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みるくのゲームライフプレイ時間は実に「8473時間54分」
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「みるくのゲームライフ」
みるくは、オンラインゲームの世界に生きる少女だった。彼女のプレイ時間は実に「8473時間54分」に達していた。現実世界よりも、画面の中の仮想世界で過ごす時間の方が多かった。学校の授業が終わるとすぐにパソコンの前に座り、夜更けまでゲームに没頭する日々が続いていた。
「またやってるの?いつになったら外に出るのよ!」
母親の声が、薄暗い部屋に響く。みるくは返事をすることなく、画面に集中したままだった。キャラクターは精霊使いのエルフ、名前は「ミルフィーユ」。ゲーム内での彼女は、美しくて強く、仲間たちからも一目置かれる存在だった。現実世界では無口でおとなしいみるくとは正反対の姿だった。
「今日は新しいダンジョンの攻略だ」
みるくはマイクを通じて仲間たちに声をかけた。彼女のギルド「星降る夜の騎士団」はゲーム内で名の知れた強豪ギルドだった。プレイヤーたちはそれぞれの役割を全うし、スムーズにダンジョンを攻略していく。みるくは精霊の力を駆使して、敵を次々と倒していく。攻略が終わると、みんなが集まり、戦利品を分け合った。
「ミルフィーユ、今回も助かったよ!」
「あなたがいなかったら、こんなに早く攻略できなかったわ」
仲間たちの称賛の言葉が、みるくの心を暖かく包む。現実では得られない承認と達成感が、ゲームの中では簡単に手に入るのだ。みるくにとって、それが何よりも嬉しかった。
だが、ある日、彼女のプレイ時間はついに「8473時間54分」に達し、ゲーム内のシステムから異常な長時間プレイの警告が表示された。画面には大きな赤い文字で「休憩を推奨します」と書かれている。それは、彼女が一度も目にしたことがない警告だった。
「そんなの無視すればいい。私はまだまだやれる」
みるくはそう呟き、警告を無視してゲームを続けた。しかし、次の日、彼女の目に映る世界は少しずつ変わり始めた。ゲーム内の風景がぼやけたり、キャラクターの動きが鈍く感じられたりした。操作ミスが増え、これまでできていたことができなくなっていた。
「集中できてない…どうして?」
みるくは苛立ちを覚え、何度もリトライしたが、結果は同じだった。仲間たちも次第にみるくの異変に気づき始めた。
「ミルフィーユ、今日は調子悪いみたいだね。休憩しない?」
「少し休んだ方がいいんじゃない?」
その言葉に反発するように、みるくはゲームを続けた。だが、体調も目に見えて悪化し、頭痛やめまいが頻繁に起こるようになった。夜中にゲームを終えてベッドに入ると、眠れずに画面の光が瞼の裏に残ったまま。朝になれば頭は重く、学校に行く気力も湧かない。
「なんでこんなことに…」
気づけば、みるくは自分のプレイ時間を見返していた。8473時間54分——その膨大な時間の中で、彼女は何を得たのだろう。確かに、仲間との冒険や達成感はあった。しかし、それ以上に失ったものもあった。現実とのつながり、健康、そして日々の喜び。
次の日、みるくは意を決してゲームを閉じた。いつも通り画面の前に座り、マウスをクリックする手が止まる。少しの間、虚無感が彼女を包み込んだが、みるくは深呼吸をしてパソコンの電源を切った。初めて外に出た日は、太陽の光がまぶしくて、風が肌に心地よかった。
「こんな世界もあったんだ」
みるくは小さく笑った。そして、久しぶりに母親と目を合わせた。母親は驚きながらも、優しくみるくを迎え入れてくれた。家の周りを散歩し、小さな花を摘んで帰ると、彼女は自分の部屋に戻り、パソコンの前に座った。しかし、今度は新しいゲームではなく、学業に必要な調べ物を始めた。
それでも、みるくは完全にゲームを辞めたわけではなかった。時折、仲間たちとの冒険を思い出し、短時間のプレイを楽しむようになった。しかし、それは以前のような執着ではなく、ただの楽しみとしての一部になっていた。
「ゲームも現実も、バランスが大事だね」
みるくはそう思いながら、今日もまた短い冒険に出かける。そして、現実でも少しずつ新しい友達を作り、自分の未来を見据えるようになった。プレイ時間は相変わらず増えていったが、8473時間54分が示すような執着は、もうどこにもなかった。
