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トンネルの中で

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トンネルの中で

その日、僕たちはいつものように放課後の校庭を抜け、山へ向かって歩いていた。秋風が肌寒く感じられる午後、空は薄暗く、まるで何かを予感させるような曇り空だった。友人の健二と僕は、話しながら歩いていると、ふと目の前に古びたトンネルが現れた。

「行ってみようか?」健二は興奮気味に言った。僕たちは、そのトンネルがどこに続いているのか全く知らなかったが、その未知への興味が僕たちを引きつけた。

トンネルの中は暗く、ひんやりとした空気が流れていた。足音が反響し、何度も壁にぶつかって戻ってくる。突然、健二が声を上げた。

「あゝ淋しいなア。」その声はトンネル内で大きく響き、僕の心にも深く染み渡った。健二は快活に叫んで僕の肩に腕を投げた。その瞬間、僕にも妙な遣瀬ない気持ちが浮かび上がってきた。普段はあまり感じない感情だったが、この暗闇の中では自然に受け入れられた。

「何だか、変な気分だな。」僕は健二の腕を感じながら言った。彼の腕は温かく、心地よい重みを感じた。僕たちはそのまま、肩を寄せ合いながら歩き続けた。

しばらく進むと、トンネルの出口が見えてきた。光が少しずつ差し込んでくるのを見て、僕たちは無意識に足を早めた。しかし、出口に近づくと同時に、僕たちの心には別れの予感が漂い始めた。

外に出ると、夕陽が赤く染まり始めていた。山々のシルエットが美しく映え、その光景は一瞬、僕たちを現実から切り離したかのようだった。健二は肩を下ろし、僕から少し離れた。

「こんなところがあったんだな。」健二は呟くように言った。

「そうだね。でも、ちょっと淋しかったな。」僕も答えた。

「また来ようよ、ここに。」健二の目は、どこか遠くを見ているようだった。僕はうなずき、彼と共にまた歩き出した。

その後、僕たちは何度もあのトンネルに足を運んだ。学校帰りや休日、季節ごとに表情を変えるその場所は、僕たちにとって特別な場所となった。トンネルの中で感じる淋しさと、そこから出た時の解放感は、僕たちの友情をさらに深めていった。

ある日、いつものようにトンネルを訪れた僕たちは、出口に着いた時に不思議な現象に気付いた。夕陽が差し込む光が、まるで道しるべのように僕たちの足元を照らしていた。健二はその光景に目を細め、静かに言った。

「この光は、僕たちの未来を照らしているのかもしれないな。」

僕はその言葉に深く頷き、健二の肩に手を置いた。彼の肩越しに見る光景は、何か新しい希望を感じさせた。僕たちはそのまま、夕陽が沈むまでその場に立ち尽くした。

時が経つにつれて、僕たちはそれぞれの道を歩むことになった。健二は遠くの大学へ進学し、僕は地元に残ることにした。それでも、あのトンネルは僕たちの心の中にいつまでも残り続けた。

ある年の秋、僕は久しぶりに健二と再会することになった。彼は変わらず快活で、その笑顔は昔のままだった。僕たちは再びあのトンネルを訪れた。

トンネルの中は、以前と変わらずひんやりとしていたが、どこか懐かしさが溢れていた。健二は僕の肩に腕を投げ、「あゝ淋しいなア。」と叫んだ。

僕たちは笑い合いながら、そのままトンネルを歩いた。出口に差し掛かると、再び夕陽が僕たちを迎えてくれた。

「この光を忘れないでいよう。」健二は静かに言った。

「そうだね。いつでも戻ってこれる場所だ。」僕は答えた。

僕たちはその夕陽を背に、新たな道を歩み始めた。あのトンネルは、僕たちの心の中で永遠に輝き続ける。淋しさも、希望も、全てを抱えて僕たちは前へ進むのだ。

それは、僕たちの青春の象徴であり、これからの未来を照らす光でもあった。








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