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光を求む者たち
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「光を求む者たち」
古代ギリシャ、アテネの小高い丘に建つ古びた図書館。その奥深くには、異教の神々の叙事詩に紛れ、一冊の異端の写本が秘匿されていた。その表紙には古代ギリシャ語でこう書かれている。
「Ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ λόγος」
(初めに言葉があった)
この写本は、ローマ帝国によって迫害を受けた初期クリスチャンたちの手によって密かに記されたものだった。神殿の司書だったクレオンは、信仰の光を求める者たちの手からこの写本を預かり、数十年にわたり守り続けていた。
ある日、図書館を訪れたのは旅人の女性、ヒュプシアだった。彼女はローマの地方都市から追放され、アテネへと辿り着いたという。
「司書様、この地に真の神を伝える写本があると聞きました。それを一目だけでも見たいのです。」
クレオンは戸惑いながらも彼女の瞳に宿る切実さに抗えなかった。長年隠し続けた秘文を、今ここで開示するべきか。迷いの中、彼は問いかけた。
「ヒュプシアよ、なぜその真実を求めるのだ?」
彼女は深く息をつき、言った。
「私は信じたいのです。かつての神々が人々を支配するための存在ではなく、愛をもって導く存在がいることを。」
クレオンは静かに頷き、図書館の奥に進むと石板の隙間に隠された写本を取り出した。その一部を開き、朗々と読んだ。
「Καὶ τὸ φῶς ἐν τῇ σκοτίᾳ φαίνει, καὶ ἡ σκοτία αὐτὸ οὐ κατέλαβεν」
(光は闇の中に輝いている。そして、闇はそれを理解しなかった。)
その言葉はまるで生きているかのようにヒュプシアの心に響いた。彼女は泣きながら呟いた。
「光は闇に負けない…これが真の神の言葉なのですね。」
その瞬間、図書館の外で足音が響いた。ローマの兵士たちがこの地の異端を狩るためにやってきたのだ。クレオンは急いで写本を閉じ、ヒュプシアに言った。
「ここを離れなさい。あなたが捕まれば、この真実は永遠に失われる。」
「でも…!」
「心配はいらない。私はこの光を守り続ける。あなたはその光を広めるのだ。」
クレオンはそう言い、ヒュプシアを秘密の抜け道から外へ逃がした。
その後、クレオンはローマ兵に捕らえられたが、写本の隠し場所を最後まで明かさなかった。彼の犠牲によって写本は後世に伝わり、ギリシャ語聖書として人々の手に渡ることとなる。
ヒュプシアもまた、各地を旅しながら光の言葉を伝え続けた。彼女が語る言葉は、人々に新たな希望を与えた。
そして、クレオンが守り抜いた写本の一節は、後にこう語り継がれた。
「Ὁ λόγος σὰρξ ἐγένετο, καὶ ἐσκήνωσεν ἐν ἡμῖν」
(言葉は肉となり、私たちの間に住まわれた。)
クレオンの名は歴史に記されることはなかったが、彼が守った光の言葉は永遠に生き続けた。
アテネの丘に降る夕陽は、今もなお、真実を求める者たちの旅路を優しく照らしている。
古代ギリシャ、アテネの小高い丘に建つ古びた図書館。その奥深くには、異教の神々の叙事詩に紛れ、一冊の異端の写本が秘匿されていた。その表紙には古代ギリシャ語でこう書かれている。
「Ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ λόγος」
(初めに言葉があった)
この写本は、ローマ帝国によって迫害を受けた初期クリスチャンたちの手によって密かに記されたものだった。神殿の司書だったクレオンは、信仰の光を求める者たちの手からこの写本を預かり、数十年にわたり守り続けていた。
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「司書様、この地に真の神を伝える写本があると聞きました。それを一目だけでも見たいのです。」
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「ヒュプシアよ、なぜその真実を求めるのだ?」
彼女は深く息をつき、言った。
「私は信じたいのです。かつての神々が人々を支配するための存在ではなく、愛をもって導く存在がいることを。」
クレオンは静かに頷き、図書館の奥に進むと石板の隙間に隠された写本を取り出した。その一部を開き、朗々と読んだ。
「Καὶ τὸ φῶς ἐν τῇ σκοτίᾳ φαίνει, καὶ ἡ σκοτία αὐτὸ οὐ κατέλαβεν」
(光は闇の中に輝いている。そして、闇はそれを理解しなかった。)
その言葉はまるで生きているかのようにヒュプシアの心に響いた。彼女は泣きながら呟いた。
「光は闇に負けない…これが真の神の言葉なのですね。」
その瞬間、図書館の外で足音が響いた。ローマの兵士たちがこの地の異端を狩るためにやってきたのだ。クレオンは急いで写本を閉じ、ヒュプシアに言った。
「ここを離れなさい。あなたが捕まれば、この真実は永遠に失われる。」
「でも…!」
「心配はいらない。私はこの光を守り続ける。あなたはその光を広めるのだ。」
クレオンはそう言い、ヒュプシアを秘密の抜け道から外へ逃がした。
その後、クレオンはローマ兵に捕らえられたが、写本の隠し場所を最後まで明かさなかった。彼の犠牲によって写本は後世に伝わり、ギリシャ語聖書として人々の手に渡ることとなる。
ヒュプシアもまた、各地を旅しながら光の言葉を伝え続けた。彼女が語る言葉は、人々に新たな希望を与えた。
そして、クレオンが守り抜いた写本の一節は、後にこう語り継がれた。
「Ὁ λόγος σὰρξ ἐγένετο, καὶ ἐσκήνωσεν ἐν ἡμῖν」
(言葉は肉となり、私たちの間に住まわれた。)
クレオンの名は歴史に記されることはなかったが、彼が守った光の言葉は永遠に生き続けた。
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