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霊の実

霊の実

幽霊なんて信じていなかった。子供の頃に聞かされた怪談話も、友人が語る心霊体験も、私にとってはただの作り話に過ぎなかった。しかし、その日を境に、私の人生観は一変した。

それは秋の夕暮れ時、赤く染まる空を見上げながら、いつもの帰り道を歩いていたときのことだった。ふと道端に目をやると、見慣れない果実が落ちていた。黒紫色に光るその果実は、不思議な魅力を放っていた。何かに引き寄せられるように、私はその果実を手に取った。

家に帰り、果実をテーブルに置くと、母が不思議そうに尋ねた。「その果実、どこで見つけたの？」

「道端に落ちてたんだ。なんだか変わった果実だよね。」

母は顔を曇らせた。「あまり触らない方がいいかもしれないね。昔から、この辺りには『霊の実』と呼ばれる不思議な果実があるって聞いたことがあるわ。触れると霊に取り憑かれるって。」

私は笑って母の話を聞き流した。「そんなことあるわけないよ。でも、ちょっと興味があるな。」

その夜、ベッドに入ってもその果実のことが気になって仕方がなかった。結局、果実を手に持ったまま眠りについた。

夢の中で、私は広い庭に立っていた。庭には見たことのない美しい花々が咲き乱れ、その中心には同じ黒紫色の果実がたわわに実る木が立っていた。果実を一つ取ると、そこから柔らかな光が溢れ出した。そして、その光の中から一人の女性が現れた。彼女は透明感のある美しい姿をしており、優しい眼差しで私を見つめていた。

「あなたがこの果実を見つけてくれたのね。ありがとう。」彼女は静かに言った。

「あなたは誰？」私は夢の中でも不思議と恐怖を感じなかった。

「私はこの果実に宿る霊です。長い間、誰にも見つけられることなくここにいました。あなたが私を見つけてくれたおかげで、こうして話すことができるのです。」

彼女の話を聞くうちに、私は彼女の悲しい過去を知った。彼女はかつて、この地に住む村の娘だった。村の男と愛し合っていたが、二人の愛は村の掟により引き裂かれた。彼女は悲しみのあまり自ら命を絶ち、その魂は果実の中に宿ることになったのだ。

「私の愛は今もこの果実に宿っています。あなたが私の愛を感じ、理解してくれるなら、私は永遠にこの地で安らかに眠ることができるでしょう。」

目が覚めた時、私は果実を手にしていた。夢の中の出来事が現実のもののように感じられ、その果実が単なる作り話ではないことを確信した。

それから数日間、私は彼女の話を母や友人に話してみた。しかし、誰もが信じようとはしなかった。そんな時、再び夢の中で彼女と会うことができた。

「誰も信じてくれないよ。どうしたらいいんだろう？」私は彼女に尋ねた。

「大切なのは、あなたが私の愛を信じてくれることです。誰に信じられなくても、あなたが理解してくれればそれで十分です。」

彼女の言葉に励まされ、私は彼女の愛を胸に刻むことにした。彼女の愛は時を超えて続いており、その愛の力が私を動かしているのだと感じた。

ある晩、私は夢の中で彼女の元を訪れた。そして、彼女に約束した。「あなたの愛を忘れない。あなたの物語を伝えることで、誰かがその愛の力を感じてくれることを願うよ。」

目が覚めると、私は霊の実を庭に植えることにした。土に果実を埋めると、そこから新たな芽が出てきた。やがてそれは大きな木となり、美しい果実を実らせた。彼女の愛はこの木を通して再び命を得たのだ。

それからというもの、庭には彼女の愛を感じる人々が訪れるようになった。私の家はいつしか「愛の木」と呼ばれ、人々はその木の下で愛の力を感じ、癒されていった。私もその一人として、彼女の愛の力を感じ続けていた。

そして、私は決して彼女の愛を忘れることはなかった。彼女の物語を語り継ぎ、彼女の愛を感じることで、自分もまた愛の力を信じ続けることができた。彼女の愛は永遠に続き、私たちの心に宿り続ける。霊の実は、ただの果実ではなく、時を超えた愛の象徴となったのだ。