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水鏡之人
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わたしは高橋 恵子(27歳)
大手の保険会社に勤めているCFPである。
年収は新型感染症の影響を受けて、1000万を切ってしまった。
何とか、這い上がらないと……。
わたしは内心、焦っていた。
「商品を売るな」がセールスの鉄則なのに、
前のように何度も出かけてお客様の関心を気づけない。
それだけ、かけている時間も心遣いも少ないという事なのだろう。
どんな状況にあっても、営業成績を着実に伸ばしている人はいる。
どんな方法で、どんな時間の使い方をすればそれが可能なのか
ヒントさえつかめないでいる。
「雨の日ばかりじゃない」
と、ポジティブに考えようとするのだが、無い袖は振れない。
今日は土曜日で、仕事から離れてリフレッシュする事にする。
ぶらぶらとウインドウショッピングも楽しそう。
わたしの家の傍に素敵な手作りの小物を売っている店がある。
お客様へのプレゼント用に少し買ってくるのも悪くない。
店の中に入ると、着物の生地で出来たマスクや、きらびやかな栞、
あでやかな花柄のティーカップとスプーン。
ドライフラワー。綺麗に絵付けされた風鈴。
所狭しと様々なものが置かれている。
江戸小紋の麻の葉や青海波のマスクを何枚か購入した。
お誕生日やご紹介を頂いた方への手土産にいいかなと思ったからだ。
ゴシックや中世ヨーロッパの貴族が使いそうな手鏡、小物入れなど
雅やかな陳列台のそばに
いぶし銀の姿見があった。
「これ、おいくらなんですか」
「これ、非売品なんですよね」
店主とは一緒にお酒を飲みに行ったりする仲なので、
ちょっと我儘をいってみる事にする。
「うーん、欲しいんだけどな」
ちょっと拗ねてみせる。
「恵子ちゃんにはかなわないな」
「100万と言いたいところだけど、80万でどうです」
「了解、ぴっ」
「その鏡、魔法の鏡なんですよ」
「え、どうして?」
「ないしょ」
店主は、いたずらっこのように少し意地悪そうに笑った。
カードで精算を済ませ、家まで運んでもらった。
玄関に置くつもりなのだ。
鏡の大きさは、1メートル。
身長の2分の1の長さが必要なので、
多少、背の高い人でもこれなら平気よね。
鏡と言えば、白雪姫の魔法の鏡。
「世界で一番美しいのはだーれ」
っていうやつ。
うーん、後は何だろう。
雪の女王(悪魔の鏡の欠片)
古事記の天岩戸開きの話(天照大神の顔を映した鏡)
ハリー・ポッター(一番強い望みを映す鏡)
いろいろあるのね。
私の魔法の鏡はどんなだろう。
通常の鏡なら、4.5万だよね。
80万てなんなんだろう。
わたしは期待でわくわくしながら設置してもらった鏡をそっと覗き込む。
確かに明るくて肌の色も綺麗に見える。
台所の流しの前に設置された鏡と比べてみる。
そうね、数倍、綺麗に見える。
でも、それだけで80万?
7月は各社、保険月で通常の4倍の保険高、件数の仕事を目標にする。
何時もならどうってことない数字のはずなのに、
本当に悲しいくらい、新型感染症の影響をわたしは受けている。
人と会うことが、人とお話しする事が、とっても悪い事をしているような
感覚に襲われてしまうのだ。
たぶんね、それはわたしの思い込み。
でもね、東京オリンピックを1週間後に控えても尚、
留まる事を知らない感染者数が重く心に垂れこめてしまうのだ。
もしも、いったん感染者のレッテルを張られたら
わたしは、完治しても大手を振って人と会う事が
出来なくなるんじゃないかと懸念している。
人への畏れなのかしら。
それが証拠に、この前近くに住んでいる家族と
ひさしぶりにラーメンを食べに行ったとき、
食べ終わっていつもなら談笑するのに
人が少し入って来て、混んで来たら
どちらからともなく、
「帰ろう」
って追い立てられるように出てきてしまった。
3密避けて、生命の危機を何となく肌で感じているという感じ。
いずれにしても、この得体のしれない鏡が
解決のための糸口になればとっても嬉しいんだけど……。
営業職に求められるストレス耐性能力
ストレスをため込まないよう意識し、健全なメンタルを保つよう工夫するスキル
まずはここからだよね。
さあ、鏡の前に立ってみよう。
自分の心の声に耳を傾けるんだ。
自己分析や振り返る癖をつけるんだ。
岩手県の感染者数0の時の一人目になったらの話が
トラウマになっているのは解っている。
手洗い、うがい励行、マスクの着用。
気を付けていても病気になる時はなるんだろうけど。
鏡の向こうのわたしに一生懸命話しかけてる。
ジーとみてると鏡の私は笑ってる。
「ええええええええええええ」
しかもとても品のいい穏やかな笑顔。
とっても優しそうに見える。
「?」
明るいさわやかな笑顔。
他の人がソバに居たいと思うような素敵な笑顔。
わたしは、今見た姿見の笑顔をイメージして
台所の鏡に笑顔の練習をする。
目線、口角の上げ方。
細かにチェックして、出来るだけ同じように。
BGMはショパンのノクターン第2番変ホ長調。
ゆっくりと深呼吸しながら心が洗われていくイメージ。
コミュニケーション能力・交渉力
ヒアリング力・傾聴力
課題発見力
トラブル対応力
ストレス耐性能力
大丈夫。
私は運がいい人なんだから。
ゆっくりと変わっていく。
成長していく。
素敵な笑顔の鏡。
この鏡を高いと感じるか安いと感じるかは
