このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。 前科者みたい 小説家になろうを腐ったみかんのように捨てられた 雑記帳

見慣れた街の新しい風景

「見慣れた街の新しい風景」

秋乃がコンビニに入ったのは、21時を少し過ぎた頃だった。仕事を終え、いつものように家に帰る途中に立ち寄るのが日課だ。今日は少し急いでいた。財布の中の電子マネーの残高が少なくなっていることに気づき、チャージが必要だったのだ。店内は仕事帰りのサラリーマンや学生たちで混み合っており、レジの前には長い行列ができていた。

「どうぞ」と促され、秋乃はレジの前に進んだ。店員は名札に「そう」と書かれた若い男性だった。名札には「トレーニング中」との文字もあり、まだ慣れていないのだろうとすぐに察した。

「カードにチャージお願いします」と秋乃が言うと、そうさんは一瞬戸惑った様子で「チャージですね」と確認した。そうさんはそのままレジの操作を始めたが、手つきがぎこちなく、明らかに不慣れな様子だった。画面を何度も見返し、操作がスムーズに進まないのが見て取れた。

しばらくすると、そうさんは困ったように後ろにいる先輩店員に助けを求めた。「すみません、チャージのやり方がわからなくて...」と、そうさんは小声で伝えた。先輩は忙しそうにレジ周りを片付けながら、「ちょっと待ってて」と言ってすぐにその場を離れてしまった。

列は長くなる一方で、後ろの人たちの視線が秋乃とそうさんに集まる。秋乃は焦るそうさんを見つめながら、彼の不安そうな表情に気づいた。彼の手は微かに震えていた。

秋乃はふと、そうさんに尋ねた。「台湾の方ですか？」と。そうさんは驚いたように顔を上げ、うんうんとうなずいた。その様子は言葉が通じない不安や焦りを表していた。秋乃は心の中で「がんばって」と祈るような気持ちで彼の動きを見守った。

やがて、先輩店員が戻ってきて、そうさんに操作方法を教えてくれた。秋乃はそれを静かに見守りながら、こうした状況において何かできることはないかと考えた。しかし、言葉をかける以上に彼の成長を信じて待つことしかできなかった。

ようやくチャージの操作が無事に完了し、そうさんは安堵の表情を浮かべた。「ごめんなさいね」と申し訳なさそうに頭を下げた彼の目には、少しの達成感が宿っていた。その表情を見た瞬間、秋乃は彼の努力とその背後にあるストーリーを感じ取った。

秋乃は優しく微笑んで「大丈夫ですよ。ありがとうございます」と伝えた。そうさんの表情は一瞬で明るくなり、彼は「ありがとうございます」と感謝の気持ちを込めてもう一度頭を下げた。

コンビニを出た秋乃は、冷たい夜風に頬を撫でられながら歩き始めた。見慣れた街の景色も、そうさんのような新しい風が吹き込むことで少しずつ変わっているのだろうと感じた。この町では最近、外国から来た人たちをよく見かけるようになった。最初は少し戸惑いもあったが、今ではそれが日常の一部となりつつある。

秋乃の心には、そうさんの不器用ながらも懸命に仕事をこなそうとする姿が鮮明に残っていた。新しい環境に飛び込んで頑張る彼らの姿は、かつて自分が新しい職場で奮闘していた頃の記憶を呼び覚ました。何度も失敗し、周囲の視線が気になっていたあの頃、自分を信じてくれる人がいたことがどれだけ心強かったか。

「この町はびっくりするくらい、外国からの人が増えていく。」秋乃は改めてそう感じた。多様な人々が行き交うこの街で、自分もまた一歩ずつ歩んでいるのだと思った。

ふと、秋乃の足が止まる。見上げた空には薄い雲がかかり、街灯がぼんやりと光を投げかけていた。その光の中で秋乃は小さく息を吸い込んで、また一歩前に進む。この街にはたくさんの物語があって、そうさんのように不器用でも一生懸命に生きる人たちがいる。それを受け入れ、共に歩んでいくことが、この町の新しい風景を作り上げるのだろう。

秋乃は、これからも見慣れた街の中で、新しい風景を探し続けていこうと心に決めた。そして、そうさんのように頑張る人たちに出会ったら、少しでも心の支えになれたらと願った。どんなに小さな一言でも、相手の心に届くことがあるのだから。