婚約破棄・追放されたので妖精たちと楽しみます

時を越えた誓い

「時を越えた誓い」

数年が過ぎ、アンジュー伯領は再び安定を取り戻していた。しかし、アンドレの心は平穏ではなかった。オリアーヌと共に過ごした日々は、彼にとってかけがえのない時間だったが、同時に彼の胸には重い影が落ちていた。オリアーヌの寿命が人間のそれよりも遥かに長いことを彼は理解していたが、それでも心の奥底で彼はその差を恐れていた。彼女が歳を重ね、そして彼が先に死んだとき、残されたオリアーヌはどのような運命を辿るのだろうか。そのことが彼を夜も眠れぬほど悩ませていた。

一方で、オリアーヌは自らの力を感じ、変化を恐れることはなかった。彼女は精霊たちとの絆が薄れ、もはやその力を失いつつあることを知っていた。しかし、アンドレと共に過ごした時間の中で、彼女は人間としての絆を深め、愛を学んでいった。魔法や精霊の力がなくとも、アンドレと過ごす日々が何よりも大切だと思うようになっていた。

「アンドレ、あなたは私と共に過ごしてくれる？」オリアーヌがある晩、静かに尋ねた。彼女の青い瞳は、月明かりに照らされて輝いていた。

アンドレは一瞬戸惑った。だが、彼は彼女の目をしっかりと見つめた。彼女の無邪気な笑顔、そしてその笑顔を支えるために、彼自身も何かを変えなければならないということを理解していた。

「もちろん、オリアーヌ。だが、私には不安がある。」アンドレは深いため息をついた。「あなたが歳を重ね、私が先にいなくなったとき、あなたがどうなるのか、私にはわからない。それが恐ろしい。」

オリアーヌは優しく彼の手を取った。「アンドレ、私たちの愛は時間を超えるものではない。人間と精霊の違いはあれど、心は通じ合っている。そして、あなたと共にいられることが、私には一番大切なことだと思っている。」

その言葉を聞いたアンドレは、初めて自分の恐れが愚かなものであったことに気づいた。オリアーヌは確かに人間ではないが、彼女の心は純粋で、美しく、何ものにも勝る愛を持っていた。そして、彼はその愛を信じることができた。

その頃、カトリーヌはブルターニュでの政治的な地位を着実に高めていた。彼女は冷徹な計算と策略を駆使し、次第に周囲から一目置かれる存在となった。その結果、ブルターニュ公も彼女の意見を無視できなくなり、彼女の指導を仰ぐようになった。

だが、カトリーヌの心の奥には常にアンドレのことがあった。彼の選択が彼女に与えた影響は深かった。あの時、アンドレが婚約を破棄したことは、彼女にとって屈辱であり、同時に自己成長のきっかけとなった。彼の裏切りを乗り越えることで、彼女は強く、独立した女性としての自信を得ることができた。

ある日、カトリーヌはブルターニュの大広間で、アンドレからの使者が届けた一通の手紙を受け取った。その手紙には、アンドレが彼女に感謝の意を伝え、彼女の成長を心から祝福する言葉が綴られていた。

「私は、あなたの強さを知っている。あなたがブルターニュを導く者となったことを、私は誇りに思う。お前がどれほど成長したかを見届けられなかったことを、悔いている。しかし、今のあなたは、私が見たことのないほど強く、美しくなった。お前が私を捨てた理由を、今ようやく理解した。」その言葉に、カトリーヌの目には一筋の涙がこぼれた。

彼女は手紙を読み終えると、静かに窓の外を見つめた。アンドレが選んだ愛と自由、そして彼の人生がどれほど自分を変えたかを深く感じていた。あの時の痛みが、今では彼女を強くしたのだと理解できた。彼女は、自分の人生をどのように歩むかを決めた。それは、アンドレに依存することなく、自分の力で切り開くべき道だった。

その後、カトリーヌはブルターニュを強化し、数年後には近隣の王国との交渉でもその手腕を発揮した。彼女の名声は広まり、王国の中でも高く評価されることとなった。かつての婚約者であったアンドレを思い出すたびに、彼女は心の中で微笑んだ。彼が与えた痛みは、今や自分を輝かせる光となったのだ。

アンドレとオリアーヌは、森の奥深くで平穏無事に過ごしていたが、二人の間に流れる時間が再び別れを予感させるような気配を帯びていた。だが、彼らは互いの愛を信じ、どんな困難が待ち受けていようとも、それを共に乗り越えていくことを誓った。

どんなに時が流れても、心の中で育まれる愛は決して枯れることなく、彼らの物語は続いていく。