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5.兄妹の作戦会議

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翌日サイガ・ミファンが直接王宮に出向き、乳兄弟である竜王に状況を説明すると、バイザルは二つ返事でララルーアを預かることを了承した。

「そうか第三子か楽しみだな。トカタオにはしっかりララルーアの世話をさせるから大丈夫だ。安心して抱卵していろ」
「だが竜力を与える事をどう説得する?『番』でもないのにと不審がっては困る」

そうなのだ、竜力は『番』同士でしか直接のやり取りは出来ないと、竜人ならみな知っている。

「そこは、大丈夫だ。竜力が膨大な金髪金目の竜は、他の竜の常識が当てはまらない事も多々ある。竜王になる為の鍛錬だと言って無理矢理納得させるだけだ」

サイガはバイザルの能天気な発言に一抹の不安を覚えたが、金髪金目の金竜が特別な存在なのも確かで、彼らにしか出来ない事も数多くある。それに何より今回の解決策はこれしかないので、トカタオ王子の説得は父である竜王に任せることにした。

「ではよろしく頼む。だが絶対にララルーアが『番』だと王子には告げるなよ。そんな事をしたら許さんからな」
「……もちろんだ」

あわよくば『番』を亡くしたと思い込んでいる息子にチャンスをやろう思っていた父バイザルであったが、サイガの殺気のこもった先制を受け、素直に諦めた。----100年前に乳兄弟サイガに思い出の一ページを売られた事を思い出す。

(すまん、トカタオ。自分の不始末は自力で挽回してくれ)----王は色々とばれてはまずい事を乳兄弟に握られている。


マオとララルーアの王宮滞在許可をバイザルから貰うと、サイガはすぐさま深紅の竜体になり愛しい家族が待つ南の辺境地へと飛んで帰って行った。



*****************************



「だ・か・ら、私に考えがあるの!お兄様は静かに見守ってくれていれば大丈夫なの~」
「可愛いララを無防備な状態で王子に近づけさせられない!俺は常にララの側にいるからな!」
「お兄様は王宮に滞在中は学園に通う約束をお母様としてたでしょ!」

兄妹で言い争っているのは、王宮滞在中でのマオの身の振り方についてだ。
両親からは『いい機会だからマオは学園に通いながらララルーアの安全に気を配るように』と言われていたが、シスコンマオは納得していない。可愛いララの側にずっといたくて、両親からの提案をスルーする気でいた。
それがララにばれて、怒られているのである。
ララが両腕を前で組んだつもりでプンスカプンスカしているが、なんせ竜体の腕は短いのでちゃんと組めてない。そのポーズではまったく怒りは伝わらず、それどころかマオを喜ばせている。

「そのポーズはなんだ?ツンデレポーズかな、クックック。とっても可愛いぞ」
「違うもん。怒り爆発5分前ポーズよ!」
「ハッハッハ、全然伝わらないよ。だから俺が側にいないとダメなんだ。王子が何か誤解して暴走したらやだろ」

デレデレしながらマオがララを抱っこしようと手を伸ばしてくる。ララはトテトテと兄の手を躱し、安全な場所まで離れると右手の人差し指を兄に向かってピシッと突きつける!

「そもそも、私は王子とは一言も話しません!」
「でもそれは難しいんじゃないかな。竜力を貰う時、接触はするんだから」

ララはにやりと悪い子の顔する。

「ピピッピ、ピピピーイ。ピロピロピー♪」
「いきなり何かな、それは…?」
「うふふ、これが私の作戦よ。話すのも嫌だから、王宮では話せないふりをするの。エッヘン、その名も『ララは赤ちゃん作戦』よ」

自信満々に胸を反らして発表するララだが、丸い身体を反らし過ぎて後ろにくるりと一回転している。えっへへ、失敗しちゃったと照れているが、マオはその可愛い仕草よりも作戦の方が気になっている。

「なぁ、『ララは赤ちゃん作戦』は成立しないよ。獣人や人の赤ちゃんならともかく、竜人は生まれて直ぐに会話が出来るだろ?みんな知っている事だ」
「お兄様、大丈夫!噓をつけばいいのよ♪」
「………」
(何をどう噓を吐くというのだ、それにそんなものは作戦とは言わない…)

マオはララの突拍子もない作戦に呆れて何も言えない。

「ピピピーイ、ピンピロン♪」
「……。分かった、ララがそこまで言うのなら付き合うよ」
「ピッピーーイ♪」

ララは作戦の練習を兼ねてご機嫌で返事をしているが、マオには作戦の失敗しか見えてこない…。
額に手をあてて『はぁー』とため息を吐いていると、母であるミアがいつの間にかマオの隣にやって来ていた。

「マオ。あなたは三学年に編入が決まったわ。出席番号は三番、隣の席の子は犬獣人のタロイ君よ。とっても素直ないい子だからきっと友達になれるわ。学園に通うのが楽しみでしょ、うん?」
「………」

笑顔で捲し立てる母と引き攣った笑顔を見せるマオ。何やら嵐が来る前のような空気を醸し出している。

忍び足で水槽に近づき、音もたてずに水の中に入るララルーア。そして全力の泳ぎでマオからすばやく離れていく。
兄の計画(学園に通わない)を知ったララは、母にチクッていたのだ。それを聞いたミアは、外堀を埋めてマオの逃げ道を塞いでいたのである。いつも優しく微笑む母から、今は冷気しか感じられない。

「ララルーアーーーー!」

チクられた兄は悲痛な声で妹の名前を叫んだが後の祭りである。
この後マオは母から二時間も正座で説教を受け、しばらく立つことが出来なかった。

トットットット。

足が痺れて動けない兄に小走りに近寄っていく可愛いピンクの生き物。
何をするのかと思えば、人差し指でマオの足を突いてくる。

ツンツン♪ツンツン♪

「うっうぉー!ララルーアーーーー!」

痺れた足を刺激され悶絶するマオ、竜人にも苦手な事はあるのだ。
エヘヘと笑いながらララはまたしても水槽に逃げ込み、なぜかバタフライで全力で逃げて行く。

バッチャン!バッチャン! 意外にも見事なバタフライである。 

「お兄様、お大事にー♪」

悪魔のようなちびっこ竜人ララルーアがここにいる。
追いかけてお仕置きをしたいが、マオは動けずに床を転がっている。『ララ、覚えてろよ…』


今日は全力の泳ぎを披露したので、疲れ切り踊りを踊らず寝落ちしたララであった。
『うにゃ、うにゃ。おうじ、まってなさい…」




---今日の王宮---

最近なぜか不調や不運が続いていたが、今日は絶好調な一日だったトカタオ王子。

(昨日から飲み始めた青汁が効いたのか‥?うん、それ以外考えられん!ちょっと苦いけど毎日の習慣にしよう!)

トカタオは勘違いしたまま、青汁健康法の信者となっていった。
まぁ青汁は健康にいいから問題ないよね。




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