、おっほん」
こ、これは……。
完全にダリムが後ろから台詞を囁いている。
殿下も自分の側近が何をしているか気づいているはず。だってこの距離では一目瞭然。
でも何も言わないのは、国王陛下と裏で手を結んでいたからだ。
それなのに国王陛下は肝心な台詞を忘れ、分かりやすく助けを求めた。
はぅっ、これでいいのか…。
とりあえず、私と殿下と弟妹達にしか聞こえていのが救いだ。
ダリムは額に青筋を立てながらも、淡々と仕事をこしていく。いろいろな職種を兼業しているだけはある。
(正式にマーズ公爵となる。レイザは若いが優秀な双頭の龍だ、私は大いに期待している)
「うむ、正式にマーズ公爵となる。レイザはワル?じゃなくて、ワカイが優秀な双頭の龍だ。期待しているぞ、大蛇よ」
ちょっと間違って、最後は自分の言葉で締めた国王陛下。
大蛇という台詞でぐっと親近感が増したのは、きっと私だけ。
ダリムは静かにこちら側に戻ってきて『くそ爺…』と呟いていた。
殿下も同じ台詞をさっき呟いていたな…。
主従関係が長いと似るのだろう。
あれ?でも後ろでレイザも同じことを言っていた。
まあ、いい。
とりあえずは無事に終わったのだから。
もう終わったよね?と確認のために殿下を見ると、顔がまだ『…爺め』と言っていた。
…うん、気持ちは分かる。でもお年寄りだから大目に見ようね。
「国王陛下、今後も貴国とは良い関係を続けていけそうです。そしてマーズ公爵に私からお願いしたいことがあるのですが、この場をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです、殿下。マーズ公爵、前へ」
「…っ…は、はい」
慌ててお父様が前に進み出ようとすると『そなたではない』と国王陛下に諌められる。
そう、もうマーズ公爵は正式にレイザ・マーズとなった。お父様は大切にしていたその地位を先ほど失っている。
その場にへたり込むお父様とお母様に声を掛ける者は誰もいない。
……権力を失った者は役立たず。
二人は周りにそんなふうに接していた。――これは因果応報。
殿下の前にマーズ公爵となったレイザが立つ。その堂々とした佇まいは公爵として不足はない。
「マーズ公爵。私はマーズ公爵令嬢ハナミアとの結婚を望んでいる。必ずやそなたの姉を幸せにすると誓おう。どうかこの申し出を認めて欲しい」
今はレイザがマーズ公爵だから、殿下はお父様ではなくレイザに申し込んだのだ。
必要なのは当主の許可であって親ではない。
「ケイドリューザ殿下。そのお申し出お受けいたします。私にとって大切な姉上で、マーズ公爵家の宝でもあります。その誓い絶対に違えぬようにお願い致します。姉上のためにも、殿下自身のためにも…」
レイザがマーズ公爵として申し出を受けると周囲から『わぁっ!』と歓声が上がる。
この国の公爵令嬢と隣国の第二王子との結婚は、利益しかないからだ。
それを考えたら応援するなど裏切り行為。
でもお年寄りは大切にするべきで…。
これはこれ、あれはあれ…でいいよね?
ガンバレ、ガンバレ!
と気づかれないように慎ましやかに応援していると、『ぷっ…』と隣から吹き出す声がした。
ばれてしまった…。
でも殿下は気分を害してはいなかった。
『ミアは優しいな』と私の耳元で甘く囁いてから、ぷるぷるしている国王陛下に『…まだ死ぬな』と一緒になって声援を送り始める。
――私の恋人は器が大きい。
しばらく見守っていたけれど、国王陛下に動きはない。
「ご老体は時間の流れがゆっくりですので、こちらから動いたほうがよろしいのでは。たぶん、待っていたら夜が明けてしまいます」
「……そうだな」
――実は、私もそんな気がしていた。
ダリムの耳打ちに殿下は苦笑いしてから、第二王子の顔をして一歩前に出る。
「国王陛下。私とてこの国の国政に口を出したいわけではない。つまりマーズ公爵家を潰すことまでは求めていない。どうでしょう、膿を取り除くという形を取って頂けるのなら、国交は維持するとお約束いたしますが…」
殿下が至極真っ当な妥協案を提示する。
冷静な判断ができる王なら、この提案を拒否はしないはず。
「それは名案ですな」
良かった。王太子はともかくとして、国王陛下はまともだった。
「では、マーズ公爵は爵位を譲り一線から退くということでよろしいでしょうか?国王陛下」
殿下ははっきりとした言葉を求める。
この夜会で口にした言葉なら国王といえども安易に撤回は出来ないからだ。
「ふむ、そうしましょう。マーズ公爵は速やかには家督を譲り、夫人とともに領地で余生を過ごすように。これは国王である私の命である」
国王陛下の命にお父様とお母様は項垂れてるが、抵抗はしない。もう何もかも手遅れだと分かっているからだ。
殿下はさらに話を進める。
「マーズ公爵家の新しい当主は嫡男でよろしいですね?」
「それが当然の流れですな」
「では、この場で宣言をお願い致します」
「うむ。………おっほん…」
こちらに望むような展開でどんどん話が進んでいく。だがここにきて、国王陛下は口ごもってしまう。
「おっほん…、うむ。うむ、うむ、おっほん…」
無駄に咳払いを繰り返す国王陛下。
そして、なぜかダリムに向かってしきりに目配せ?をしているような…。
なぜにここでダリム?
