892 / 1,110
創作
コリントの真実
しおりを挟む
「コリントの真実」
アカイア属州、ギリシャ南部の中心に位置する州都コリント。ここは、商業と信仰が交錯する繁栄の地だった。街中には古代の神々の神殿が建ち並び、活気あふれる市場では異国の品々が行き交う。その一方で、陰に隠れた別の声も存在した。
その声とは、ナザレのイエスを信じる者たちのものだった。彼らは迫害を恐れながらも、人々に新しい希望を語りかけていた。
「主よ、導きをお与えください」
夜の闇の中、密かに集う人々の中心に立って祈るのは、若き信徒ソティリオスだった。彼はこの地で聖パウロから洗礼を受けた一人であり、迫害が激化する中でも信仰を守り続ける者だった。
だが最近、街には危険な噂が広がっていた。
「新しい神を説く異端者がいる。彼らはローマ皇帝を侮辱し、古き神々を冒涜している」
ローマ当局は異端者たちを捕らえようとし、街中を厳しく監視していた。
ある日、ソティリオスは信徒の仲間であるエリニアから一冊の古びた巻物を託された。その巻物にはギリシャ語でこう記されていた。
「Ἡ ἀγάπη μακροθυμεῖ, χρηστεύεται ἡ ἀγάπη· ἡ ἀγάπη οὐ ζηλοῖ, ἡ ἀγάπη οὐ περπερεύεται, οὐ φυσιοῦται」
(愛は忍耐強く、愛は情け深い。愛はねたまず、愛は自慢せず、誇らない。)
「これは何だ?」ソティリオスは驚きながら尋ねた。
「パウロが私たちに残した手紙です。愛についての教えが記されています。この言葉を守り、広めてください。」
エリニアはそう言うと、ソティリオスの手を強く握った。
その夜、コリントの街で信徒たちが密かに集まり祈りを捧げているところを、ローマ兵が襲撃した。エリニアは捕らえられ、他の仲間たちも四散した。ソティリオスは辛うじて逃げ延びたが、エリニアが捕らえられたと知り、胸が張り裂けるような思いだった。
「主よ、なぜ私たちを試されるのですか?」
彼は涙ながらに祈ったが、答えはなかった。
数日後、ソティリオスはエリニアが裁かれる裁判所へと足を運んだ。そこには州総督のガリオが座していた。
「この女は、ローマ皇帝を侮辱し、新しい神を説いた罪により、処刑されるべきだ。」
そう叫ぶ群衆の声が響き渡る中、エリニアは静かに目を閉じ、祈りを捧げていた。
その時、ソティリオスは勇気を振り絞り、群衆を押し分けて進み出た。
「待ってください!」
ガリオは彼を鋭い目で見つめた。
「お前は何者だ?」
「私は彼女の仲間です。そして、私たちが説く神は、皇帝を否定するものではありません。我々の教えは、愛と赦しを説くものです。」
ソティリオスの言葉に、群衆はざわついた。
ガリオはしばらく沈黙し、それから静かに言った。
「この女を釈放しろ。」
その一言に群衆は驚きの声を上げたが、ガリオはそれ以上何も言わず、席を立った。
その後、エリニアは釈放され、ソティリオスと共に信仰を守り続けた。彼らが託されたパウロの手紙は、後に「コリントの信徒への第一の手紙」として知られるようになる。
「Ἡ ἀγάπη οὐδέποτε πίπτει」
(愛は決して滅びることがない。)
その言葉は、迫害の中でも信仰の光を灯し続ける人々の心に刻まれ、永遠に伝えられることとなる。
コリントの街の夕陽は、今もなお、愛と信仰の物語を静かに見守っている。
アカイア属州、ギリシャ南部の中心に位置する州都コリント。ここは、商業と信仰が交錯する繁栄の地だった。街中には古代の神々の神殿が建ち並び、活気あふれる市場では異国の品々が行き交う。その一方で、陰に隠れた別の声も存在した。
その声とは、ナザレのイエスを信じる者たちのものだった。彼らは迫害を恐れながらも、人々に新しい希望を語りかけていた。
「主よ、導きをお与えください」
夜の闇の中、密かに集う人々の中心に立って祈るのは、若き信徒ソティリオスだった。彼はこの地で聖パウロから洗礼を受けた一人であり、迫害が激化する中でも信仰を守り続ける者だった。
だが最近、街には危険な噂が広がっていた。
「新しい神を説く異端者がいる。彼らはローマ皇帝を侮辱し、古き神々を冒涜している」
ローマ当局は異端者たちを捕らえようとし、街中を厳しく監視していた。
ある日、ソティリオスは信徒の仲間であるエリニアから一冊の古びた巻物を託された。その巻物にはギリシャ語でこう記されていた。
「Ἡ ἀγάπη μακροθυμεῖ, χρηστεύεται ἡ ἀγάπη· ἡ ἀγάπη οὐ ζηλοῖ, ἡ ἀγάπη οὐ περπερεύεται, οὐ φυσιοῦται」
(愛は忍耐強く、愛は情け深い。愛はねたまず、愛は自慢せず、誇らない。)
「これは何だ?」ソティリオスは驚きながら尋ねた。
「パウロが私たちに残した手紙です。愛についての教えが記されています。この言葉を守り、広めてください。」
エリニアはそう言うと、ソティリオスの手を強く握った。
その夜、コリントの街で信徒たちが密かに集まり祈りを捧げているところを、ローマ兵が襲撃した。エリニアは捕らえられ、他の仲間たちも四散した。ソティリオスは辛うじて逃げ延びたが、エリニアが捕らえられたと知り、胸が張り裂けるような思いだった。
「主よ、なぜ私たちを試されるのですか?」
彼は涙ながらに祈ったが、答えはなかった。
数日後、ソティリオスはエリニアが裁かれる裁判所へと足を運んだ。そこには州総督のガリオが座していた。
「この女は、ローマ皇帝を侮辱し、新しい神を説いた罪により、処刑されるべきだ。」
そう叫ぶ群衆の声が響き渡る中、エリニアは静かに目を閉じ、祈りを捧げていた。
その時、ソティリオスは勇気を振り絞り、群衆を押し分けて進み出た。
「待ってください!」
ガリオは彼を鋭い目で見つめた。
「お前は何者だ?」
「私は彼女の仲間です。そして、私たちが説く神は、皇帝を否定するものではありません。我々の教えは、愛と赦しを説くものです。」
ソティリオスの言葉に、群衆はざわついた。
ガリオはしばらく沈黙し、それから静かに言った。
「この女を釈放しろ。」
その一言に群衆は驚きの声を上げたが、ガリオはそれ以上何も言わず、席を立った。
その後、エリニアは釈放され、ソティリオスと共に信仰を守り続けた。彼らが託されたパウロの手紙は、後に「コリントの信徒への第一の手紙」として知られるようになる。
「Ἡ ἀγάπη οὐδέποτε πίπτει」
(愛は決して滅びることがない。)
その言葉は、迫害の中でも信仰の光を灯し続ける人々の心に刻まれ、永遠に伝えられることとなる。
コリントの街の夕陽は、今もなお、愛と信仰の物語を静かに見守っている。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
聖書
春秋花壇
現代文学
愛と癒しの御手
疲れ果てた心に触れるとき
主の愛は泉のごとく湧く
涙に濡れた頬をぬぐい
痛む魂を包み込む
ひとすじの信仰が
闇を貫き光となる
「恐れるな、ただ信じよ」
その声に応えるとき
盲いた目は開かれ
重き足は踊り出す
イエスの御手に触れるなら
癒しと平安はそこにある
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる