季節の織り糸

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
90 / 257

さわやかな秋風

しおりを挟む
「さわやかな秋風」

秋の訪れは、いつも突然だ。まだ夏の名残が空気の中に漂っていると思ったら、ふと吹き抜ける涼やかな風が、その季節の変わり目を知らせてくれる。朝露がキラキラと輝く中、涼子は一人で庭の椅子に腰掛けていた。

「秋が来たのね…」

彼女は静かに呟いた。その声は、まるで風に溶け込むように小さく、軽やかだった。涼子はこの季節が好きだった。夏の暑さが和らぎ、空は澄み渡り、そして何より、秋の風には心を落ち着ける不思議な力があった。子どものころから、この風に包まれるたびに、心が軽くなるのを感じたものだ。

今年の秋も、特別なものになるだろうと涼子は感じていた。というのも、彼女の人生は今、大きな転機を迎えていたからだ。結婚して10年、夫と二人三脚で歩んできた日々が、ある日突然、彼の浮気という形で崩れ去ったのだ。

「まさか…そんなことが起こるなんて」

涼子は、その事実を知った瞬間の衝撃を今でも鮮明に覚えていた。いつも優しく、自分を大切にしてくれていると思っていた夫が、別の女性と密かに関係を持っていた。それを知ったとき、彼女の世界は一気に暗く、狭く感じられた。

しかし、秋風はそんな彼女をいつも救ってくれた。涼やかな風が吹くたびに、彼女の心は少しずつ穏やかになり、傷ついた心が癒されていくのを感じた。夫とは結局、話し合いの末に離婚を選ぶこととなったが、それを決意したのも、秋風の中で一人静かに考える時間があったからだ。

新しい生活の始まり
涼子は離婚後、新しいアパートで一人暮らしを始めた。荷物の整理を終えて、ようやく一息ついたとき、窓からまたあの秋風が入ってきた。

「これで良かったんだよね」

自分に問いかけながらも、涼子はすでにその答えを知っていた。新しい生活が始まるという不安は確かにあったが、同時に自由と解放感もあった。これからは、自分のためだけに生きることができる。誰かに合わせる必要はないし、自分の心に正直に行動することができる。

彼女は深呼吸をして、秋の香りを吸い込んだ。この清々しい空気に包まれるたびに、過去の重荷が少しずつ薄れていくのを感じた。自分の足でしっかりと歩いていける――涼子はそう自分に言い聞かせ、新しい未来に向かって進む決心を固めた。

秋風とともに出会い
数週間が経ち、涼子は少しずつ新しい生活にも慣れてきた。仕事に戻り、毎日のルーチンがまた整い始めたある日、彼女は散歩に出かけることにした。涼やかな秋風が心地よい季節、何か特別なことが起こる予感がしていた。

彼女は近くの公園に足を運び、ベンチに座って秋の景色を眺めていた。赤や黄に色づいた葉が風に揺れる様子は、まるで自然が優しく彼女を包み込んでくれているかのようだった。

そのとき、不意に隣のベンチに一人の男性が座った。40代半ばくらいのその男は、柔らかい笑顔で涼子に目を合わせた。

「いい天気ですね」

「本当に。秋風が気持ちいいです」

二人はたわいもない会話を交わした。彼の名前は田中誠といい、近くの大学で研究をしているということだった。誠は秋が好きで、特にこの季節の静けさに癒されると言っていた。涼子は彼の言葉に共感し、自然と笑顔がこぼれた。

新たなつながり
それから、涼子と誠は何度か公園で顔を合わせるようになった。毎回、秋の風が吹き抜ける公園で、二人は少しずつ互いのことを話すようになった。誠もまた、過去に離婚を経験し、今は一人で穏やかな生活を送っているという。彼もまた、人生に新たなページをめくりたいと考えていた。

「何か、似てますね」

涼子がそう言うと、誠は頷いた。

「ええ、同じような境遇ですね。でも、これからはお互い、自分のために生きていけると思います」

その言葉に、涼子の心はさらに軽くなった。彼との会話は心地よく、そして自然だった。まるで長年の友人のように、何でも話せる相手になっていた。

やがて、秋も深まり、冬の足音が近づいてきた頃、涼子は公園で誠に言った。

「また来年も、こうして秋風を感じに来ましょう」

誠は微笑んで頷いた。

「もちろん。毎年、この風が吹くたびに、僕たちはここで会いましょう」

涼子はその言葉に温かさを感じた。この秋風が、彼女に新たな人生を運んできてくれたのだ。

終わりに
涼子にとって、秋風は過去の苦しみを吹き飛ばし、新たな出発の象徴となった。さわやかな風が彼女の心を包み込み、そしてまた、新しい出会いと希望を運んでくれた。その風は、来年も再来年も変わらず吹き続けるだろう。そして涼子はその風とともに、これからの人生を歩んでいくことを楽しみにしていた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...