ダリムは引きつった笑みを浮かべながら殿下のそばから離れて、国王陛下の真後ろに立つ。
その立ち位置の意味はなんだろう。
転職ですか?と思っていると、国王陛下が続きを話し始める。
(これよりレイザ・マーズが家督を継ぎ…)
「うむうむ。これよりレイザ・マーズが家督を継ぎ…、おっほん」
こ、これは……。
完全にダリムが後ろから台詞を囁いている。
殿下も自分の側近が何をしているか気づいているはず。だってこの距離では一目瞭然。
でも何も言わないのは、国王陛下と裏で手を結んでいたからだ。
それなのに国王陛下は肝心な台詞を忘れ、分かりやすく助けを求めた。
はぅっ、これでいいのか…。
とりあえず、私と殿下と弟妹達にしか聞こえていのが救いだ。
ダリムは額に青筋を立てながらも、淡々と仕事をこしていく。いろいろな職種を兼業しているだけはある。
(正式にマーズ公爵となる。レイザは若いが優秀な双頭の龍だ、私は大いに期待している)
「うむ、正式にマーズ公爵となる。レイザはワル?じゃなくて、ワカイが優秀な双頭の龍だ。期待しているぞ、大蛇よ」
ちょっと間違って、最後は自分の言葉で締めた国王陛下。
大蛇という台詞でぐっと親近感が増したのは、きっと私だけ。
ダリムは静かにこちら側に戻ってきて『くそ爺…』と呟いていた。
殿下も同じ台詞をさっき呟いていたな…。
主従関係が長いと似るのだろう。
あれ?でも後ろでレイザも同じことを言っていた。
まあ、いい。
とりあえずは無事に終わったのだから。
もう終わったよね?と確認のために殿下を見ると、顔がまだ『…爺め』と言っていた。
…うん、気持ちは分かる。でもお年寄りだから大目に見ようね。
「国王陛下、今後も貴国とは良い関係を続けていけそうです。そしてマーズ公爵に私からお願いしたいことがあるのですが、この場をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです、殿下。マーズ公爵、前へ」
「…っ…は、はい」
慌ててお父様が前に進み出ようとすると『そなたではない』と国王陛下に諌められる。
そう、もうマーズ公爵は正式にレイザ・マーズとなった。お父様は大切にしていたその地位を先ほど失っている。
その場にへたり込むお父様とお母様に声を掛ける者は誰もいない。
……権力を失った者は役立たず。
二人は周りにそんなふうに接していた。――これは因果応報。
殿下の前にマーズ公爵となったレイザが立つ。その堂々とした佇まいは公爵として不足はない。
「マーズ公爵。私はマーズ公爵令嬢ハナミアとの結婚を望んでいる。必ずやそなたの姉を幸せにすると誓おう。どうかこの申し出を認めて欲しい」
今はレイザがマーズ公爵だから、殿下はお父様ではなくレイザに申し込んだのだ。
必要なのは当主の許可であって親ではない。
「ケイドリューザ殿下。そのお申し出お受けいたします。私にとって大切な姉上で、マーズ公爵家の宝でもあります。その誓い絶対に違えぬようにお願い致します。姉上のためにも、殿下自身のためにも…」
レイザがマーズ公爵として申し出を受けると周囲から『わぁっ!』と歓声が上がる。
この国の公爵令嬢と隣国の第二王子との結婚は、利益しかないからだ。
85
お気に入りに追加
5,243
あなたにおすすめの小説
俺の不運はお前が原因、と言われ続けて~婚約破棄された私には、幸運の女神の加護がありました~
キョウキョウ
恋愛
いつも悪い結果になるのは、お前が居るせいだ!
婚約相手のレナルド王子から、そう言われ続けたカトリーヌ・ラフォン。
そして、それを理由に婚約破棄を認める書類にサインを迫られる。
圧倒的な権力者に抗議することも出来ず、カトリーヌは婚約破棄を受け入れるしかなかった。
レナルド王子との婚約が破棄になって、実家からも追い出されることに。
行き先も決まらず、ただ王都から旅立つカトリーヌ。
森の中を馬車で走っていると、盗賊に襲われてしまう。
やはり、不運の原因は私だったのか。
人生を諦めかけたその時、彼女は運命的な出会いを果たす。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
さげわたし
凛江
恋愛
サラトガ領主セドリックはランドル王国の英雄。
今回の戦でも国を守ったセドリックに、ランドル国王は褒章として自分の養女であるアメリア王女を贈る。
だが彼女には悪い噂がつきまとっていた。
実は養女とは名ばかりで、アメリア王女はランドル王の秘密の恋人なのではないかと。
そしてアメリアに飽きた王が、セドリックに下げ渡したのではないかと。
※こちらも不定期更新です。
連載中の作品「お転婆令嬢」は更新が滞っていて申し訳ないです(>_<)。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる