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20. 光の王女②

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私は恐ろしいことをしようとしている。エミリーはそう思った。

主人から命じられたウィリアムの手引き。レオノアが何を考えているかは分からないが、何をしようとしているのかは明白だった。

もう一人の主人とも言うべきエドワードの不在が重く痛い。だが、たとえここにエドワードが居たとして……それでもエミリーはやはり同じことをしただろうと思う。この、常に他人のことばかり考え、労り、子どものように無邪気なレオノアの、初めての自分自身の望み。たとえそれを叶えるために、自分がどのような罰を受けようとも。

予告されていた時間ぴったりにウィリアムは現れた。一緒に入ろうとするとそっと遮られる。

「出るときには部屋に陣を作る。手引きは不要だ」

転移魔術を使うということだろう。エミリーの関与をできるだけ少なくしようという配慮を感じた。たとえどうでも罪が軽くなることはない。しかし、その申し出の裏にレオノアへの思いがある。エミリーが居なくなったらレオノアが悲しむ。罪を分け持たせた申し訳なさとともに、この手引き自体が無駄だったかと眉尻を下げると「……止める、と言い出すかと思っていた」とぽつりと言った。
実力本位で知られる第一騎士団の団長として、誰からも一目置かれ手腕を認められているウィリアムにして、この誘いがあまりにも意外だったのだ。いや、レオノアのことだからこそ予想できなかったのかもしれない。どこか迷うようなウィリアムに、エミリーは決死の思いで一言だけ言った。

「ウィリアム様、どうか姫さまを……お願いいたします」
「……心配するな」

ウィリアムはそこで、エミリーに向かいほんの僅か微笑んだ。レオノアの前以外では表情を崩さないウィリアムの初めての笑み。レオノアのことを心から想い、自分自身よりも大切にしている者に対しての笑みだった。

するりとしなやかな動きで部屋に入ったウィリアムに、エミリーは祈るように思った。どうか。姫さまを助けて差し上げてください。ウィリアム様にしかできません。どうか、どうか。







部屋に入った瞬間、違和感に気付いた。

「レオニー?」

窓から外を見ていたレオノアは、扉が開くとともに振り返った。

「ウィル」

薄い夜着の上に羽織った白いガウン。黄金の髪は全て下ろし、輝きながら波うって背を覆っている。
緑の瞳は既に潤み、顔は白く血色がない。妖精か何か……本当に現実世界の生きものかと疑いたくなる。エミリーが心配するのも分かるこの不安定さ。何かの拍子にこの世に見切りをつけてしまうのではないかと、そう思ってしまうほどの。

「レオニー……どうしたの?」

両手を広げながら素早く近づく。いつもなら駆け寄ってくるレオノアは動くことなくそこに佇み、ウィリアムに抱き寄せられてようやく身体を預けた。

「あんな手紙をもらってびっくりしたよ。どうした?何かあった?」

ゆっくりと背をなでる。ウィリアムの胸に顔を埋めたレオノアは、ぎゅっと抱きつきフルフルと首を振った。

「レオニー、寒い?」

震えているようだ。ソファに座り膝の上で横抱きにする。手早く上着を脱いでレオノアの身体を覆った。黒い騎士服をかけられたレオノアはひときわ小さく、頼りなく見える。性愛よりも庇護欲が勝ったキスを、額やまぶた、頬、そして唇に落とした。

「……ウィル」
「ん?どうした?言ってごらん」

優しく、ゆっくりと促す。

「ウィルの欲しいものって……なに?」

見開かれた緑の瞳を見つめていたウィリアムに発せられたのは、予想していない問いだった。レオノアの言葉を聞くために前のめりになっていた体をわずかに引く。

「……欲しいもの?」
「そう。ウィルが本当に…心の底から欲しいと思うものを教えて」
「レオニーが、」

ウィリアムが心底欲しているもの。何よりも。何を置いても。そんなものは昔から決まっている。考えるよりも先に言葉が口をついて出た。

「レオノアが欲しい」
「……え?」
「君が欲しい。レオニー、君が、君の心が手に入ったら……他は何ひとつ要らない」

思いを言葉にして告げ、レオノアを見て…ウィリアムは感情を抑えることが出来なくなる。柔らかい身体を抱きしめ、髪に顔を埋め、その名前を小さく呟く。
そして改めて思う。自分がどれだけレオノアのことを欲しているか。昔から呆れるほど、レオノアのことだけを。

