上 下
27 / 28

27.幻と真実①

しおりを挟む
悲恋の恋人達が結ばれてから三年の月日が経過した。

リデックは相変わらず外だけでなく屋敷でも仲睦まじい夫婦を演じ、やすらげない日々を送っていた。
以前のハンナとの婚姻と違い、元王女であるタチアナを蔑ろに出来ない事は空気を読めない男リデックでさえ分かっているので、愛妻家のふりをしているのだ。

『実は妻であるタチアナを愛していない』と誰かに愚痴ることが出来たのならストレス発散になるのだろうが、悲恋を乗り越え結ばれた恋人達にはそれすら許されない雰囲気があった。

---ああハンナがいた頃が懐かしい、いつでも俺を立て支えてくれる健気な妻。
…タチアナとは大違いだ。彼女はいつでも美しく着飾り明るく大輪の薔薇のようだが、俺に合わせる気遣いはないので一緒に居て疲れてしまう。一時の恋人なら最高だが、妻としては最悪だ。
はぁ~。

リデックは毎日楽しそうに生活している妻タチアナを横目に、ため息を吐くのを懸命に堪えて笑顔を作っていた。



そんな日常が続いていたある日、ラース王国に『隣国の国王が退位する』という知らせが届いた。理由は明記されていないが現国王が早々に退位し第一王子がその後を継ぐというのだ。
現国王の退位と新国王を祝う式典にラース王国の王族も招待されていたが、あいにく国王夫妻は動かせない予定があり王子も他国を訪問中なので出席できない。

だが隣国との良好な関係を示すためにも王族の誰かが行かなくてはならない。誰を行かせるべきかで、王族と家臣たちは話し合いを進めていた。

「やはり隣国へは丁重に謝罪し、代理として宰相様が行くのはどうでしょうか?」

「いやいや、それでは不味いだろう。やはり遠縁の王族の方に、」

「私が行きましょう」

なにを考えているのか離縁した隣国の元正妃であるタチアナが自ら名乗りを上げた。

「し、しかしタチアナ様は身分的には問題ありませんが、流石に離縁した元正妃の貴女様が行くのは不適切では…」

家臣の一人が勇気を出して控えめな言葉を使い『相応しくない』と進言したが、タチアナには通じなかった。

「あら、退位される国王は私を寵愛していたから訪問をきっとお喜びになるわ。祝い事なのだから、相手が喜ぶ者を行かせるのが礼儀というのもでしょう」

元王女にこう言われたら臣下達は反対など出来ない。後は国王に一塁の望みを繋げたが…『うむ。ではタチアナ夫妻に今回の出席を任せよう』と決定されてしまった。


タチアナから事の顚末を聞いたリデックは珍しく浮かない表情をした。彼は元妻が再婚し隣国にいるのを知っていたので、隣国でハンナに会ったら冷静でいられるか自信がなかったのだ。

---ハンナには会いたい。でも他の男の妻になっている彼女を見るのは辛いし、彼女も俺を見て泣いてしまうかもしれない。

だがそんな夫を見てタチアナは自分の都合のいいように勘違いしていた。

「あらリデックったら心配症ね。隣国の国王はまだ私を諦めていないと思うけど、もう私はあなたの妻なのだから手を出してきたり出来ないから安心してちょうだい。でも私を巡って二人の男が争うってなんか素敵ね、ふふふ」

「‥‥そうだな」

リデックはこんな妻に慣れていたので、心のこもっていない適当な返事をしてやり過ごした。


それから数日後にはリデックとタチアナは国の代表として隣国への式典に参加するため出発した。この時の二人は、隣国で自分達が真実を知るなんて考えてもいなかった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ミーナとレイノーは婚約関係にあった。しかし、ミーナよりも他の女性に目移りしてしまったレイノーは、ためらうこともなくミーナの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたレイノーであったものの、後に全く同じ言葉をミーナから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

処理中です...