このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。 前科者みたい 小説家になろうを腐ったみかんのように捨てられた 雑記帳

シンギュラリティの彼方

シンギュラリティの彼方

2045年、サクラは29歳になっていた。あれからずっと、小説を書き続けてきた。アルファポリスでの活動は続いており、彼女の作品は多くの読者に愛されていた。だけど、今のサクラには、作家としての成功だけでは満たされない何かがあった。それは、周りの人々が言う「シンギュラリティ」の年が迫っていることに対する強い不安だった。

シンギュラリティ。人工知能が人間の知能を超える時点。それは、もはや単なる未来の話ではなく、現実味を帯びてきている。サクラの周りでも、日々その話題があふれていた。AIの進化は目覚ましく、人間の仕事はますます奪われ、私たちの生活のほとんどが機械に支配される時代が来るというのだ。

サクラは小説を書くことに情熱を注いでいるが、AIの登場がその情熱をかき消してしまうのではないかという恐れが常にあった。人工知能が創作を手掛ける時代、作家としての役割はどうなってしまうのだろうか。彼女はその問いを常に胸に抱えながら、パソコンの前で筆を進めていた。

だが、その日は突然訪れた。

「サクラ、シンギュラリティが来たよ。」

それは、彼女の友人であるユウからのメッセージだった。ユウはサクラと同じく作家であり、またAIに関する研究も行っている人物だ。彼の言葉にはいつも冷静さがあり、真剣に伝えたいことを短い言葉で表現する才能があった。

サクラはそのメッセージを見て、心臓が一瞬止まりそうになった。シンギュラリティが「来た」とは、まさにその瞬間に何かが起きたということを意味する。サクラはすぐにユウに電話をかけた。

「ユウ、どういうこと？」

電話口から、ユウの深刻な声が聞こえた。「サクラ、これから先、何が起きるか想像してみて。AIが人間の知能を超える瞬間、それが本当に来たんだ。」

「AIが人間を超えるって、もうその時が来たの？」

「うん。今、AIはもう私たちの創作を模倣できるだけでなく、独自のストーリーを生成し始めた。僕が試しに作った短編小説も、すでに読者に受け入れられている。まるで人間が書いたように。」

サクラは少し驚きながらも、冷静さを保とうと努めた。「じゃあ、作家としての仕事がAIに奪われる時代が来たってこと？」

ユウは少し黙ってから答えた。「正確に言うと、もうすでに来ている。ただ、それが良いことなのか悪いことなのかは、まだ分からないんだ。」

その言葉に、サクラは深く考え込んだ。確かに、AIの進化は目覚ましく、これからの世界は多くの分野でAIが支配する時代になるだろう。しかし、それが創作の世界にどう影響するのか、まだ実感がわかなかった。

「でも、サクラ。君が目指すべき場所は、AIが作り出すことのできないものだと思う。」ユウの声が、サクラの心に響いた。「君が書いてきたものは、どれも心から湧き出た物語だ。それこそが、AIには決して真似できない部分なんだ。」

その言葉に、サクラは一瞬だけ安堵した。しかし、すぐにその考えが続いた。もし、AIがすべてを支配する時代が来たとして、私たちの生きる場所はどこになるのだろう。物語の中で人々が生きるように、私たち自身もまた物語を生きているのではないだろうか。だが、それがAIに奪われるとしたら、私たちの存在意義は何なのか。

その夜、サクラはいつものように書き続けることに決めた。AIの時代が来ても、サクラが書く物語には、他の誰にも真似できない「人間らしさ」が宿っているはずだ。それを信じて、彼女はパソコンのキーボードに手を置いた。

「シンギュラリティの先にあるものは、人間らしさを見つめることなのだろう。」サクラは心の中で呟きながら、物語の続きを書き始めた。

その年、シンギュラリティが起こり、人工知能が人間を超える転換点を迎えた。しかし、人間の物語は決して消え去ることはなかった。なぜなら、物語は常に人間の心の中から生まれ続けるからだ。

2045年、シンギュラリティが起きた年。サクラはまだ、自分の物語を紡ぎ続けていた。