このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。 前科者みたい 小説家になろうを腐ったみかんのように捨てられた 雑記帳

夏の訪れ

夏の訪れ

夏の盛り、梅雨が明け、太陽が照りつける季節がやってきた。小さな町の古びた商店街には、涼を求める人々が行き交っていた。商店街の一角にある和菓子店「花月堂」の店先では、主人の隆一がせっせと冷たいかき氷を作っていた。店内は冷房が効いているが、店外は炎天下の暑さに包まれている。

「いらっしゃいませ！」

隆一の声が響く中、常連客の美穂が店に入ってきた。美穂は町の図書館で働く女性で、仕事帰りによくこの店に立ち寄る。

「こんにちは、隆一さん。今日も暑いですね。」

美穂は汗を拭いながらカウンターに座る。隆一はにこやかに頷きながら、冷たい麦茶を差し出した。

「ほんとに、毎日暑くて参っちゃうよ。でも、こういう時期にこそ冷たいかき氷が喜ばれるんだ。」

隆一はそう言いながら、手際よくかき氷を作り始めた。美穂はその様子をじっと見つめながら、ふと幼い頃の記憶が蘇った。

思い出の夏
美穂がまだ小学生だった頃、毎年夏休みになると家族でこの商店街に遊びに来たものだった。特に楽しみだったのは、「花月堂」のかき氷だ。父親が買ってくれる大きなかき氷を、兄弟と一緒に食べた記憶が鮮明に残っている。

「美穂ちゃん、何を思い出してるの？」

隆一の問いかけに、美穂ははっと我に返った。

「あ、ごめんなさい。子供の頃のことを思い出してました。ここに来るのが毎年の楽しみで…」

「それは嬉しいね。美穂ちゃんが大人になってもこうして来てくれるなんて、僕も感慨深いよ。」

隆一は微笑みながら、完成したかき氷を美穂の前に置いた。氷の上には、たっぷりと練乳がかけられ、いちごのシロップが鮮やかに光っている。

涼やかなひととき
美穂はスプーンを手に取り、ひと口食べた。口の中に広がる冷たさと甘さが、暑さを忘れさせてくれる。額に浮かんだ汗も、ひんやりとしたかき氷によって次第に引いていくようだった。

「やっぱり、ここのかき氷は最高ですね。」

美穂は満足そうに微笑み、再びかき氷にスプーンを入れた。隆一はその様子を見て、ふと一つのアイデアが浮かんだ。

「そうだ、美穂ちゃん。来週の土曜日、商店街で夏祭りがあるんだけど、手伝ってくれないかい？」

「え、夏祭りですか？」

美穂は驚いた様子で聞き返した。

「そうなんだ。今年は花月堂もかき氷の屋台を出す予定なんだけど、人手が足りなくてね。美穂ちゃんが手伝ってくれたら、すごく助かるんだけど。」

隆一の頼みを受け、美穂はしばらく考えた後、頷いた。

「わかりました。お手伝いします！」

夏祭りの夜
夏祭りの当日、商店街は提灯や屋台で賑わいを見せていた。美穂は花月堂の屋台で、隆一と一緒にかき氷を作りながら、訪れる客たちと楽しげに会話を交わしていた。

「美穂ちゃん、ありがとうね。君のおかげで今日は大成功だよ。」

隆一は感謝の言葉を口にしながら、美穂に冷たいラムネを手渡した。美穂は汗を拭いながら、ラムネの瓶を受け取り、爽やかな味わいを楽しんだ。

「こちらこそ、楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます。」

夏の夜風が心地よく、祭りの喧騒もどこか懐かしい。美穂はふと、商店街の入り口にある大きな時計を見上げた。針はもうすぐ夜の9時を指そうとしている。

「そろそろ帰らなくちゃ…でも、また来ますね。」

美穂は微笑みながら手を振り、隆一もそれに応えた。

「いつでも待ってるよ。気をつけて帰ってね。」

美穂は商店街を後にし、夜道を歩きながら、したたり落ちる汗とともに夏の思い出を胸に刻んだ。そして、この町が持つ温かさと人々の絆を改めて感じるのだった。