季節の織り糸

春秋花壇

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秋に入る

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秋に入る

盆の月が山の端に掛かり、村全体が静寂に包まれていた。川辺には流燈が揺らめき、亡き人々の魂を送る儀式が穏やかに進んでいく。灯籠の光が水面に映り、まるで過ぎ去った時を映す鏡のようだった。

その日の朝、滴り落ちる朝露がとろろの葉を濡らし、畑には秋の気配が漂い始めていた。桜子は縁側に座りながら、遠くから聞こえる蜩の鳴き声に耳を傾けていた。かつてこの家には子供たちの笑い声が響き、夫と共に墓洗ふ日々が続いていたが、今はただ静寂が残るばかりだった。

庭先には糸瓜が伸び、蔓が絡み合いながら幾つもの実をつけていた。その傍らで鬼灯の赤い実が静かに揺れている。桜子はその実を一つ手に取り、ふと夫との思い出に浸った。彼はかつて「帰燕」と呼ばれていた。旅から戻るたびに、彼の背中が大きく、温かく感じられたのを思い出す。

「秋暑し、まだまだ暑いわね…」

桜子は手にした団扇で風を送りながら、縁側で休んでいた。暑さが残るものの、秋の訪れは確実に感じられた。別れ烏が高く鳴き、夏の終わりを告げていたからだ。

盆の夜、桜子はふと「もう一度だけ、あの人に会いたい」と思った。月が高く昇り、米搗バッタが草むらで跳ね回る音が響く。彼女はその音を耳にしながら、庭を歩いていた。弁慶草の花が風に揺れ、涼新たな風が彼女の髪をそっと撫でた。

つくつく法師の鳴き声が静かな夜に響く中、桜子は心の中で亡き夫に語りかけた。

「あなた、今日は盆の月よ。あの頃のように一緒に過ごせたら…」

蓮の花が静かに咲き始め、彼女の心には少しずつ秋の訪れが広がっていった。糸瓜の蔓が夜露に濡れ、季節の移ろいを物語るように光っていた。桜子はその光を見つめながら、静かに祈りを捧げた。

そして、夜が更けると共に、秋に入る季節の息吹を感じた。夏の名残がゆっくりと消え、涼しさが増す中で、桜子の心にも一つの節目が訪れていた。

「秋が来たわね…」

桜子はそう呟きながら、縁側に戻り、再び月を見上げた。その月は静かに村全体を照らし、まるで季節の移ろいを見守るかのように輝いていた。

秋に入るこの夜、桜子は新たな季節に向けて心を整え、過去の思い出を大切にしながら、静かな時間を過ごしていた。彼女にとって、秋の訪れは新たな始まりを告げるものであり、これからも一人で歩んでいくための力を与えてくれるものだった。

その静かな夜、桜子の心には確かに、季節の織り糸が新たに紡がれていた。


流燈

滴り

とろろ



墓洗ふ

糸 瓜

鬼 灯

帰 燕

秋暑し

別れ烏

盆の月

米搗バッタ

弁慶草

涼新た

つくつく法師

蓮の花

糸瓜

秋に入る
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