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56.マーズ公爵からの祝福?!②
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「ケイドリューザ殿下が物わかりの良い男で良かっ――」
「つまらないことでしょうか?我が子すら判別できない者が中枢にいる国を信じろと?とてもじゃないが信用なんて出来ません。重要な条約をうっかり忘れるかもしれない相手と、我が国は外交をするつもりはない」
王太子の言葉を遮り、殿下は極上の笑みを浮かべながら一刀両断する。
その堂々とした態度は余裕すら感じられる。
――つまりはすべて計算通り。
思わぬ展開に周囲は静まり返っている。
それはそうだ、政略結婚の話から外交問題にまで飛び火したのだから。
王太子はやっとことの重大さを認識したようで、『これはマーズ公爵の問題だ』と逃げ腰になっている。
「王太子殿下、それはあんまりです。力添えしてくださるお約束をしたではありませんか!」
「うるさいっ。そもそも私は関係ない話なんだ」
皆の視線を集めているなかで、マーズ公爵と王太子は内輪揉めを始める。周囲の目を気にする余裕なんてないようだ。
「殿下、あれはどうしますか?」
「やらせておけ。もう少ししたら嫌でも黙ることになる」
殿下とダリムがなにやら小声でその先のことを話していると、私のそばに弟妹達がやってくる。
「姉上、大丈夫ですか?」
「気分が優れないようなら一緒に下りましょう、お姉様」
「平気よ。レイザ、レイリン、ありがとう」
このありがとうは、今の言葉だけでなく全部に対してだ。
もっと褒めてと尻尾を振る子犬のような二人を順番に抱擁していると、ダリムが声を掛けてくる。
いつの間にか殿下との話は済んだらしい。
「ハナミア様。必要な事だったとはいえ、気分の悪い思いをさせて大変申し訳ございません」
「全然大丈夫です、ダリムさん。気にしないでください」
本気で申し訳無さそうな顔をしているダリム。私がにこりと笑みを返すと、安堵した表情になる。
「ダリム、双頭の龍。ミアの隣は私の場所だ。今すぐにどけ」
「相変わらずす狭量な男ですわね」
「ふっ、自信がないからですね」
「殿下、順番です。待てですよ、待て。犬でも出来る芸です」
容赦ない弟妹達の突っ込みと、ダリムのトドメの言葉。
いつもの会話が繰り広げられ、ここだけ周囲から切り離されたようになる。
うん、やっぱりいいな…。
「ミア、私は?」
抱擁を終えた弟妹達の次に現れたのは、順番を待っていた大きな子犬殿下。
マーズ公爵や王太子を捻じ伏せていた殿下とは別人。でもどっちの殿下も甲乙つけがたい。
つまり大好きだ。
『はい、どうぞ』と両腕を広げて殿下を抱きしめると、子犬殿下の見えない尻尾がブンブンと振れているのが伝わってくる。
ふふふ、可愛いな。
揉めている王太子達の声を聞き流しながら幸せを堪能していると、周囲がより一層ざわついてくる。
「そろそろ来たか」
「はい、予定より五分遅いですが…。あとで外交問題にしますか?」
「ご老体だ、大目に見てやれ」
なにやら話す殿下とダリムの視線の先には、私が肖像画で知っているこの国の国王の姿があった。
「あの…、リューザ様。国王陛下にそっくりな方がこちらに向かって来ます」
「ああ、呼んだからな」
は?呼んだ??誰を、そっくりさん…だろうか。
……いくらで?