「それなら」

こくりと喉が鳴った。

「それなら。ウィル、私をあなたのものにして」
「……レオニー」
「それがウィルの望みなら、それなら……私の望みも同じよ」
「だが、」
「ウィルお願い。私は……全部あなたのものなの」

レオノアの訴えに言葉を無くした。
言ううちに感情が昂ったのだろう。先ほどまで真っ白だった顔には血色が戻り、果実のような唇は色づいている。
きらめく緑の瞳から転がり落ちる涙。それを全く意識しないまま唇で受け止めれば、レオノアは首をすくめるようにして一度目を閉じ、そしてゆっくりと開く。
意志の宿ったその緑の瞳を見たとき、ついにウィリアムは心を決めた。

「……分かった」
「ありがとう」
「…………それは私の言うことだよ、レオニー」

ホッとしたような声で言うレオノアを抱き上げながらウィリアムは言った。首に手をまわし、しがみつくレオノアの額に唇を押し当てる。愛しい。愛しい。愛しい。思いの数だけ何度も口づけた。

寝室に入る。寝台はすでに天蓋の薄布がまとめられ、上掛けまでもがめくられていた。その上にレオノアをそっと座らせる。床に膝をつき、レオノアの手を握り顔を見上げながら言った。

「忘れないで、レオニー。君の願いを叶えるためにこうするんじゃない。私が望んだことだ。誰よりも、何よりも……君のことを欲しがってしまった。私にはそんな資格など、本当はなかったのに」

苦し気に本音を漏らせば、驚いたようなレオノアが首を傾げる。くるんとしたまつ毛の先には拭いきれなかった涙のかけら。胸を突く愛らしさに早くなる鼓動を感じながら、ウィリアムはレオノアの履いていた室内履きを脱がせ、ガウンの合わせのリボンをほどいた。

はだけたガウンの間から見えた夜着は、透けるか透けないかの薄さ。それを下からツンと押し上げている尖りに、思わずごくりと喉を鳴らす。背にかけていた自分の上着を取って床に放り、ガウンをそっと脱がせた。

「どうしたの?」

レオノアが口を開いた。何のことかと顔を上げると「ウィル、楽しそうな顔してる」と言う。

「恥ずかしいな……。そんなに顔に出てた?」
「違ったの?」
「いいや、違わない。……贈り物みたいだと思ったんだ」
「贈り物?」
「ああ。誕生日の。こうやって、リボンをほどいて包装をはがして……中身がどんなだろうなって」

レオノアがパッと顔を赤くした。先ほどまでのどこか寂しげな様子が消え、恥ずかしそうに微笑む。ようやくいつものレオノアに会えた気がしたウィリアムは、たまらなくなって夜着姿の愛しい人を固く抱きしめた。

「ああレオニー!君は私の光。私の喜び。私の人生そのものだ。何があってもそれだけは絶対に忘れないで」
「…………ほんとう?…………」
「もちろんだとも。レオニー。レオノア。私の、私だけの……!」
「ウィル、」
「お願いだ。私の側にいてくれ。ずっとずっと、永遠に。私はもうレオノアが居ないと生きていけない……」

見栄も体面もなくひたすらにすがった。と、どこか強張っていたレオノアの身体から、フッと力が抜けたのが分かった。それだけで受け入れられたように感じたウィリアムはめちゃくちゃに口づける。優しくしよう、怖がらせないようにゆっくり進もうと思っていたのに自制がきかない。翻弄されていたレオノアは、途中から懸命に追いつこうとしてウィリアムにしがみつき、舌を動かす。やがてそれは互いの快感を確認するためのものになり、唾液の交換と、唇を離してわずかな隙間を作ってなお結ぶ舌の接触が、否応なくその続きを予感させた。

そっと、レオノアの背を寝台に倒す。膝裏に腕を差し込み、真っすぐ横たえたところでウィリアムも乗り上げた。
白いシーツの上に豪奢な黄金を広げ、自分を見上げるレオノアの姿。
それを何度思い描いただろう。幾度も……ただ、レオノアがこうやって自分の腕の中で……。
かき抱き、また口づける。空中で舌のダンス。互いの息が乱れる。相手を想う気持ちだけで身体が先走る。

乳房の上に両手を乗せた。ビクッと身体が揺らぐ。

「……怖い?」

首を横に振る。夜着の上からそっと、そっと手を動かす。

「…………ん」

微かな喘ぎ。今度は肉に指を食い込ませながら揉んだ。慎重に中心を避ける。周りを……一番好きなところのギリギリを刺激し、離れる。レオノアが胸を突き出すようにして背を反らせる。知らぬふりをしながらぐいぐいと胸を揉み、口づけをほどいた。目を薄く開き、濡れた唇から覗く赤い舌。たまらない。その唇に待ち望まれていることを知りながら、今度は首筋に舌を這わせ吸い付いた。