わたし次第なのよね。きっと。
ありがとうございます。
大手の保険会社に勤めているCFPである。
年収は新型感染症の影響を受けて、1000万を切ってしまった。
何とか、這い上がらないと……。
わたしは内心、焦っていた。
「商品を売るな」がセールスの鉄則なのに、
前のように何度も出かけてお客様の関心を気づけない。
それだけ、かけている時間も心遣いも少ないという事なのだろう。
どんな状況にあっても、営業成績を着実に伸ばしている人はいる。
どんな方法で、どんな時間の使い方をすればそれが可能なのか
ヒントさえつかめないでいる。
「雨の日ばかりじゃない」
と、ポジティブに考えようとするのだが、無い袖は振れない。
今日は土曜日で、仕事から離れてリフレッシュする事にする。
ぶらぶらとウインドウショッピングも楽しそう。
わたしの家の傍に素敵な手作りの小物を売っている店がある。
お客様へのプレゼント用に少し買ってくるのも悪くない。
店の中に入ると、着物の生地で出来たマスクや、きらびやかな栞、
あでやかな花柄のティーカップとスプーン。
ドライフラワー。綺麗に絵付けされた風鈴。
所狭しと様々なものが置かれている。
江戸小紋の麻の葉や青海波のマスクを何枚か購入した。
お誕生日やご紹介を頂いた方への手土産にいいかなと思ったからだ。
ゴシックや中世ヨーロッパの貴族が使いそうな手鏡、小物入れなど
雅やかな陳列台のそばに
いぶし銀の姿見があった。
「これ、おいくらなんですか」
「これ、非売品なんですよね」
店主とは一緒にお酒を飲みに行ったりする仲なので、
ちょっと我儘をいってみる事にする。
「うーん、欲しいんだけどな」
ちょっと拗ねてみせる。
「恵子ちゃんにはかなわないな」
「100万と言いたいところだけど、80万でどうです」
「了解、ぴっ」
「その鏡、魔法の鏡なんですよ」
「え、どうして?」
「ないしょ」
店主は、いたずらっこのように少し意地悪そうに笑った。
カードで精算を済ませ、家まで運んでもらった。
玄関に置くつもりなのだ。
鏡の大きさは、1メートル。
身長の2分の1の長さが必要なので、
多少、背の高い人でもこれなら平気よね。
鏡と言えば、白雪姫の魔法の鏡。
「世界で一番美しいのはだーれ」
っていうやつ。
うーん、後は何だろう。
雪の女王(悪魔の鏡の欠片)
古事記の天岩戸開きの話(天照大神の顔を映した鏡)
ハリー・ポッター(一番強い望みを映す鏡)
いろいろあるのね。
私の魔法の鏡はどんなだろう。
通常の鏡なら、4.5万だよね。
80万てなんなんだろう。
わたしは期待でわくわくしながら設置してもらった鏡をそっと覗き込む。
確かに明るくて肌の色も綺麗に見える。
台所の流しの前に設置された鏡と比べてみる。
そうね、数倍、綺麗に見える。
でも、それだけで80万?
7月は各社、保険月で通常の4倍の保険高、件数の仕事を目標にする。
何時もならどうってことない数字のはずなのに、
本当に悲しいくらい、新型感染症の影響をわたしは受けている。
人と会うことが、人とお話しする事が、とっても悪い事をしているような
感覚に襲われてしまうのだ。
たぶんね、それはわたしの思い込み。
でもね、東京オリンピックを1週間後に控えても尚、
留まる事を知らない感染者数が重く心に垂れこめてしまうのだ。
もしも、いったん感染者のレッテルを張られたら
わたしは、完治しても大手を振って人と会う事が
出来なくなるんじゃないかと懸念している。
人への畏れなのかしら。
それが証拠に、この前近くに住んでいる家族と
ひさしぶりにラーメンを食べに行ったとき、
食べ終わっていつもなら談笑するのに
人が少し入って来て、混んで来たら
どちらからともなく、
「帰ろう」
って追い立てられるように出てきてしまった。
3密避けて、生命の危機を何となく肌で感じているという感じ。
いずれにしても、この得体のしれない鏡が
解決のための糸口になればとっても嬉しいんだけど……。
営業職に求められるストレス耐性能力
ストレスをため込まないよう意識し、健全なメンタルを保つよう工夫するスキル
まずはここからだよね。
さあ、鏡の前に立ってみよう。
自分の心の声に耳を傾けるんだ。
自己分析や振り返る癖をつけるんだ。
岩手県の感染者数0の時の一人目になったらの話が
トラウマになっているのは解っている。
手洗い、うがい励行、マスクの着用。
気を付けていても病気になる時はなるんだろうけど。
鏡の向こうのわたしに一生懸命話しかけてる。
ジーとみてると鏡の私は笑ってる。
「ええええええええええええ」
しかもとても品のいい穏やかな笑顔。
とっても優しそうに見える。
「?」
明るいさわやかな笑顔。
他の人がソバに居たいと思うような素敵な笑顔。
わたしは、今見た姿見の笑顔をイメージして
台所の鏡に笑顔の練習をする。
目線、口角の上げ方。
細かにチェックして、出来るだけ同じように。
BGMはショパンのノクターン第2番変ホ長調。
ゆっくりと深呼吸しながら心が洗われていくイメージ。
コミュニケーション能力・交渉力
ヒアリング力・傾聴力
課題発見力
トラブル対応力
ストレス耐性能力
大丈夫。
私は運がいい人なんだから。
ゆっくりと変わっていく。
成長していく。
素敵な笑顔の鏡。
この鏡を高いと感じるか安いと感じるかは
わたし次第なのよね。きっと。
ありがとうございます。
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