季節の織り糸

春秋花壇

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秋の音色

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秋の音色

9月7日、詩織(しおり)は朝から空を見上げていた。澄み切った青空が広がり、どこまでも高く感じられる。秋の訪れを感じさせる風が肌を撫で、少しずつ涼しさが増していく。詩織の住む村では、秋が深まると共に様々な風景と音色が日常に溶け込んでいく。それは、彼女の心を穏やかにする季節だった。

その日は、村の伝統行事「だらだら祭」の準備が行われていた。村中が秋の装いに染まり、華やかな飾り付けと共に秋の収穫を祝う。詩織も地元の婦人会に参加し、祭りの準備に追われていた。濁酒の甘い香りが漂い、花野の向こうで蚯蚓(みみず)が鳴いている。彼女はその音に耳を澄ませながら、手を動かしていた。

「今年もいい秋になりそうだね。」

隣で手伝っている佳代(かよ)さんがそう言って微笑んだ。詩織は佳代さんに頷き返しながら、秋の深まりを実感した。蚯蚓の鳴き声は秋の風物詩で、子供の頃から聞き慣れた音だったが、何故か今年は少し切なさを感じさせた。

夕方になり、準備を終えた詩織はふと、村の外れにある神社に足を運んだ。そこは秋刀魚(さんま)の匂いが漂い、祭りの準備のために人々が忙しそうに動いている。神社の境内では、蓑虫(みのむし)が木の幹に静かに揺れていた。詩織はその姿を見て、時間がゆっくりと流れているように感じた。

「お祭りの日が近づくと、秋の気が一層深まるね。」

詩織がそう呟くと、後ろから声が聞こえた。

「詩織さんもお疲れ様。準備、大変だったでしょう?」

振り返ると、隣村から来た青年、航平(こうへい)が笑顔で立っていた。航平は今年初めてこの村の祭りに参加することになり、詩織と一緒に準備をしてきた。彼は村の祭りを楽しみにしているらしく、その目は期待で輝いていた。

「大変だけど、こうやってみんなと一緒にやるのは楽しいよ。」

詩織はそう言って微笑んだ。航平は頷き、二人で境内を歩き始めた。天高しの空の下、秋刀魚を焼く香りと共に、蜩(ひぐらし)の鳴き声が響き渡っていた。

「こうして歩くと、秋が感じられるね。」

航平がそう言うと、詩織は秋の夜風に吹かれながら、ふと子供の頃のことを思い出した。昔は祭りの夜に花火が上がり、それを見るために家族で集まったものだ。夜の秋の静けさに包まれながら、詩織はその記憶が心に染み込んでくるのを感じた。

「昔はね、この村で花火を上げていたんだよ。」

詩織が話し始めると、航平は興味深そうに耳を傾けた。詩織はその思い出を語りながら、家族と過ごした日々の温かさを感じていた。

「それは素敵だね。今も花火が上がればいいのに。」

航平の言葉に、詩織は小さく笑った。

「そうだね。でも、今はこの静かな秋の夜も悪くないよ。」

そう言って、詩織は秋の空を見上げた。夜が深まるにつれて、稲穂の香りが漂い始める。秋蚊が頬に留まり、詩織はその痒さを感じながら、少しずつ秋の夜に浸っていった。

村に帰る途中、野分(のわき)の風が吹き、尾花が揺れる。詩織はその風に包まれながら、航平と一緒に帰路に就いた。二人の間には言葉は少なかったが、それでも互いの存在が心地よいのを感じていた。

家に帰り着いた詩織は、静かな秋の夜を楽しみながら、お気に入りの窓辺に座った。外にはまだ、蚯蚓の声が響いている。詩織はその音を聞きながら、秋の気を感じ取っていた。思えば、この季節の変わり目にこそ、何か新しいことが始まる予感がする。

「今年の秋は、何かが変わる気がする。」

詩織はそう感じながら、窓から見える尾花の揺れに目を奪われた。その先には、航平との新しい季節が待っているのだろうか。彼女は秋の深まりと共に、少しずつ自分の心が動き始めているのを感じた。

秋の音色が村を包み込み、詩織の心にも新たな旋律が流れていく。それは、彼女がこれまで感じたことのない、穏やかで豊かな秋の調べだった。秋夜に響く蚯蚓の声、天高しの空に揺れる尾花、そのすべてが詩織にとっての新しい季節の始まりを告げていた。


9月7日

濁酒

花野

蚯蚓鳴く

秋蚊

天高し

蓑虫

野分

穴惑い

秋夜

秋の気



だらだら祭

秋刀魚

花火

稲穂

夜の秋

蚯蚓鳴く

秋 

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