このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。 前科者みたい 小説家になろうを腐ったみかんのように捨てられた 雑記帳

モルディブの朝焼け

モルディブの朝焼け

透き通る青い海が広がるモルディブ。ハネムーンを夢見て、この楽園に一生に一度の訪問を決めた彼女、咲良（さくら）は、飛行機の窓から見下ろすエメラルドグリーンの海に心を奪われていた。

到着したのは、小さな水上飛行機でしかアクセスできない一つの島。その島全体がリゾートとなっており、白い砂浜に囲まれたその光景は、まさに「地上の楽園」だった。迎えてくれたのは、親しみやすい笑顔を持つスタッフたち。島全体に漂うのは、リラックスした空気と、どこか非現実的な静けさだった。

「お客様のお部屋は、こちらの水上ヴィラです」

案内されたヴィラは、透き通った海の上に建てられた豪華なコテージ。部屋のデッキからは直接海に飛び込めるようになっていて、咲良はその特別な光景に、思わず息を呑んだ。海の音が優しく耳を包み込み、南国の風がそっと肌に触れる。彼女は、この場所に来た理由がようやく分かった気がした。

しかし、咲良の胸の奥には、解けない疑問があった。彼女は本来、このモルディブ旅行を結婚式の後に、夫と共に来るはずだった。だが、結婚式直前、彼との関係は破局を迎えてしまった。結婚という人生の新たな始まりを夢見ていた彼女は、突然の別れに打ちのめされ、心に深い傷を負った。幸せな未来を信じられなくなり、一時は旅行をキャンセルしようとも考えた。しかし、それでも心のどこかで、この旅が何かを変えてくれるのではないかという微かな期待があった。

モルディブに来た今、咲良は一人でその期待を抱えながら、海に揺れるヴィラのベッドに横たわっていた。リゾートアイランドの贅沢な環境に囲まれ、ここでの時間はゆっくりと流れていく。スタッフの細やかなホスピタリティも、彼女を心地よくさせてくれる。だが、心の奥に抱えた孤独は、簡単には消えてくれなかった。

ある日、咲良は島内のアクティビティとしてシュノーケリングを体験することにした。水中の世界に足を踏み入れると、無数のカラフルな魚たちが彼女の周りを泳いでいた。澄んだ海の中は、まるで別世界で、彼女はその美しさに一瞬息を忘れた。自然の力強さと静けさに触れ、彼女の心も少しずつ癒されていくのを感じた。

「自然の中に身を置くと、何かが解放される気がする……」

その晩、咲良はリゾートのレストランで、一人静かに食事をしていた。周りには、幸せそうなカップルたちの姿があふれていた。ふと、自分もそうなるはずだった未来を思い出し、胸が締め付けられた。

だが、咲良はここである決意を固めた。彼女は、自分のために、この場所に来たのだ。これまで他人に依存しすぎていた自分に気づき、自分自身の力で立ち直る必要があると感じた。このモルディブという楽園は、彼女にそのことを教えてくれたのだ。

咲良は翌日、島のスタッフに相談し、モルディブの他のリゾートを訪問することを提案された。彼女は、地元を熟知したスタッフにアドバイスを受けながら、他の島を巡り、それぞれ異なる魅力を持つリゾートを見学して回った。訪れる島々ごとに違う美しさと静けさがあり、彼女は自分の心の中のもやもやが、少しずつ晴れていくのを感じた。

「この場所は、誰かと来るためのものじゃない。自分自身を見つめ直すための場所なんだ」

帰国の日、咲良はスーツケースを持ちながら、水上飛行機に乗り込んだ。彼女はもう以前の自分ではなかった。傷つき、絶望していた心は、このモルディブの美しい海と島々で少しずつ癒され、強くなっていた。

「一生に一度は訪れたい地上の楽園……本当にその通りだったわ」

そう心の中でつぶやきながら、咲良は新たな一歩を踏み出す準備をしていた。