季節の織り糸

轍を追いかけて木の葉たちの徒競走

轍を追いかけて木の葉たちの徒競走

　秋の風が吹き抜ける午後、子供たちの笑い声が響く公園では、木の葉たちが舞い上がり、地面に落ちてはまた風に乗せられて舞い上がる。赤や黄色、オレンジの色とりどりの葉っぱが、まるで競走しているかのように見えた。彼らの小さな競技場は、芝生の上に描かれた無数の轍（わだち）だった。

　十歳のタクヤは、その様子を夢中になって見つめていた。彼は公園の一角に座り込み、友達と遊ぶ代わりに、木の葉たちの戦いを観察することに決めた。彼にとって、葉っぱたちの競走は、どこか壮大な冒険のように感じられた。タクヤの心には、彼自身の小さな冒険が渦巻いていた。

　「おい、タクヤ！一緒に遊ばないのか？」

　その声は、友達のリョウからだった。リョウはタクヤの隣でボールを蹴りながら、何度もタクヤを誘っていたが、タクヤはただ首を振った。

　「いいや、今は木の葉たちのレースを見ているんだ。」

　リョウは不思議そうな顔をしながら、タクヤの視線の先を見た。落ち葉たちは風に揺られ、まるで小さな馬たちが轍を追いかけているかのように、楽しそうに舞っていた。

　「何が楽しいのかわからないけど、勝手にやってろよ。」リョウはボールを蹴り続け、タクヤの隣を離れた。

　タクヤはリョウの言葉に気にせず、また葉っぱたちの競走に目を戻した。彼の頭の中では、葉っぱたちがレースをしているストーリーが展開されていた。彼らはただの葉っぱではなく、各々が個性的なキャラクターとして描かれていた。

　「さあ、どの葉っぱが勝つかな？」タクヤは心の中で予想する。赤い葉っぱのアカシは、先頭を走っている。他の葉っぱたちも負けじと後を追い、轍に沿って風に翻弄されながらも懸命に進んでいる。

　その時、ふとタクヤの目に留まったのは、黄緑色の葉っぱ、ハルが一番後ろで遅れをとっている姿だった。彼は他の葉っぱたちに追いつこうと懸命に風を受けていたが、力強い風に吹き飛ばされては、なかなか前に進むことができなかった。

　「頑張れ、ハル！」タクヤは心の中で応援した。自分も小さい頃、友達と競争したときに、同じように遅れをとったことを思い出した。負けたくない気持ちと、でもなかなか前に進めないもどかしさ。その感情は、今のハルの姿に重なった。

　しばらくして、タクヤは突然立ち上がった。「よし、助けてやろう！」彼はハルの方に駆け寄り、そこに落ちている枯れ葉を集め始めた。彼はハルを応援するための旗を作ることにしたのだ。枯れ葉を束ねて、ハルの背後に立ててみた。これで少しでも気分が上向くはずだ。

　すると、ハルは少しずつ前に進むことができるようになった。他の葉っぱたちも、その様子に気づき、互いに競い合うように盛り上がっていく。タクヤは自分が応援していることが叶ったのを感じ、嬉しさがこみ上げてきた。

　「頑張れ、ハル！お前ならできる！」タクヤは叫びながら、葉っぱたちにエールを送った。周囲の友達も興味を持ち始め、タクヤの応援に加わる。

　その瞬間、黄緑色の葉っぱが風を受け、見事に前に出た。タクヤはその姿を見て、思わず歓声を上げた。ハルは他の葉っぱたちを追い越し、轍を進んでいく。まるで全ての希望が彼に宿ったかのように。

　「やった！ハル、頑張れ！」タクヤは手を叩きながら叫んだ。周りの友達もその様子に感動し、次々と応援の声を上げる。ハルは風を受け、さらなるスピードを上げていく。

　競走が終わる頃には、ハルは見事に先頭に立っていた。タクヤはその光景を目に焼き付け、胸が高鳴った。この瞬間が、彼にとって特別なものになると感じていた。

　しかし、ハルが轍のゴールを通り過ぎたとき、タクヤはふと考えた。競走は勝ち負けだけではない。大切なのは、仲間と共に助け合い、楽しむことだ。ハルが勝ったのも、タクヤが応援したからだ。彼はそのことを心に刻みながら、嬉しい気持ちでいっぱいになった。

　公園の空は秋の夕焼けに染まっていき、タクヤはその中で心の中の冒険を続けていくことを決意した。これからも、葉っぱたちの競走のように、どんな困難に直面しても諦めずに進んでいくのだと。タクヤは、彼の人生においても、自分自身の轍を追いかけていくことを心に誓った。