相場は分からないけれど、まず頭に浮かんだのはそんな言葉。
自分でも分かっている、半分は現実逃避だ。
「本物でしょうか……」
「この国には国王の偽物もいるのか?」
不敬罪で捕まるから、たぶんいないと思う。
私と殿下で不毛な会話をしていると、こちらに向かって歩いてくる人が近づくに連れ、周囲の人々が次々に頭を下げて敬意を表し始める。
みんなそっくりさんに騙されている?その可能性もゼロではないから、一縷の望みを込めて王太子に目をやると『父上っ!』と叫んだ。
――ホンモノダッタ……。
国王陛下は息子である王太子の呼び掛けを無視して素通りし、隣国の第二王子の前まで来る。
「ケイドリューザ殿下。この度は我が国の恥をお見せして大変遺憾に思っております」
「あやふやな記憶力を持つマーズ公爵を中枢に置いておくのならば、この国との付き合い方も考え直させて頂く。我が国との国交か、それとも愚かな忠臣か。どちらを選ぶか決めるのは国王陛下です」
選択肢のない選択。
隣国との国交断絶など選べない。
いくらマーズ公爵家が力を持っていようとも、考えるまでもない。
……切り捨てるのはマーズ公爵家。
「ふむ……」
高齢の国王陛下は震える手を髭にあて考える素振りを見せる。杖を片手に立っている足もとは、おぼつかない様子だ。
その姿は頑張っているお爺さんそのもので、なんだか応援したくなる雰囲気を醸し出していた。
(…ガンバレ)
「つまらないことでしょうか?我が子すら判別できない者が中枢にいる国を信じろと?とてもじゃないが信用なんて出来ません。重要な条約をうっかり忘れるかもしれない相手と、我が国は外交をするつもりはない」
王太子の言葉を遮り、殿下は極上の笑みを浮かべながら一刀両断する。
その堂々とした態度は余裕すら感じられる。
――つまりはすべて計算通り。
思わぬ展開に周囲は静まり返っている。
それはそうだ、政略結婚の話から外交問題にまで飛び火したのだから。
王太子はやっとことの重大さを認識したようで、『これはマーズ公爵の問題だ』と逃げ腰になっている。
「王太子殿下、それはあんまりです。力添えしてくださるお約束をしたではありませんか!」
「うるさいっ。そもそも私は関係ない話なんだ」
皆の視線を集めているなかで、マーズ公爵と王太子は内輪揉めを始める。周囲の目を気にする余裕なんてないようだ。
「殿下、あれはどうしますか?」
「やらせておけ。もう少ししたら嫌でも黙ることになる」
殿下とダリムがなにやら小声でその先のことを話していると、私のそばに弟妹達がやってくる。
「姉上、大丈夫ですか?」
「気分が優れないようなら一緒に下りましょう、お姉様」
「平気よ。レイザ、レイリン、ありがとう」
このありがとうは、今の言葉だけでなく全部に対してだ。
もっと褒めてと尻尾を振る子犬のような二人を順番に抱擁していると、ダリムが声を掛けてくる。
いつの間にか殿下との話は済んだらしい。
「ハナミア様。必要な事だったとはいえ、気分の悪い思いをさせて大変申し訳ございません」
「全然大丈夫です、ダリムさん。気にしないでください」
本気で申し訳無さそうな顔をしているダリム。私がにこりと笑みを返すと、安堵した表情になる。
「ダリム、双頭の龍。ミアの隣は私の場所だ。今すぐにどけ」
「相変わらずす狭量な男ですわね」
「ふっ、自信がないからですね」
「殿下、順番です。待てですよ、待て。犬でも出来る芸です」
容赦ない弟妹達の突っ込みと、ダリムのトドメの言葉。
いつもの会話が繰り広げられ、ここだけ周囲から切り離されたようになる。
うん、やっぱりいいな…。
「ミア、私は?」
抱擁を終えた弟妹達の次に現れたのは、順番を待っていた大きな子犬殿下。
マーズ公爵や王太子を捻じ伏せていた殿下とは別人。でもどっちの殿下も甲乙つけがたい。
つまり大好きだ。
『はい、どうぞ』と両腕を広げて殿下を抱きしめると、子犬殿下の見えない尻尾がブンブンと振れているのが伝わってくる。
ふふふ、可愛いな。
揉めている王太子達の声を聞き流しながら幸せを堪能していると、周囲がより一層ざわついてくる。
「そろそろ来たか」
「はい、予定より五分遅いですが…。あとで外交問題にしますか?」
「ご老体だ、大目に見てやれ」
なにやら話す殿下とダリムの視線の先には、私が肖像画で知っているこの国の国王の姿があった。
「あの…、リューザ様。国王陛下にそっくりな方がこちらに向かって来ます」
「ああ、呼んだからな」
は?呼んだ??誰を、そっくりさん…だろうか。
……いくらで?
相場は分からないけれど、まず頭に浮かんだのはそんな言葉。
自分でも分かっている、半分は現実逃避だ。
「本物でしょうか……」
「この国には国王の偽物もいるのか?」
不敬罪で捕まるから、たぶんいないと思う。
私と殿下で不毛な会話をしていると、こちらに向かって歩いてくる人が近づくに連れ、周囲の人々が次々に頭を下げて敬意を表し始める。
みんなそっくりさんに騙されている?その可能性もゼロではないから、一縷の望みを込めて王太子に目をやると『父上っ!』と叫んだ。
――ホンモノダッタ……。
国王陛下は息子である王太子の呼び掛けを無視して素通りし、隣国の第二王子の前まで来る。
「ケイドリューザ殿下。この度は我が国の恥をお見せして大変遺憾に思っております」
「あやふやな記憶力を持つマーズ公爵を中枢に置いておくのならば、この国との付き合い方も考え直させて頂く。我が国との国交か、それとも愚かな忠臣か。どちらを選ぶか決めるのは国王陛下です」
選択肢のない選択。
隣国との国交断絶など選べない。
いくらマーズ公爵家が力を持っていようとも、考えるまでもない。
……切り捨てるのはマーズ公爵家。
「ふむ……」
高齢の国王陛下は震える手を髭にあて考える素振りを見せる。杖を片手に立っている足もとは、おぼつかない様子だ。
その姿は頑張っているお爺さんそのもので、なんだか応援したくなる雰囲気を醸し出していた。
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