おわり
みるくは、オンラインゲームの世界に生きる少女だった。彼女のプレイ時間は実に「8473時間54分」に達していた。現実世界よりも、画面の中の仮想世界で過ごす時間の方が多かった。学校の授業が終わるとすぐにパソコンの前に座り、夜更けまでゲームに没頭する日々が続いていた。
「またやってるの?いつになったら外に出るのよ!」
母親の声が、薄暗い部屋に響く。みるくは返事をすることなく、画面に集中したままだった。キャラクターは精霊使いのエルフ、名前は「ミルフィーユ」。ゲーム内での彼女は、美しくて強く、仲間たちからも一目置かれる存在だった。現実世界では無口でおとなしいみるくとは正反対の姿だった。
「今日は新しいダンジョンの攻略だ」
みるくはマイクを通じて仲間たちに声をかけた。彼女のギルド「星降る夜の騎士団」はゲーム内で名の知れた強豪ギルドだった。プレイヤーたちはそれぞれの役割を全うし、スムーズにダンジョンを攻略していく。みるくは精霊の力を駆使して、敵を次々と倒していく。攻略が終わると、みんなが集まり、戦利品を分け合った。
「ミルフィーユ、今回も助かったよ!」
「あなたがいなかったら、こんなに早く攻略できなかったわ」
仲間たちの称賛の言葉が、みるくの心を暖かく包む。現実では得られない承認と達成感が、ゲームの中では簡単に手に入るのだ。みるくにとって、それが何よりも嬉しかった。
だが、ある日、彼女のプレイ時間はついに「8473時間54分」に達し、ゲーム内のシステムから異常な長時間プレイの警告が表示された。画面には大きな赤い文字で「休憩を推奨します」と書かれている。それは、彼女が一度も目にしたことがない警告だった。
「そんなの無視すればいい。私はまだまだやれる」
みるくはそう呟き、警告を無視してゲームを続けた。しかし、次の日、彼女の目に映る世界は少しずつ変わり始めた。ゲーム内の風景がぼやけたり、キャラクターの動きが鈍く感じられたりした。操作ミスが増え、これまでできていたことができなくなっていた。
「集中できてない…どうして?」
みるくは苛立ちを覚え、何度もリトライしたが、結果は同じだった。仲間たちも次第にみるくの異変に気づき始めた。
「ミルフィーユ、今日は調子悪いみたいだね。休憩しない?」
「少し休んだ方がいいんじゃない?」
その言葉に反発するように、みるくはゲームを続けた。だが、体調も目に見えて悪化し、頭痛やめまいが頻繁に起こるようになった。夜中にゲームを終えてベッドに入ると、眠れずに画面の光が瞼の裏に残ったまま。朝になれば頭は重く、学校に行く気力も湧かない。
「なんでこんなことに…」
気づけば、みるくは自分のプレイ時間を見返していた。8473時間54分——その膨大な時間の中で、彼女は何を得たのだろう。確かに、仲間との冒険や達成感はあった。しかし、それ以上に失ったものもあった。現実とのつながり、健康、そして日々の喜び。
次の日、みるくは意を決してゲームを閉じた。いつも通り画面の前に座り、マウスをクリックする手が止まる。少しの間、虚無感が彼女を包み込んだが、みるくは深呼吸をしてパソコンの電源を切った。初めて外に出た日は、太陽の光がまぶしくて、風が肌に心地よかった。
「こんな世界もあったんだ」
みるくは小さく笑った。そして、久しぶりに母親と目を合わせた。母親は驚きながらも、優しくみるくを迎え入れてくれた。家の周りを散歩し、小さな花を摘んで帰ると、彼女は自分の部屋に戻り、パソコンの前に座った。しかし、今度は新しいゲームではなく、学業に必要な調べ物を始めた。
それでも、みるくは完全にゲームを辞めたわけではなかった。時折、仲間たちとの冒険を思い出し、短時間のプレイを楽しむようになった。しかし、それは以前のような執着ではなく、ただの楽しみとしての一部になっていた。
「ゲームも現実も、バランスが大事だね」
みるくはそう思いながら、今日もまた短い冒険に出かける。そして、現実でも少しずつ新しい友達を作り、自分の未来を見据えるようになった。プレイ時間は相変わらず増えていったが、8473時間54分が示すような執着は、もうどこにもなかった。
おわり
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