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57.マーズ公爵からの祝福?!③

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国王陛下がこの場でマーズ公爵の肩を持てば、敵になるかもしれない。

それを考えたら応援するなど裏切り行為。
でもお年寄りは大切にするべきで…。

これはこれ、あれはあれ…でいいよね?

 ガンバレ、ガンバレ!

と気づかれないように慎ましやかに応援していると、『ぷっ…』と隣から吹き出す声がした。

 ばれてしまった…。

でも殿下は気分を害してはいなかった。
『ミアは優しいな』と私の耳元で甘く囁いてから、ぷるぷるしている国王陛下に『…まだ死ぬな』と一緒になって声援を送り始める。

――私の恋人は器が大きい。


しばらく見守っていたけれど、国王陛下に動きはない。

「ご老体は時間の流れがゆっくりですので、こちらから動いたほうがよろしいのでは。たぶん、待っていたら夜が明けてしまいます」
「……そうだな」

――実は、私もそんな気がしていた。


ダリムの耳打ちに殿下は苦笑いしてから、第二王子の顔をして一歩前に出る。

「国王陛下。私とてこの国の国政に口を出したいわけではない。つまりマーズ公爵家を潰すことまでは求めていない。どうでしょう、膿を取り除くという形を取って頂けるのなら、国交は維持するとお約束いたしますが…」

殿下が至極真っ当な妥協案を提示する。
冷静な判断ができる王なら、この提案を拒否はしないはず。

「それは名案ですな」

良かった。王太子はともかくとして、国王陛下はまともだった。

「では、マーズ公爵は爵位を譲り一線から退くということでよろしいでしょうか?国王陛下」

殿下ははっきりとした言葉を求める。
この夜会で口にした言葉なら国王といえども安易に撤回は出来ないからだ。

「ふむ、そうしましょう。マーズ公爵は速やかには家督を譲り、夫人とともに領地で余生を過ごすように。これは国王である私の命である」

国王陛下の命にお父様とお母様は項垂れてるが、抵抗はしない。もう何もかも手遅れだと分かっているからだ。

殿下はさらに話を進める。

「マーズ公爵家の新しい当主は嫡男でよろしいですね?」
「それが当然の流れですな」
「では、この場で宣言をお願い致します」
「うむ。………おっほん…」

こちらに望むような展開でどんどん話が進んでいく。だがここにきて、国王陛下は口ごもってしまう。


「おっほん…、うむ。うむ、うむ、おっほん…」

無駄に咳払いを繰り返す国王陛下。
そして、なぜかダリムに向かってしきりに目配せ?をしているような…。

 なぜにここでダリム?

ダリムは引きつった笑みを浮かべながら殿下のそばから離れて、国王陛下の真後ろに立つ。

その立ち位置の意味はなんだろう。
転職ですか?と思っていると、国王陛下が続きを話し始める。


(これよりレイザ・マーズが家督を継ぎ…)
「うむうむ。これよりレイザ・マーズが家督を継ぎ…、おっほん」

こ、これは……。
完全にダリムが後ろから台詞を囁いている。

殿下も自分の側近が何をしているか気づいているはず。だってこの距離では一目瞭然。

でも何も言わないのは、国王陛下と裏で手を結んでいたからだ。
それなのに国王陛下は肝心な台詞を忘れ、分かりやすく助けを求めた。

 はぅっ、これでいいのか…。

とりあえず、私と殿下と弟妹達にしか聞こえていのが救いだ。

ダリムは額に青筋を立てながらも、淡々と仕事をこしていく。いろいろな職種を兼業しているだけはある。

(正式にマーズ公爵となる。レイザは若いが優秀な双頭の龍だ、私は大いに期待している)
「うむ、正式にマーズ公爵となる。レイザはワル?じゃなくて、ワカイが優秀な双頭の龍だ。期待しているぞ、大蛇よ」

ちょっと間違って、最後は自分の言葉で締めた国王陛下。

大蛇という台詞でぐっと親近感が増したのは、きっと私だけ。

ダリムは静かにこちら側に戻ってきて『くそ爺…』と呟いていた。

 殿下も同じ台詞をさっき呟いていたな…。

主従関係が長いと似るのだろう。
あれ?でも後ろでレイザも同じことを言っていた。

まあ、いい。
とりあえずは無事に終わったのだから。
もう終わったよね?と確認のために殿下を見ると、顔がまだ『…爺め』と言っていた。

…うん、気持ちは分かる。でもお年寄りだから大目に見ようね。



「国王陛下、今後も貴国とは良い関係を続けていけそうです。そしてマーズ公爵に私からお願いしたいことがあるのですが、この場をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです、殿下。マーズ公爵、前へ」
「…っ…は、はい」

慌ててお父様が前に進み出ようとすると『そなたではない』と国王陛下に諌められる。

そう、もうマーズ公爵は正式にレイザ・マーズとなった。お父様は大切にしていたその地位を先ほど失っている。
その場にへたり込むお父様とお母様に声を掛ける者は誰もいない。

……権力を失った者は役立たず。

二人は周りにそんなふうに接していた。――これは因果応報。



殿下の前にマーズ公爵となったレイザが立つ。その堂々とした佇まいは公爵として不足はない。

「マーズ公爵。私はマーズ公爵令嬢ハナミアとの結婚を望んでいる。必ずやそなたの姉を幸せにすると誓おう。どうかこの申し出を認めて欲しい」

今はレイザがマーズ公爵だから、殿下はお父様ではなくレイザに申し込んだのだ。
必要なのは当主の許可であって親ではない。

「ケイドリューザ殿下。そのお申し出お受けいたします。私にとって大切な姉上で、マーズ公爵家の宝でもあります。その誓い絶対に違えぬようにお願い致します。姉上のためにも、殿下自身のためにも…」

レイザがマーズ公爵として申し出を受けると周囲から『わぁっ!』と歓声が上がる。
この国の公爵令嬢と隣国の第二王子との結婚は、利益しかないからだ。
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