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深夜に徘徊する総支配人

「深夜に徘徊する総支配人」

町の中心にある大きなホテル、その地下には広大な迷宮のような通路が広がっていた。通常、その地下は従業員しか立ち入れないエリアであり、特に深夜はひっそりと静まり返っていた。

しかし、そのホテルにはひとりの男がいた。彼はジェームズという名前の総支配人であり、昼間は優雅で誠実な経営者として知られていたが、深夜になるとひとり地下通路を徘徊していた。彼の目的は誰にも分からなかった。ただ、彼は何かを探しているようだった。

ジェームズはいつものように深夜の通路を歩きながら、古い書類や保管された品々を眺めていた。時折、壁に掛かる古い絵画を見つめ、微笑むこともあった。その絵画にはホテルが建てられる前の町の風景が描かれていた。

彼は一度も迷わずに通路を進み、時には足音を立てないように慎重に進んでいた。彼にとってこの地下の通路は、自分だけの秘密の場所であり、そしてかつての歴史の証人でもあった。

ある夜、ジェームズはいつもの場所に立ち止まり、手に持った古い鍵を見つめた。それはかつてこの地下通路の一角にある部屋の鍵だった。長い年月が経ち、その部屋の扉は決して開かれることはなかった。誰もその鍵の持ち主であることを知る者はいなかった。

ジェームズは鍵をゆっくりと差し込み、部屋の扉を開けた。部屋の中にはひときわ明るい灯りが灯されており、古びた家具や本棚、そして大きな机が並んでいた。部屋の奥には大きな窓があり、そこからは静かに月明かりが差し込んでいた。

机の上には古い日記帳が開かれていた。ジェームズはその日記を手に取り、古びたページをめくり始めた。そこには何十年も前の出来事が綴られており、このホテルが建てられた当時の様子や、初代支配人の苦労が記されていた。

そして最後のページには、意外なことが書かれていた。それはかつてこの部屋が支配人の秘密の部屋であり、その支配人がホテルの歴史と共にいつまでもこの地下通路を歩き続けることを望んでいたという記述だった。

ジェームズは静かにその日記を閉じ、しばらくの間、部屋の中を見渡した。彼はこの秘密の部屋を何度も訪れ、そしてその支配人と同じく、ホテルの歴史と向き合いながら自分の役割を果たしているのだと感じた。

深夜の静けさの中、ジェームズは部屋を出て通路を歩き始めた。彼の心には今までにない平穏があり、そして彼がこの地下通路を歩き続ける理由が少しずつ明確になっていくようだった。

ホテルの外では町の灯りが静かに揺れており、誰もが眠りについている時間だった。しかし、ジェームズはまだこのホテルの地下で自分の役割を果たし続けることを決意していた。