へたれゲーマーだということを証明します

見つけるべき光

見つけるべき光

直葉（すぐは）は、また自己憐憫に陥っていた。鏡に映る自分の姿を見つめながら、心の中で繰り返す。「なんで私ばかり、こんなに……」。彼女には、注意欠如多動性障害（ADHD）だけでなく、識字障害（ディスレクシア）、聴力過敏症、そしてその他の発達障害があった。それだけでなく、いくつもの持病とアディクションにも苦しんでいた。毎日が戦いで、日々の中で何かを成し遂げるたびに、自分を褒めるよりも失敗を数えることの方が多かった。

今日も仕事でのミスが重なり、上司の冷たい視線に耐えかねて早退したばかりだ。オフィスから出るなり、直葉は小さな公園に立ち寄った。人の少ないベンチに腰を下ろし、深い溜息をつく。頭の中では、自分を責める声が止まらない。「どうしてもっとちゃんとできないんだろう」「他の人は普通にできてるのに、どうして私は……」

携帯を取り出して、今日の予定を確認する。スケジュールアプリにはびっしりと予定が並んでいるが、それらの多くはすでに失敗やキャンセルになっているものばかりだ。メモにはやり残したタスクや、対応しきれなかったメールのリストが増え続けている。「また何もできてない……」そう思うと、胸の奥がズキズキと痛む。

直葉には、いつも耳に纏わりつく音があった。人の声や車の音、鳥の鳴き声すらも大きく響いてくる。聴力過敏症のせいで、日常の音が彼女にとっては騒音となり、頭の中をかき乱す。何をしても集中できず、頭の中はいつもぐちゃぐちゃだ。読もうとしても文字が歪んで見えるディスレクシアのせいで、簡単なメモさえも読み返すのが億劫だ。自分がここに存在していることすらも、時折重荷に感じる。

「もう嫌だ……どうして私ばかり……」そう呟きながら、涙が零れ落ちる。誰もいない公園の静けさが、今の自分には余計に冷たく感じる。自分を慰める言葉が見つからず、ただ静かに泣くことしかできなかった。

しばらくして、少しだけ心が落ち着いてきた直葉は、ふとスマホを見つめ直した。画面には、友人からのメッセージが一つ、未読のまま表示されている。「今度、一緒にご飯行かない？」という内容だ。何でもない一言だったが、そのメッセージに目を留めた時、直葉の心の奥で何かが動いた。

「こんな私でも、誘ってくれる人がいるんだ」

それは、些細なことかもしれない。だが、その小さな事実が直葉の心に小さな光を灯した。彼女は自分を嫌ってばかりだったが、それでも誰かが自分に手を差し伸べてくれる。それだけで、少しだけ前向きな気持ちになれる。

「長所を探せ」

かつて、カウンセリングで言われた言葉を思い出す。直葉は目を閉じて、深呼吸をした。自分の長所なんて、何もないとばかり思っていたが、もう一度考えてみようと思ったのだ。小さなことでもいい、何か自分を褒められるものを見つけてみよう。

直葉は、これまでの自分の生活を振り返った。何度も挫折し、何度も失敗してきた。けれど、その度に諦めずに立ち上がってきたのは自分だ。人よりも遅く、何度もつまづきながらも、前に進んできたのは事実だ。「それって、もしかして私の長所なんじゃないか……？」と初めて思えた。

聴力過敏症のせいで、普通の生活が難しいこともある。けれど、その分、小さな音や細かな変化に気づけるのは、直葉の特技でもあった。ディスレクシアで文字を読むのが苦手な分、直葉は視覚的なものには敏感で、美しい景色や色の配色に心を動かされることが多い。これもまた、自分の一部なのだ。

公園のベンチに座ったまま、直葉は再び深呼吸をした。手のひらを開き、指を一本一本動かしてみる。何気ない動作だが、それを繰り返すことで少しずつ自分を取り戻していく。周りの騒音も、少しずつ和らいで感じられる気がした。

「普通じゃないってことは、他の誰も持っていないものを持っているってことなんだ」

彼女はそう自分に言い聞かせた。普通の人ができることができない。それは確かに苦しいことだが、その分、他の人にはない視点や感覚を持っている。それを生かして、少しずつ自分の居場所を見つけていけばいい。直葉にはまだまだ時間があるし、焦る必要はない。自分のペースで、できることを少しずつ増やしていけばいいのだ。

家に帰ると、直葉はまず自分の好きな音楽を小さな音でかけた。静かなメロディーが部屋の中に広がり、彼女の心を少しだけ癒してくれる。「今日はこれだけでも良しとしよう」と、心の中でつぶやく。明日もまた、きっと困難なことがあるだろう。でも、それでも前に進むしかない。直葉は、そんな自分を少しずつでも認めていこうと決意した。