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食いつく死刑の末路

「おいっ、冒頭からどういう変換してるんだよ」

今日の俺はすこぶる機嫌が悪い。

大好きな彼女に「奇妙なもの」でも見るような目で見られたからだ。

俺は一人子の金持ちのボンボンではない。

そして、野放図に放任されて育ったわけでもない。

結構、ご飯の時間に親から叱られたり注意されたり

「食事は命を頂くのだから…」

と、食育なるものをされてきたと思う。

外食に行って、食べれないほど注文することもない。

なのに、なのにだ。

「食いつく死刑」

またか、

「食いつくし系」

と、彼女の口からボソッとこぼれた言葉が俺を奈落へと運んでいく。

最近、週末は俺のマンションで一緒に過ごすことが多かった。

このままいけば、来月あたり、高級レストランでサプライズ。

ああ、その前に彼女の指輪のサイズはどうすればわかるんだろう?

な~んて、空想して、一人ニマニマしてたりもする。


それは些細なことだった。

トマトが大好きで、普段一人で暮らしている俺は誰かが一緒に今日一緒にいることも忘れて

1箱のトマトをぺろりと平らげたりしてしまうことがある。

一人でいるなら、お財布にも優しいし、それほど困った出来事では無かった。

彼女もトマトが大好きみたいで、お風呂上りに食べようと楽しみにしていたそうだ。

なのに、冷蔵庫を開けたら箱入りのトマトは残り2つになっていた。

その途端、冷蔵庫を開けたまま、目が魚の死んだような生気のない色に変わり、

「食いつく死刑」

と、のたまわったのだ。

まるで、俺に生きている資格なんてないみたいに。

異星人と暮らしているみたいに。

その瞬間から、彼女の言葉がまるで外国語をしゃぺっているかのように

俺には全く理解できなくなった。

トマトくらいまた買いに行けばいいじゃないか。

徒歩でも5分もかからない。


「ああ、俺がおかしいのか?」


その日以来、一切の固形物を口にすることができなくなった。

食べても吐いてしまう。

『拒食嘔吐』

と診断された。

あれから彼女は毎日俺を心配して、

「ねぇ―お願いだから、一口でいいから食べて?」

「あなたの大好きなトマトよ」

「オニオンスープを作ってみたの。口に合うといいのだけど…」

ユーチューブの動画では、さも鬼の首でも取ったかのように

食いつくし系の動画が上がっていて、

無神経で自己主張が強く、どうしようもないやつのように扱われている。

だけど俺のように、そんな風に周りから評価されていることへの恐れで

おもゆさえ口にできなくなる奴もいるんだよな~♪


会食恐怖症(Deipnophobia)は、

社交場で食事をすることに強い不安や恐怖を感じることを指します。

人前で食事をすることに対して過剰に緊張し、食べ物がのどに詰まったり、

口からこぼしたりするのではないかという不安感や、

自分が周囲から嫌われたり笑われたりするのではないかという

恐怖感がある状態。

わいわいがやがや

何の罪悪感もなく、みんなで頬張れたバーベキューが懐かしい。



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