「んんんっ!」

高い声を上げるレオノアは、無意識にその無防備な首を伸ばし目の前の獣に捧げる。捧げられたそれに何度も吸い付き、跡を残し、かみつく。合間に舐め上げることを忘れない。それだけで身をよじるレオノアを悦ばせるために、乳首をキュッとつまんだ。

「あああっ!」

指先の戒めはすぐにほどかれる。薄い夜着の上から揉み、さわさわと乳首までこする。決して強くはしない。レオノアはもはや自失しているようで、ウィリアムが膝の間に陣取って大きく足を開いていることすら気づいていないようだ。

「あ、ああああんんっ!!」

またキュッとつまんだ。今度は少し長く。上に引っ張り上げるようにするとつられて背を持ち上げ、伸ばされた乳房と一緒に伸び上がる。最後に少しひねってから手を離せば、途端に脱力して背を寝台に落とした。

「レオニー、気持ちいの?直接触ってあげようか?」
「あっ、あっ、あん!ああんウィル!」
「そうか、ここが好きだったもんね。じゃあ、脱いでみようか。直接触ってあげるから」

するすると裾を持ち上げ頭から夜着を引き抜く。下は何もつけていない。全裸になったレオノアを堪能しながら、ウィリアムは思わず賛美を口にした。

「綺麗だレオノア……こんな……」

見事な円錐形の豊かな胸と、すっかり固くなり尖り切った乳首。くびれたウエストを指先でスーッと撫でると、くすぐったいのか身を揺らし、それにつられて胸までフルンと揺れた。その細いウエストから延びる優美なラインの先にある腰。うつぶせに這わせて腰を持ち上げたら、さぞや見事な眺めだろう。

そして、しどけなく開かれたその脚の間には、髪と同じ色の、ごくささやかな陰り。その下の肉はぴっちりと閉じて花びらは完全に姿を隠している。

……いや。ほんの少しだけ。潤みがあふれてきているのではないか?指を入れて開いたなら。鼻先を突っ込み、思うさま舐めまわしたなら、慎ましく閉じているように見えるそこを暴けるのではないか?

ウィリアムは頭を振った。駄目だ。そんな獣のようなことを――たとえどれほど願っていても――しては、レオノアを怖がらせてしまう。自分の欲望よりもレオノアを気持ちよくさせてやらなければ。
そう思えば、次にすべきことは決まっていた。

「……かわいいレオニー。大好きだよ。ここも……舐めて気持ち良くしてあげる」
「あーっ!」

乳首に吸い付いた。舌でこね回し、カリッと歯を立てる。その度に背をのけ反らせるレオノアの、もう片方の乳首を指でひねった。

「ああああーんんっっっ!ウィル、だめぇ!」

吸い付く乳房を入れ替える。もう片方を同じように指でいじり、つまみ上げた。背中を波打たせて悶える姿に限界が見える。舌で強く突きながら吸い、身をよじったところで歯を立て、指でキュッとひねる。

「……あっ!!!ぁはっ!!!」

ピクピクと身体を震わせるレオノアから、そっと身体を離した。ぼんやりとした顔に軽く極めたのだと察した。

「レオニー、気持ちよかったね?」

声も出せずこくんと頷く顔は年齢よりも幼く見えた。だがその下――豊満な胸、くびれたウエスト、張った腰からは、むせ返るような色香が溢れている。ウィリアムはそっと脚の付け根に指をあてると、全く抵抗なく飲みこむ膣に滑り込ませた。

「ふぁ」

驚いたようだが、身体は先ほどの快感に未だとらわれ動かせない。そっと指の付け根まで押し込む。異物を感知してきゅうと締め、うねる肉の感触。ああ、ここに自分の猛りを突き立てたならどんなに……。
欲望と願望が入り交じる。だが、まだだ。もっともっとレオノアのために――。

「レオニー。ここがびしょびしょだ。ちょっと拭いたほうがいいね」

数秒経って意味を理解したようだ。上半身を起こそうとする。枕元に積んである布を取ろうとしたのだろう。用意のいいことだと思いながらウィリアムは言った。

「そのまま横になっておいでレオニー。私がちゃんと拭きとってあげるから」

ウィリアムはニッと笑い、顔をレオノアの秘所に近づけた。



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