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背伸びの果てに

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「背伸びの果てに」

直葉(すぐは)は、深夜の自室で目を擦りながらパソコンの画面を見つめていた。時計の針はすでに午前2時を回っている。ゲームの中ではレベル上げに励んでいる最中だったが、疲れた目に映るのは、見慣れたキャラクターが同じ敵を倒している光景だ。いつも通りの繰り返しだが、直葉にはそれが耐え難かった。

「もっと効率的にやれないかな…」彼はそう考え、マップを開いた。次に行くべきは、今の自分にはまだ少しレベルが高すぎる場所だった。それでも、経験値が高く、装備も良いアイテムが手に入る可能性があると知っていた。普通に考えれば、安全な場所でコツコツと数をこなすのが正解だ。しかし直葉は、そんな慎重なやり方がどうにも性に合わなかった。

「やってやるさ、こんなもん…」独り言のように呟き、直葉はマウスを握り直した。もう30時間以上もゲームを続けている。画面越しに見えるのは、荒れ果てた山岳地帯。敵は強力で、数も多い。何度か全滅しそうな場面に遭遇し、背筋が冷たくなるのを感じていた。それでも、直葉は無理をして突き進む。

「自分を試したいだけだ。」 彼はそう思っていた。どこかで限界を感じることに憧れているのかもしれない。現実の生活では、安定した職業と平凡な日々。刺激を求めることもなく、ただ無難に過ごしている。そんな自分に飽き飽きしていた。

「危ない…!」ゲームの中で、直葉のキャラクターは一撃を食らい、体力が一気に減少した。画面の赤い警告音が鳴り響く。「あと一発で終わりか…」直葉は緊張感に満ちた手でポーションを選択しようとしたが、すぐに敵の猛攻にさらされ、ポーションを使う間もなくゲームオーバーとなった。

画面には「全滅しました」の文字が表示され、直葉はため息をついた。リスポーンするたびに何度も挑戦しては敗北を繰り返す。敵は強く、レベルの差を見せつけられている。それでも直葉はやめなかった。繰り返し挑戦し続けることで、いつかこの壁を超えられると信じていたからだ。

ある時、直葉は少しだけ目を休めるために椅子にもたれかかった。ゲームの音はバックグラウンドで続いているが、彼の頭の中は現実に引き戻されていた。「無理してどうするんだろうな…」直葉は、自分の行動を振り返り、ふと虚しさを感じた。

彼は思い出した。現実でも似たようなことがあった。職場でのプロジェクト、無理なスケジュールに追われて自分のペースを見失い、気づけば体調を崩していた。「自分を追い込みすぎるのは良くないな…」そう思いながらも、何かに挑戦することでしか自分の価値を見出せない自分がいた。

直葉は再び画面に目を戻し、ゲームの中のキャラクターに再度挑戦させた。今回は少し慎重に進んでみようと考えた。しかし、慎重になりすぎても楽しさが失われる気がして、再び無謀な行動に出てしまう。

敵に囲まれ、またしても全滅の危機に直面した。「あぁ、もう無理だ…」そう思った瞬間、奇跡的に仲間が一撃を決め、辛くも敵を倒すことができた。直葉のキャラクターは瀕死の状態で生き残り、経験値を得た。

「やった…!」直葉は思わず叫んだ。達成感が全身を包み込んだ。しかし、その後に訪れたのは深い疲労感だった。直葉はそのまま椅子にもたれ、目を閉じた。達成感と虚無感が入り混じり、複雑な気持ちが胸に広がっていた。

「結局、これも一時的なものなんだよな…」彼はそう思いながらも、どこか満足していた。無理をして挑戦することでしか得られない感情があった。それは現実逃避ともいえるかもしれないが、直葉にとっては必要な時間だった。

その後、直葉は少しだけペースを落とし、無理のない範囲でゲームを続けるようになった。レベル上げもコツコツと安定した場所で行うことを選んだ。それでも時折、背伸びしたくなる衝動に駆られることはあった。だが、少しずつ自分をコントロールする術を覚え、無謀な挑戦を繰り返すことは少なくなっていった。

「無理をすることだけが挑戦じゃない。」直葉は、ようやくそのことに気づき始めていた。リスクを取ることは大切だが、それ以上に大切なのは、自分を見失わずに前に進むこと。挑戦することも、休むことも、自分次第なのだ。

直葉はパソコンの電源を落とし、深呼吸をした。画面の中のキャラクターもまた、一時の休息を得たように見えた。無理をすることなく、自分のペースで進んでいく。それが、彼にとっての新しい挑戦の始まりだった。
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