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9.王命③
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「私が望みですか…。それはどういう事でしょうか?私はそのような畏れ多いことを望んだ覚えはございませんが」
「今更国王の前だからと気持ちを隠さなくてもよい。宰相からの報告ですべて把握している。
宰相に聞かれた時『降嫁を望み喜んで受け入れる』と言っただろう。それにタチアナの気持ちを優先しろともな。王女がまだ自分を愛していると信じ『自分こそがその相手だ』とアピールしていたそうだな。まあ次期伯爵位なのに図々しいが、それぐらいの根性がある奴なら我が娘を任せても良いと判断したのだ」
「今回は悲恋の恋人達の再婚だから、反対する者など誰もいないわ。離縁のことも王家からタオ伯爵にすでに話を通してあるから心配はいらないわ。今度こそ二人で幸せになりなさい」
国王と正妃の話を聞いて、リデックは自分が取り返しのつかない過ちを犯していた事に気づいた。
----宰相からの問いはそう意味だったのか…。もっとはっきりとした言葉で問うてくれれば、俺は返答を間違えなかったのに。
だがなんで…、あの返答を降嫁の了承や俺のアピールだなんて受け取るんだ!
俺は周りに一言だって王女に未練があるなんて言ってない、それなのにまだ恋情がある前提で話しを勝手に進めるんだ!
王女の帰還が決まった頃から周りが勝手に盛り上がっていたのは知っていたが、リデックが述べた一般的な意見や沈黙をまさかここまで自分達に都合よく解釈しているとは考えてもいなかった。
本来ならリデックの気持ちを直接確認すれば間違いはすぐに分かった事だが、『悲恋の恋人達の愛は永遠』という勝手な思い込みで間違った方に話しが進んでいたのだ。
----どうすればいいんだ。このままでは離縁させられて愛する妻を失ってしまう。それだけは、それだけは絶対に嫌だ。
話は終わったとばかりに国王が玉座から立とうとした時、リデックは必死の形相で話しを続けた。
「私の妻は今子供を身籠っております。そんな状態の妻を放り出すなど私には出来ません」
「それも調べて承知している。三年前は隣国の王への配慮からお前の結婚を急がせて悪かったと思っている。
婚姻後は政略結婚の妻と長年不仲で屋敷にほとんど帰らなかったそうだな。最近は両家から後継の催促を受け、屋敷に戻り無理矢理子作りをしていたようだが。まあ懐妊と降嫁の順番が逆だったらと思うがこればかりはどうしようもない」
「でしたら生まれてくる子の為に、」
「それは安心しろ。タオ伯爵息女も出来た女性だと聞いている、悪いようにはせん。離縁後には子供と共に受け入れてくれる良き再婚先を王家が責任を持って用意しよう。
不仲な両親の元で育つよりも仲睦まじい両親に育てられた方が生まれてくる子も幸せだろう。
二人を政略結婚の犠牲にさせ不幸な婚姻を押し付けるような結果になってしまったのだから、これくらいの手配は王家として当然のことだ」
国王は完璧にリデック達が不仲が続いている不幸な夫婦だと信じ込んでいた。逆に不幸な夫婦をその辛い現状から救い出そうとしていると本気で信じている。
リデックが婚姻後の二年間、妻を蔑ろにしていたのは事実だ。だが半年前から妻への愛を自覚し良き夫として振舞っていたつもりが、傍から見たら後継作りの為に屋敷で生活するようになったくらいにしか認識されていなかったようだ。
確かにリデックはハンナへの愛を認めた後も外で妻の話をしないし、夜会でも仲睦まじい様子など見せなかった。それは照れからであって、不仲が続いていたわけではなかった。屋敷の中では愛情を示していたがそんな当主の事情など使用人達が外に漏らすこともないので他人は知らない。
だが今更『それは違う!』と言っても通じないだろうし、なにより国王がここまで話を進めているのなら、それを覆す力はリデックにはない…。
「今更国王の前だからと気持ちを隠さなくてもよい。宰相からの報告ですべて把握している。
宰相に聞かれた時『降嫁を望み喜んで受け入れる』と言っただろう。それにタチアナの気持ちを優先しろともな。王女がまだ自分を愛していると信じ『自分こそがその相手だ』とアピールしていたそうだな。まあ次期伯爵位なのに図々しいが、それぐらいの根性がある奴なら我が娘を任せても良いと判断したのだ」
「今回は悲恋の恋人達の再婚だから、反対する者など誰もいないわ。離縁のことも王家からタオ伯爵にすでに話を通してあるから心配はいらないわ。今度こそ二人で幸せになりなさい」
国王と正妃の話を聞いて、リデックは自分が取り返しのつかない過ちを犯していた事に気づいた。
----宰相からの問いはそう意味だったのか…。もっとはっきりとした言葉で問うてくれれば、俺は返答を間違えなかったのに。
だがなんで…、あの返答を降嫁の了承や俺のアピールだなんて受け取るんだ!
俺は周りに一言だって王女に未練があるなんて言ってない、それなのにまだ恋情がある前提で話しを勝手に進めるんだ!
王女の帰還が決まった頃から周りが勝手に盛り上がっていたのは知っていたが、リデックが述べた一般的な意見や沈黙をまさかここまで自分達に都合よく解釈しているとは考えてもいなかった。
本来ならリデックの気持ちを直接確認すれば間違いはすぐに分かった事だが、『悲恋の恋人達の愛は永遠』という勝手な思い込みで間違った方に話しが進んでいたのだ。
----どうすればいいんだ。このままでは離縁させられて愛する妻を失ってしまう。それだけは、それだけは絶対に嫌だ。
話は終わったとばかりに国王が玉座から立とうとした時、リデックは必死の形相で話しを続けた。
「私の妻は今子供を身籠っております。そんな状態の妻を放り出すなど私には出来ません」
「それも調べて承知している。三年前は隣国の王への配慮からお前の結婚を急がせて悪かったと思っている。
婚姻後は政略結婚の妻と長年不仲で屋敷にほとんど帰らなかったそうだな。最近は両家から後継の催促を受け、屋敷に戻り無理矢理子作りをしていたようだが。まあ懐妊と降嫁の順番が逆だったらと思うがこればかりはどうしようもない」
「でしたら生まれてくる子の為に、」
「それは安心しろ。タオ伯爵息女も出来た女性だと聞いている、悪いようにはせん。離縁後には子供と共に受け入れてくれる良き再婚先を王家が責任を持って用意しよう。
不仲な両親の元で育つよりも仲睦まじい両親に育てられた方が生まれてくる子も幸せだろう。
二人を政略結婚の犠牲にさせ不幸な婚姻を押し付けるような結果になってしまったのだから、これくらいの手配は王家として当然のことだ」
国王は完璧にリデック達が不仲が続いている不幸な夫婦だと信じ込んでいた。逆に不幸な夫婦をその辛い現状から救い出そうとしていると本気で信じている。
リデックが婚姻後の二年間、妻を蔑ろにしていたのは事実だ。だが半年前から妻への愛を自覚し良き夫として振舞っていたつもりが、傍から見たら後継作りの為に屋敷で生活するようになったくらいにしか認識されていなかったようだ。
確かにリデックはハンナへの愛を認めた後も外で妻の話をしないし、夜会でも仲睦まじい様子など見せなかった。それは照れからであって、不仲が続いていたわけではなかった。屋敷の中では愛情を示していたがそんな当主の事情など使用人達が外に漏らすこともないので他人は知らない。
だが今更『それは違う!』と言っても通じないだろうし、なにより国王がここまで話を進めているのなら、それを覆す力はリデックにはない…。
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